カイイユウギ

Haganed

文字の大きさ
上 下
8 / 14
移りゆく世界

知ってはならぬ七つの子

しおりを挟む
「学校の七不思議? それがどうかしたんですか?」


 琥蒲第三小学校の近くにある公園まで一緒に向かい、そこのブランコに乗って再度康平は琥蒲第三小学校の七不思議について訊ねた。予想通りで当たり前の反応をした田辺の言った問いかけに、事前に用意していた答えを出す。


「実は大学に行くのに小論文の提出が課題になっててね、それで学校の七不思議を題材にして書こうかって。ネットで調べても良いんだけど、学校ごとに違いがあるらしいから、最初に琥蒲第三小の七不思議を調べようって事になったんだ。」

「ふーん、何だかめんどくさそう。」

「大学へ行くにしても色々要るって事なのさ、面倒くさくてもやるしかないよ。」


 嘘では無い、欠席した経験もつい最近したがこのまま学業などで優秀な成績を収めれば学校推薦が見込まれる上に、こうした小論文が提出課題として必要になる大学は多く必要なのは事実だ。ただし康平が希望しているのは民俗学科ではなく法学科なので小論文に七不思議のことを書く必要は全くもって無い、という点では嘘をついている。

 ただその返答に対し田辺は少し悩んだ素振りを見せたあと、康平へと視線を向けるもどこか悩みを抱えたような表情で一番最初の問いかけに答えた。


「ボクもあんまり七不思議に詳しいわけじゃないですけど、七不思議に詳しい同級生なら知ってます。」

「本当?」

「でもその子、去年から不登校になってるんです。」

「不登校?」

「はい。」


 それを皮切りに田辺はその同級生のことについて語り出す。その同級生の名前は『元宮もとみや 幸斗ゆきと』といい、3年前に転校してきたとのこと。小学二年生の時からオカルト関連の話を趣味がてらに調べたり、親戚や祖父母などから様々な話題を聞き及んでいたりするぐらいにオカルトというものにのめり込んでいており、当然自分の通う学校に七不思議があることを知れば調べたがるのは自明の理であった。

 だがある日を境に少しずつ、その元宮幸斗は周囲をしきりに気にするようになり遂には学校に来なくなった。その理由は未だに誰も知る由も無いが不登校になる前に件の彼は頻繁に何かを呟いていたらしく、内容は全く分からないがとにかく酷く怯えていた様子が目撃されているとのこと。


「ふむ……。」

(七不思議を調べて何かに行き着いた、そう考えるのが良さそうだな。とはいえそれを知っているのは、その元宮幸斗だけと。)

「その元宮幸斗君の住んでる場所って分かる?」

「知ってますけど、どうするんですか?」

「一度会ってみて話しみたいんだ。何か知ってるのなら、その話を直に聞いてみたい。」

「えーでも話してくれるかなぁ……? ずっと誰とも話してないだろうし。」

「まぁ、正直あんまりこうした話をしに行くのはその元宮君にとってもストレスなんだろうけど……七不思議に詳しいのなら訪ねてみたいんだ。色々とね。」

「うーん……。」


 田辺は悩んだ。もう1年も会っていないクラスメイトのところに昔の在学生を連れてきて、そこで七不思議のことについて聞きたいとなれば……掃除班で班長だった康平と同じ6年生にもなった彼の頭では容易に悪い結果が浮かび上がったのも致し方ないことだろう。とはいえ彼もしばらくの間考え続けると、どうやら決めたようだ。


「じゃあ、学校終わりに付いてきて下さい。僕も久しぶりに顔を見たくなりました。」

「ん、分かった。ただ今日はこの後用事もあるから別日にしてもらっても良いかい? 土曜日の午後2時とかで。」

「別に良いですよ……でも水曜日はダメなんですか?」

「中学高校になるとね、授業時間も増えた上で4時半まで学校に居るのが当たり前になってくるんだよ。」

「うへぇ……。」


 進学することがどういう事になるのか、一足先に教えてもらって苦虫を噛み潰したような顔をした田辺であった。そうして予定を立てたところで田辺は家へと帰宅する道を辿っていき、康平は一旦情報を整理したいために小学校の近場にあった喫茶店へと休憩がてらに寄っていくことにした。



