ありきたりな話

うめさわ

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遺書

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 私はここで初めてまともな教育を受けた子供のなかの1人である。当時教育を受けることができると聞いて私は大いに喜んだ。一生懸命に勉強をしたことを覚えている。今思うとこの時の教育は改革に向けた教育という色が強かった。
 この状況はよくない、という教育をされた。他の状況を知らない状態で現状を否定されたのだ。疲弊していた子供たちにとってそれはとても刺さるものだった。そんな状況で繰り返された「改革」という言葉。改革をすればこの状況が変わるのならば今すぐにでも、子供の我々に我慢などできなかった。教育を受けている私たちには知恵があるものと勘違いしていた。知恵が何なのかすらもまともに理解できていなかったのに。
 子供たちで作戦を考えることが増えた。大した作戦でもなく、また情報を隠すこともほとんどしていなかった。統治者は全て知っていたのだろう。
 我々の作戦、そして戦いはあっけなく終わった。統治者の顔すら見ることはできなかった。知恵のない私たちと知恵も力もある統治者の軍と。何一つとして勝てるところはなかった。これに関わったものはほとんど殺された。私と私の親と、それをそそのかした旅人のみが生き残った。
 君たちがまともな教育を受けられないのは私たちが我慢できなかったせいだ。教育に関する活動を制限された君たちがここを変えることは不可能だろう。戦ってはいけない。逃げなさい。何としてでも逃げ切りなさい。水さえあれば一週間は生き延びることができる。少しの食料と水を持って別の場所へ。

 ここの民衆の未来を奪ったのは私たちだ。申し訳ない。



 私は家の地下室の奥で遺書を見つけた。どうやら私の祖父のもののようだった。祖父の心配するような未来は来ていない。ここらで一番の老人が昔のことをよく話してくれたのでだいたいのことは知っていた。祖父がそれに関わっていたとは知らなかったが。
 祖父の亡くなったあとに勇ましい人が現れ統治者を倒した。その勇ましい人が今は統治者として君臨している。彼は全ての人の権利を尊重してくれる良い統治者だ。しかし、そんな彼も高齢のためもうすぐ新しい統治者に変わるようだ。
 次の統治者はおそらく彼の息子だろう。あまりいい噂は聞かないがそうするしかないとみんなが思い込んでいる。なんたってあの勇ましい人には莫大な恩があるのだから。ここの民衆はずっと変わってないのだ。昔からよそ者に頼らなければなにもできない人々なのだ。勇ましい人による変化などあってないようなものだ。自らの力で権利を奪い返してこそ改革なのだ。勇ましい人の力は私たちの力ではない。それを勘違いしているのだ。もっと根本的に変えなければいけない。私は立ち上がる決意をした。
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