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第1話 婚約破棄
今、王宮の広間ではどうやら衆人環視の中で婚約破棄が行われているらしい。喚き散らしているのは公爵家の令息、ジンナムだ。
「お前は優秀な妹と比べ無能だ。これ以上私の側に置いておくことはできない。今日この時をもって、婚約を破棄する。」
突然王宮に呼び出されたベッカー伯爵家のイエリは、いきなり婚約破棄を言い渡された。
やってきた先には公爵家のジンナムとその家族が集まっていた。そして何故か、その場に従姉妹であるシュナがいて、イエリに勝ち誇ったように言ってみせた。
「お姉様、私が新しい婚約者になります。ですから、公爵家との縁はきちんと結べますのよ? よかったですわね。私のおかげで、失態だなんだと家を追い出されることはありませんわ。」
「シュナ……どうして?」
イエリは伯爵家の令嬢だ。対してシュナは、ベッカー伯爵の、亡くなった弟の後妻の連れ子である。
伯爵家を継いだ父とは違って家を出た次男の、しかも後妻の娘。つまり伯爵令嬢でもなんでもない。一体何をどうしたらこんなことが起こるのか、イエリはわけがわからなかった。
「どうして、ですって? お姉様が私より劣っていただけですのよ? ご自覚がありませんか??」
そう断言するシュナだったが、実際はシュナよりもイエリのほうが、諸々において遥かに優秀だった。
シュナは見た目が愛らしいのでそれを使って人に取り入ることには長けていると思うが、それだけで公爵家の人々まで長年尽くしてきたイエリより、ポッと出のシュナを婚約者にすえるなど、驚きを隠せない。
「お姉様は、この間の南の干ばつについてジンナム様に助言なさいましたか?」
「え、ええ。したわ。」
「私はそれより先に、対策を立てて干ばつに対処していたんですよ?」
「そんなはずはないわ。私は確かに南に赴いてため池の水を――」
「ため池の水を汲みおくように言ったのは、私です。」
シュナは次々と、イエリの功績を全て自分のもののように並べて言った。
干ばつの対策もそうだし、魔物の流入が起こりそうな地域の防衛の見直しについてもそうだ。さらには王都でこれから流行るであろう飲み物も、シュナの先見の明で助言したことによっていち早く販売するルートを確立できた、と言う。
ほんとうは、方々に出向いてすべてイエリがやっていたことなのに。
しかも『先見』のスキルはかなり珍しいもので、シュナが持ち得ているはずはない。
「お前のやっていたことは妹の後追いに過ぎない」
イエリがしていた行動に合わせて、シュナは家でのたわいない会話から情報を聞き出しそれとなくジンナムに対して先に動いていたのだ。そうすることで、やったほうがいい、やっておきますね、と助言するのはシュナで、実際にやるのはイエリ、という図が成り立ったのだ。
「ジンナム様。どちらの言うことが正しいかなんて、少し考えればわかるはずです!」
「見苦しいな。有能なシュナの真似しかできないお前はもういらないよ。」
「ほんとうに、私との婚約を破棄すると? 今ならまだ、まだこの場にいる者しか知らないことです。ほかの人たちに知られてしまったら、もう取り返しがつきません。」
「お前は自分が無能だから、結婚相手は私しかいないのではと必死になっているのだな? くくくっ……」
「やだぁ。お姉様ってば、みじめですわぁ。」
ジンナムはイエリの忠告に耳を傾けなかった。
数年間、婚約者として過ごしてきたが、ジンナムは自分より家格の劣るイエリを、馬鹿にしている節があった。
それでも一度は婚約した仲なのだ。微かにだけど、情があった。しかし、ここまで言われて縋るほど、イエリにとってこの婚約に価値はなかった。
「……かしこまりました。婚約破棄、確かに承ります。末永くお幸せに。」
そう言って、イエリはその場をあとにした。