━━━━━━━━━━
━━━━━━━
━━━━




 本屋に居る綾部晴彦は悩んでいた。あの時、康平が訊ねた問いの答えをどうすればいいのかを。2つしかない選択肢が載せられた決断の天秤がユラユラと揺れ動き、色んな理由を考えてはああでも無いこうでも無いと考え続けていた。けれど未だに答えが出せず……いや答えは出せているのだ、その決断が出来ないだけで。

 綾部晴彦という人間にとって彼、湖里康平は間違いなく雲の上のような人であった。高校1年生の夏休みまえの期末テストの結果から頭角を現すようになった生徒であったが、その才覚に驕りというものを見せないような対応力が他生徒や教師共々目を置くようになるほどの実力者。そんな彼と出会ったのは奇妙な事に、住んでいるアパートが同じであることを知った時からであった。

 成績に陰りが見えていた時、同じアパートに住んでいる康平と出会いそこから奇妙な縁が始まった。懇切丁寧に、時に新たな解釈を踏まえながら康平と勉強していくと、みるみるうちに理解力が増していったのが目に見えて現れ、あれほど煩わしかった母親が途端に大人しくなり趣味であったバードウォッチングの時間が増えた。それらのことから彼に恩義を感じており、自分の趣味を共有したいのとお礼も兼ねてと色んな場所に赴いたりもした。時にはお礼として康平の母方の実家にお呼ばれした事もあったが、あまりに世界が違いすぎて当初は緊張していた事も今や懐かしい。

 多くのものを貰った、それにまだ足りる事の無いものをあげた。恩義がある、彼が無茶をしないように傍で見守りたいとも思う。だがそんな心に相反するように、あの時の恐怖が蘇る。あの時のようなバケモノがそこかしこに居る事実と、いつ自分が被害者みたく死んでいくのかと考えると躊躇ってしまう。あのときは康平の言葉でどこか安堵していたのだろう、自分にはバケモノを近づけないようにするのだという頼もしさがあった。危険が身に迫りいざ動こうとすれば、どんな行動をとるのかは自分がよく理解しているからこそ、康平と協力することを躊躇うのだ。

 そんな事を考え続け、気がつけば康平へ向けた答えを思いつくのに1週間以上も掛けてしまった。そして今も尚、その選択は定まっていない。ほとほと困り果てている中、 前を見ていなかったせいか誰かと肩がぶつかったらしく体がよろけてしまった。


「あうっ。ご、ごめんなさい。」

「おてっ。おろ、綾部じゃん。」

「あ、三原君。」


 晴彦とぶつかったのは三原と呼ばれた顔見知り。それもそのはず、康平と同じクラスに居て且つ隣の席に座っている彼なのであるから。

 彼の名は『三原みはら 秀司しゅうじ』。康平の隣の席に座っており、基本的には彼と仲の良い様子を見せている。その理由は単純に幼馴染みであるため、昔住んでいた家が近所だった事と一緒に遊んでいた事があったからである。あの事故が起きてからも、クラスが離れたりする事はあったものの基本的に校内では一緒に居るのが当たり前のような雰囲気な2人であったという事を、晴彦は当の2人から聞き及んでいる。そんな三原が本屋で何をしているのだろうかと訊ねてみた。


