小鳥の足跡

うめさわ

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雨水

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先生、私はこんな夢を見ました。

道を歩いていると一本の木が生えているんです。この道がどこだかはよくわかりませんでしたが、その木は私が幼い頃住んでいた家の近くに生えていた木でした。
その木には鳥が巣を作っていました。現実のその木には鳥が止まっているのを見たことはありませんでしたが。その巣には小鳥が二羽と卵が一つありました。私がそれを見ていると、卵がことこと動くんです。もうすぐ孵化するのかと思ったのですが、なかなか出てこないんです。
しばらく見ていると親鳥らしい鳥が帰ってきました。その鳥は巣の上でゆっくりと3回まわって降りてきました。そして動く卵を見るとそれを巣から落としてしまったのです。
卵は地面に落ちるとくしゃんと音を立てて割れてしまいました。じっと見ていると、その割れた卵からゆっくりと芽が出てきました。その芽はぐんぐんと育ち、やがて巣のところまで成長しました。芽は巣を持ち上げ、中の鳥を全て殺してしまいました。そして私にこう伝えました。

東へ行ってはいけません。絶対にです。ここから東へ3里ほどもいくと菜の花畑があります。そこには恐ろしい恐ろしい、人喰いがましらんかえがいるでしょう。
たしかに、その木から東の方へしばらく行くと畑がありました。でも、それは菜の花ではなくひまわりの畑だったと思うのです。
そういえば私は幼い頃、そのひまわり畑でいがらやまたを見ました。小さい子どものいがらやまたでした。それを追いかけていると親でしょうか、大きないがらやまたが襲ってきました。立ち上がれば7尺ほどはあるったかと思います。
私はそのがましらんかえが私のことを食べるかを聞きました。
いいえ、あなたのことは食べません。でも、私のことを食べるのです。私はもうしばらく生きていたいのでどうぞ東へは行かないでください。

私は芽の言う通りにすることにしました。反対側の西へ行くことにしました。方位磁針を見ると針は北を指していました。針の刺す方から右へ90度回った方向、つまり西へ私は歩き始めました。
西へ西へ歩いていると芽の言っていた菜の花の畑につきました。菜の花の中にひとつひまわりが咲いていました。やはり空は気持ちがいいんです。腰の辺りに力を入れると上へ、力を抜くと下へ自由自在に飛ぶことができました。するとさっきの親鳥らしい鳥が飛んできました。その鳥は私のことをつつくのです。
私は鳥を払おうと手を振るのですが、その手はなかなか鳥には当たりませんでした。鳥は私が鳥のところへ手を動かすうちに、移動しながら2回か3回私のことを突きました。やっと手が当たったのですが、鳥は息を吹きかけられたくらいにしか思っていないようでした。

右手には右手を左手には左手を差し出さなければ握手にはなりません。足ならなおさらのことです。山を越えるために手は必要ですが腰は必要ありません。腰だけ取り外して右目を差し出せば明日の彼方に日は通るのです。

扇風機の音に目を覚ますと壁が倒れてきました。慌てて左の壁から右の壁に飛び移ると中からイソギンチャクの大群がこれでもかというほどクマノミを隠していました。クマノミの後ろを作るように歩いていると世が明けてくるのをかんじました。
やっぱり目を覚ますのです。どうしても出かけなければいけないのです。仕方なく自動二輪に跨りました。持ち手を軽く回すとすっと前へ進み始めます。
ところで、私はバイクの免許をもってませんので、公道で自動二輪の類を運転するとなりますと、警察に見られないように気をつけなければいけません。警察に見られても構わないのですが、話しかけられ、免許の確認をされるようなことは絶対に避けなければいけないのです。ですが、制動装置の効きが悪く、思うように止まりません。どれだけ強く握ろうとも車体は動くのです。赤信号でも止まることなく進み続ける私を警察が放っておく訳がありません。
警察は私に声をかけました。止まることを知らなかったはずの車体はピシャリと止まりました。これはまずいと思うのですが、体はどうしても動かないのです。
警察の話がかまんばの鳴き声のように聞こえました。
やいやい、なぜ止まれと言うのに止まらなかったのか。
止まったから今こうして話ができている。
警察のものとそんな話をしました。それから警察官は免許を出すように言ってきました。私は正直に免許がないことを話しました。警察は数回頷き、気をつけて行くようにと言いました。
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