今はまだ、皆がシュナの可愛い外見に騙されているのだ。しかし、化けの皮が剥がれる時はそう遠くない。
「お前は優秀な妹と比べ無能だ。これ以上私の側に置いておくことはできない。今日この時をもって、婚約を破棄する。」
突然王宮に呼び出されたベッカー伯爵家のイエリは、いきなり婚約破棄を言い渡された。
やってきた先には公爵家のジンナムとその家族が集まっていた。そして何故か、その場に従姉妹であるシュナがいて、イエリに勝ち誇ったように言ってみせた。
「お姉様、私が新しい婚約者になります。ですから、公爵家との縁はきちんと結べますのよ? よかったですわね。私のおかげで、失態だなんだと家を追い出されることはありませんわ。」
「シュナ……どうして?」
イエリは伯爵家の令嬢だ。対してシュナは、ベッカー伯爵の、亡くなった弟の後妻の連れ子である。
伯爵家を継いだ父とは違って家を出た次男の、しかも後妻の娘。つまり伯爵令嬢でもなんでもない。一体何をどうしたらこんなことが起こるのか、イエリはわけがわからなかった。
「どうして、ですって? お姉様が私より劣っていただけですのよ? ご自覚がありませんか??」
そう断言するシュナだったが、実際はシュナよりもイエリのほうが、諸々において遥かに優秀だった。
シュナは見た目が愛らしいのでそれを使って人に取り入ることには長けていると思うが、それだけで公爵家の人々まで長年尽くしてきたイエリより、ポッと出のシュナを婚約者にすえるなど、驚きを隠せない。
「お姉様は、この間の南の干ばつについてジンナム様に助言なさいましたか?」
「え、ええ。したわ。」
「私はそれより先に、対策を立てて干ばつに対処していたんですよ?」
「そんなはずはないわ。私は確かに南に赴いてため池の水を――」
「ため池の水を汲みおくように言ったのは、私です。」
シュナは次々と、イエリの功績を全て自分のもののように並べて言った。
干ばつの対策もそうだし、魔物の流入が起こりそうな地域の防衛の見直しについてもそうだ。さらには王都でこれから流行るであろう飲み物も、シュナの先見の明で助言したことによっていち早く販売するルートを確立できた、と言う。
ほんとうは、方々に出向いてすべてイエリがやっていたことなのに。
しかも『先見』のスキルはかなり珍しいもので、シュナが持ち得ているはずはない。
「お前のやっていたことは妹の後追いに過ぎない」
イエリがしていた行動に合わせて、シュナは家でのたわいない会話から情報を聞き出しそれとなくジンナムに対して先に動いていたのだ。そうすることで、やったほうがいい、やっておきますね、と助言するのはシュナで、実際にやるのはイエリ、という図が成り立ったのだ。
「ジンナム様。どちらの言うことが正しいかなんて、少し考えればわかるはずです!」
「見苦しいな。有能なシュナの真似しかできないお前はもういらないよ。」
「ほんとうに、私との婚約を破棄すると? 今ならまだ、まだこの場にいる者しか知らないことです。ほかの人たちに知られてしまったら、もう取り返しがつきません。」
「お前は自分が無能だから、結婚相手は私しかいないのではと必死になっているのだな? くくくっ……」
「やだぁ。お姉様ってば、みじめですわぁ。」
ジンナムはイエリの忠告に耳を傾けなかった。
数年間、婚約者として過ごしてきたが、ジンナムは自分より家格の劣るイエリを、馬鹿にしている節があった。
それでも一度は婚約した仲なのだ。微かにだけど、情があった。しかし、ここまで言われて縋るほど、イエリにとってこの婚約に価値はなかった。
「……かしこまりました。婚約破棄、確かに承ります。末永くお幸せに。」
そう言って、イエリはその場をあとにした。
今はまだ、皆がシュナの可愛い外見に騙されているのだ。しかし、化けの皮が剥がれる時はそう遠くない。
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