「三原君はここで何を?」

「ん? 漫画だよ漫画、読んでるヤツの最新刊が今日発売してるから買いに来た。ついでに面白そうなヤツが無いか物色中。綾部は?」

「えーっと、ちょっと気分転換に……かな?」

「ふーん。」


 目の前に居る三原は何やら珍しいものを見たような反応を示し、少しばかり考える素振りをして何かを思いついたようで。綾部にとある提案を投げかけた。


「なぁ綾部、ちょっと付き合ってくれるか?」

「……ほへ?」


 訳が分からないまま晴彦は三原に連れられ本屋を出ると、そのまま彼に着いていくままある場所まで着いていくことになった。辿り着いた先にあったのは千田せんだ精肉販売店、三原は慣れた様子で店番をしている店主と話し始めた。


「おっちゃーん、いつもの2つ頼むわー。」

「おう秀司。お、珍しいな。お前さんが別のモン連れてくるなんてよ。」

「康平と共通の知り合いなんだよ。」

「おーコウちゃんの! そうかそうか! そうかぁ……!」


 店主の康平に対する反応にどこかおかしさを感じたものの、少なくともこの人が悪いようなことを考える人では無いことを清彦が察していると少し待ってもらうように言ってその場から離れると、困ったような表情で三原が話しかけた。


「悪いな、おっちゃん康平の事になるとああなんだ。」


 その発言に対し首を傾げていると、三原はその理由を語り始めた。


「おっちゃんさ、康平のこと随分と気にかけてたんだよ。康平の親父さんがすっごい良い人でさ、おっちゃん以外にも康平の親父さんに助けられたって人が多いんだ。事故で亡くなったって聞いた時はここら辺に居る人たちの殆どがショック受けてたんだ……でもよ。」

「でも?」

「それよりもショックだったのが、康平の事だったんだ。」

「ほれお待ち!」


 そのタイミングで嬉々として店主が何かを持ってやって来た。持ってきたのはハンバーグ状に整えられている冷凍ミンチ肉が保冷剤と一緒に入れられたビニール袋三つ、店主のもとにあった。それらをショーケースの上に置いて、持っていくように言う。


「おっちゃん、これは?」

「持ってきな、特別サービスってヤツよ! なぁに別に売りもんじゃねぇから遠慮すんな! 暇な時に作ったヤツだからなよ!」

「へ、いやいやそんな急に」

「おーマジで!? あんがとな、おっちゃん!」

「三原君?!」

「こーいうのは素直に受け取っとけ、好意を受け取るのも人付き合いには大切なんだぜ?」

「へっ、いっちょ前に言いやがって。秀司、これコウちゃんの所に持ってきな。」

「あ、それならボクが。同じところに住んでいるので持って行きますよ。」

「そうなんかい? なら頼むぜ坊っちゃん。」

「は、はい。」

「それよりおっちゃん、いつものミンチカツ2つ頼むわ。」

「なら1個オマケしとくぜ、コウちゃんにも渡しといてくれや。」

「いやいや、それなら流石に三つ分払わせてくれよ。」

「オマケで良いんだよ、学生なんだから自分の小遣いは大事にしな。ほら三つ、受け取りな。300円で良いからよ。」

「はぁ、なら素直に受け取っとくよ。あんがとな、おっちゃん。」

「良いってことよ。あぁ坊っちゃん、名前は?」

「綾部晴彦です。」

「んなら晴彦の坊っちゃんや。これからもコウちゃんの友達で居て欲しいんだ、この通りだ。」


 店主が両手を合わせて晴彦に頼み込んだ。それを見て本当に康平のことを気にかけているのだと実感し、その願いに応えたいと晴彦は思った。


「ボクも康平君とは友達でいたいです。」

「そうか、ありがとうなぁ……!」


 3つのミンチカツと冷凍ハンバーグの入ったビニール袋を持って三原と晴彦は帰路につく。自分用のミンチカツをその道中に食べながら歩いていると、隣に居た三原が止めていた話を続けた。


「それで、話は戻るんだがよ。」

「うん。」

「1番ショックを受けたのが、康平の変わり様にだったんだよ。昔は活発で、外で遊びまくって泥だらけになるぐらいに明るかったんだ。今はだいぶマシになったがよ、当時はまるで人が変わったように大人しくなっちまってたんだ。それを見ていると、スッゲェ心苦しくなってさ、どんな形でも良いから康平と康平の母ちゃんを支えようってなってさ。その筆頭がおっちゃんなんだよ。」


