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2章 嫉妬の朝

14話 スメラギでの朝

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 そして、翌朝。

 まだぐっすりと眠っているレイの身体の上に誰かが勢いよく乗りかかる。

「……ぐふっ、だ、誰だ?」

「起きた、起きた、レイ兄おはよう」

 レイが目の開けるとそこにはエリカの姿があった。

 髪は少し湿った様子でほのかに花の香りが漂ってくる――多分、風呂上りなのだろう。

「お前、朝から元気だな」

「えへへ、今日は商人達との会談があるからね」

「そうなのか。頑張れよ」

「うん! それと朝食ができたから一緒に行こう!」

 商人との会談――それは国の存亡にも関わる大事なことだ。

 商人の機嫌を損ねることがあれば食料や物品の取引が成立しなくなり、住民はおろか国としても終わりだ。

 自分たちの国だけでやっていけるなら問題ないが……しかし、世界でそんな国は存在しない。

 大袈裟に聞こえるかも知れないが、商人あっての世界と言っても過言ではない。

 それほど商人というのは重要な存在ということになる。

 エリカは少し肌蹴た浴衣を綺麗に着直し、レイの手を引きニコニコしながら食事場所まで案内した。

 そこは昨日二人で酒を飲み交わした場所――夜も城下町の灯りで絶景だったが、朝はちょうど心地よい風が吹き、心が落ち着く。

「姫、朝食を運ばせて頂いてよろしいでしょうか?」

「お願い」

「了」

 コクエイが手を叩くと城内で働く者達が手慣れた様子で膳に料理を乗せた状態で次々と運んでくる。

――一人を除いては。

 最後尾の女性は他の者達とは違い、慌ておどおどした様子で吸い物を運んでいる。

 手が震えているため膳が安定せず、汁椀から少しずつ吸い物が零れているのが目立つ。

(なんか嫌な予感がする)

 レイはそう思いながらその女性を優しく見守り続けるのだった。

 今この場を離れる訳にもいかない。もし、レイが手伝ってしまえばエリカがその女性に対し『情けない』と激怒する可能性もある。

 レイはエリカの背後に立つコクエイに密かに目で合図を送った。

「どうしたの? レイ兄、目パチパチしてるけど」

「いや、何でもない。ちょっと目にゴミが入っただけだ」

 合図の意図が通じたのかコクエイがその場から動き出す。

(ふぅ、これで安心だな)

 レイは安堵した。

 だが、コクエイは合図の意味を理解しておらず、考えられない行動に出たのだ。

「……ええと、コクエイこれはなんだ?」

「レイ殿、それは酒でございます」

「うん? すまない、何て言った? もう一度聞かせてくれ、これはなんだ?」

「酒ですが」

「ち、ちがああああう‼ ちょっとこい!」

 レイはコクエイの手を引き、耳元でヒソヒソと話す。

「俺が言いたかったのは、一番後ろで吸い物を運んでいる子をなんとかしないとエリカが不機嫌になるかもしれないだろ。だから、合図を送っていたんだ」

「ああ、そういうことでしたか。納得しました」

 コクエイは頷きながら最後尾の女性のもとへ向かい言い聞かせているのか話をしているように見える。

 レイは元の場所に座り、食事が運び終わるのを待ち続けた。

 とうとう問題の最後尾の女性。

 コクエイはどう対処したのだろうか。

(コクエイの奴、下手を打ってなければいいが……)

 レイは少しばかり不安になるのだった。

 ここでエリカを怒らせてはこんな豪勢な食事を楽しく満足に味わうことすら叶わない。

 朝からアワビや鯛などの海鮮に土鍋で炊いた艶(つや)がありふっくらとした白米。

 どれを見ても美味そうで早く口の中に頬張(ほおば)りたい気分だ。

 互いに嫌な思いをして気まずい雰囲気での食事だけは絶対に避けたい。

 そんなの決まっている。

――食事はみんなで楽しくすることが一番のスパイスだからだ。

 レイは常にそう感じているのだ。

 一人での食事は寂しい――それは、誰よりも知っているつもりだ。

 〝魔王時代〟にも何人か側近がおり、一緒に食事をすることはあったが決して楽しいものではなかった。

 食事中側近はレイに気を使うし、それを見たレイは側近に対して気を使う。

 そんな調子で会話もまったく成り立たない。

 この時、唯一楽しく会話できたのは実の姉であるユイナだけだった。

 しかし、姉は基本的に魔国には居座ることなく、気が向いた時にだけ帰ってくる自由奔放な性格なのだ。

 その性格のせいかはわからないが、レイの父であるラグナスはレイを魔王の座に就かせた。

――おかげでエリカと出会えたのだ。

 これは仮の話だが、もしユイナが魔王の座に就いていたら、レイは仕事に追われエリカと出会うこともなかっただろう。

 なので、父であるラグナスにも多少の感謝はしている。姉のユイナには本当に感謝の言葉しかない。
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