せんろ

うめさわ

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線路

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長い長い線路の上に立っていた。果てのないこの線路の上をずっと進んでいく。
いや、今想像したよりは短い。
果てがないのは環形であるためだ。
列車が来たら轢かれてしまうのでは、と思われた方もいるだろう。が、安心して欲しい。ここはすでに廃線となり、もうしばらく列車は通っていない。
ここを延々とぐるぐるするのが私の楽しみだ。
私のような幼い狸の足では1周するだけでも相当の時間がかかる。
いや、今想像したよりは短い。
線路の脇には私の食べ物や飲み物が置いてあるので食べるのには困らなかった。
人間はなぜかわからないが線路の脇に食べ物飲み物を置いていく。
いつかとって食われるぞ、と狐に言われたが、私を取るのならもっと簡単な方法があるだろうと思っていた。

ある時ついに人間に会ってしまった。その人間は鉄砲を持っていた。
ついに仙波山の狸になると思った。
その人間は大きな声でパンッと叫んだ。
慌てて死んだふりをする。
人間が近づいてきて私に言った。
だから言っただろう。そのうち人間にとって食われると。
狐が人間に化けていたようだ。
私のことを心配してやってくれたらしい。
ここまでやってくれたのに無視をするわけにもいかず、線路を歩くのはやめた。
私も唯一の友人を失いたくないんだ。もうこの辺りで生き残ってるのは私と君だけなんだから。
狐はそう言って寂しそうな舌をこちらに向けた。

数年が経った。久々に線路を歩いていると何やら人間の群れが見えた。
人間はここが廃線になった理由を話していた。
もう廃線になって半世紀が経ちましたが、あの時の悲惨な出来事は忘れてはいけません。列車の暴走により何名もの尊い命が犠牲になったのです。
食べ物は私たちへの罠ではなかったようだ。
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