 食べかけのミンチカツを1口頬張り、一旦話を止める。それを聞いていた晴彦も自分のミンチカツを1口齧り食べる。口にあったミンチカツを飲み込んで、三原は話を再開した。


「勿論、俺も康平の力になれるならって勉強頑張って同じ学校に入学したけどよ。昔みたいに呼んでくれなくなってな、それが心にクルのなんの。……だから綾部には感謝してるんだ、康平の表情が少しづつ柔らかくなってる事にさ。」


 空を見ていたその視線を晴彦の方に向け、三原は綺麗にお辞儀をした。三原の中にあったのは感謝の気持ちで、それを手っ取り早く表現するためにそうしたのだ。


「ありがとう、綾部。それとこれからも、アイツの友達で居てほしい。俺からも頼む。」


 その一連の行動と言葉から伝わったのは、康平に対する思い。今日出会った精肉店の店主と三原秀司の2人の人物が見せた、誠実な姿勢が晴彦の抱いていた迷いを晴らした。今まで悩んでいたのが嘘のように、晴彦はその決断をした。もう迷いは無い、この思いに応えたいとそう思ったのだから。そうしたいと晴彦は願った。


「分かった。でも三原君、君も康平君の幼馴染みだって事を忘れないで一緒に居てあげて。ボクだけじゃなくて、1番傍に居る三原君も、康平君には必要だと思うから。」

「ッ! ははっ、これは……1本取られたな。」


 その発言が意外だったようで姿勢を上げながら驚きの表情を見せた三原であったが、何度か頷いて納得した素振りを見せると晴彦に右手を差し出した。


「ありがとな、綾部。そう言ってもらえるだけでもありがたいぜ。」


 その差し出された右手を晴彦は自分の右手を差し出し、握手を交わした。


「お互い様だよ、ありがとう。」

「そうか。」


 そうして握手を交わしたあと、途中で別れてそれぞれの帰路につき住んでいるアパートに到着した晴彦は、真っ先に迷いなく康平と康平の母が住んでいる部屋に訪れる。長く細く息を吐いたあと玄関のインターホンを押した、向こう側で返事が来ると少し急いだような足音が聞こえたあと玄関が開かれ、現れた康平と顔を合わせた。


「あれ、晴彦君。 珍しいね、どうした?」

「あーうん、実はこれ。」

「ん?」

「さっき三原君と一緒に、康平君と三原君がお世話になってる精肉店に寄ってさ。これ、店主さんから渡してくれって。」

「あぁ、千田さんのところの! んもー、別に良いのに。」


 受け取ったビニール袋の中身とミンチカツを見やり、そんな事を言いながらもどこか嬉しそうな様子の康平を見て、晴彦は言うべきことを言うために決心した。


「ねぇ、康平君。」

「ん?」

「あの時の答えが決まったから、聞いて欲しいんだ。」

「……分かった。ひとまず家に入って、周りにはあまり聞かれたくない。」


 晴彦を招き入れ、康平は彼の持ってきていた冷凍ミンチ肉と保冷剤を一旦冷蔵室に保管し、ミンチカツは自分の部屋に案内してお茶を用意し始める。キッチンの上の収納棚に置かれた茶缶を取り、磁器のコップを1つ用意し1杯分の水を入れるとそれを小さなステンレス製の鍋に入れてコンロの火をつける。沸騰しない程度の温度を保ち5分ほど沸かせると、用意した急須にお湯を注ぎ、茶葉の入ったパックを急須に入れて蒸らした。

 3分ほど経ってようやく用意した磁器のコップにお茶を注ぎそれを持って部屋にいる晴彦へ持って行った。部屋にある小さなテーブルの傍に座っている晴彦はそれを受け取り、お礼の言葉を述べたあと1口飲んだあと話を切り出した。


「康平君、あの時の答えなんだけど。僕は君に協力したい。」

「……何でか、聞いても?」

「最初はずっと迷ってたんだ、自分もバケモノに襲われて同じように死んでいくんじゃないかって。康平君と関わっていくと、死ぬ事になるんじゃないのかって。
 でも、さっき三原君や店主さんから君と友達で居て欲しいって言われた時、何を悩んでるんだって思ったんだ。」


 持っている磁器のコップに入ったお茶をまた1口飲み、一つ息を吐いたあと続けた。


「ボクは、君に助けられた。あの時、君が手伝ってくれなかったらボクはお母さんからのプレッシャーに耐えられなくて壊れていたかもしれない。
 そして、あの世界でも君に助けられた。君の言葉がボクたちを絶対に守りきってくれるって信じられた。だからこれは、ボクなりの恩返しだ。
ボクは康平君の力になりたい。君が1人で苦しまないように、君が1人で背負い込まないように、ボクはボクに出来ることをしたいんだ。」


 晴彦がそう言い切ったあと暫し静寂が流れていたが、康平の目を真っ直ぐ見つめる晴彦のその目を見つめ返し、そして瞼を閉じて一つ息を短く吐く。その目から察せられるのは固い意思、揺るぎようのない信念にも似た思い。それを無碍に断れるような立場に康平は居ない、故にその申し出を受けた。嬉しくも思い、同時に絶対に守り通してみせると心の中で己自身に誓った。


「分かった。なら手伝ってくれるかい? 晴彦君。」

「勿論。」

「ありがとう。なら僕は君を必ず守り抜く、絶対にバケモノなんかに死なせやしない。約束する。」


 康平は右手を差し出し、その差し出された手を晴彦は握りしめる。もうこの2人の決意は誰にも手出しされないぐらいに硬く結ばれたのであった。



───────────────────────



 そして土曜日。康平は晴彦に準備を整えたら琥蒲第三小学校に行くように伝え、自身は田辺と出会うために彼の住居の近くにある車坂くるまさか公園で待ち合わせ、件の元宮幸斗の住んでいる一軒家まで訪れた。インターホンを押して人を呼び出すと、すぐに元宮幸斗の母らしき人物に迎えられ用件を申し出た。小学校側から持っていくようにと伝えられたプリント類の束を見せ、これらを持ってくるようにと伝えた。康平の事は田辺の付き添いのついでで元宮幸斗に聞きたいことがあるためと言うと、少し悩ましい表情を見せた母親であったが結果的に家に入ることは出来た。

 そうして元宮の母を先導に2階にある元宮幸斗の自室まで足を運んで部屋の前に到着すると、母親は部屋をノックして開けることを伝えて部屋のドアを開けた。暗くされた部屋の中は物が散乱しており、本人は壁に背中を向けて掛け布団にくるまりベッドの上で何かに怯えている様子であり、とてもでは無いが話を聞けそうにない状態であった。


「幸斗、お友達の知り合いさんが聞きたいことがあるって。」

「…………ゃだ。やだ。」

「幸斗……。」


 康平はそんな状態の元宮幸斗に「入るよ」と一言伝えたあと彼に近寄った。怯えていて何をするでも無い元宮幸斗に視線を合わせるようにしゃがみ、康平は土曜までに集めた情報を用いて話を聞き出そうと試みる。


「幸斗君、だったね。初めまして。」

「……。」

「無理に関わろうとしなくていい、君がそんなに怖がっている理由は大体予想がついたからね。」

「えっ?」

「?」


 後ろに居る田辺と元宮幸斗の母は疑問符を浮かばせるが、一旦それらを無視して康平は話を続ける。


「当ててあげる、七不思議の7つ目を知ったんでしょ?」

「! なんでそれを……?!」

「君がそういったオカルト話が好きで、色んな話を聞いたり調べてたりしているって事を田辺君から聞いてね。そこから僕も七不思議について調べてみたんだ。そしたら気になる項目を見つけてね、何でも七不思議の7つ目を知ったら異界に連れて行かれるとかってさ。」

「……。」

「多分君は、その7つ目を知ってから異変が起きた。見えないものが見え始めたり、実際に危害を加えてきたり」

「ちょっと! 一体何なんですか?!」


 康平の言葉を静止したのは元宮幸斗の母親だった。彼女の方を振り向きながらも未だしゃがんだままの康平は彼女の弁を聞く。


「田辺君の知り合いでウチの幸斗に聞きたい事があるから家に上げたというのに、幸斗の不登校がそんな単なる噂話程度の事で怯えていたからっていうんですか?! バカバカしい!」

「……ええ、確かにバカバカしいと思われるでしょうね。実際に見た事のない人にとっては。」


 彼女の方を見ながら康平は立ち上がってそう言った。確かに普通ならバカバカしいと一蹴するのが当然の反応だ、けれど今ここに居る康平からすれば単なる噂話と無碍にできない経験を積んでいる。だからこそ彼は冷静に言葉を紡いだ。


「僕の目的は、その七不思議の7つ目を知りに来たんです。そして僕なら、元宮君が怯えている元凶を取り除くことが出来る。」

「!?」

「はぁ?」

「何分そういった出来事に僕も会いましてね、そして解決に導くことができた。僕ならもう一度、彼を学校に戻れるようにする事が出来るんです。」

「もう良い、そんなくだらない話をしに来たのなら──」

「本当に……」


 母親の表情が変わる。康平も元宮幸斗の方へと振り返ると彼は掛け布団を被ったままであったが、康平の元まで近寄り、久しく使わなかったぐらいの声量で聞いた。


「本当に、出来るの?」

「幸斗……!」

「うん。出来るよ、僕は出来ないことは出来ないってハッキリ言うからね。出来ることもハッキリと出来るって言える。」


 しゃがんて視線を合わせ、彼を安心させるように手を握り康平は一方的な約束をした。


「約束する、君をもう一度学校に戻してみせる。だからそれまで待ってほしい。」


 それを聞いた元宮幸斗は何も言わずに1度だけ頷き、康平にだけ聞こえる声で何かを頼んだ。後ろにいる2人の方へ振り向き、その伝言の内容を伝えた。


「すみませんが、1度幸斗君と2人きりにしても良いですか? 他に人が居ると話せない内容だそうです。」

「でも……。」

「2人を巻き込みたくないんです。そうなる事を彼も望んでいない……お願いします。」


 困った様子を見せた母親と田辺であったが、今まで誰かに話すことさえ殆ど無かった自分の子どもが、こうも今日出会った人物と話が出来ている事実を目にした為なのか、何も言わずドアを閉めて1階へと降りて行った。電気のスイッチを探し、見つけたそれを康平は押して部屋を明るくすると今1度元宮幸斗と向き合って話をする。


「幸斗君、君が聞いた七不思議の7つ目を聞いても良いかい?」


 1回頷いて肯定すると、元宮幸斗はあまり使わなかった口の筋肉を精一杯動かし、それを伝えた。


「七不思議の、7つ目……それを知って、から、変なものが、見えるようになった。最初は、ぐうぜんじゃないかって、思ったけど、日に日にハッキリと、見えるようになってった。そうしたら、歌が、聞こえたんだ。」

「歌?」

「それが、琥蒲第三小の、7つ目。午後5時の、黄昏時に歌が流れたら、異界に連れて、行かれるって。」

「その歌は、僕でも知ってるもの?」


 彼はまた頷いて肯定する。そして鼓動が早まるのを実感しながらも彼にその歌の名前を伝えた。


「…………かごめ歌。かごめ歌を聞いたら、異界に連れて、行かれるんだ。」
しおりを挟む

処理中です...