【完結】婚約破棄される前に察して距離を置いていたら、幼なじみの第三王子が本気になっていました〜義妹と元婚約者? もう過去の人です〜

井上 佳

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第9話 王子の問い

秋季舞踏会を、二日後に控えた夜。

「殿下、お茶をお持ちしました」

カイが、書斎に入ってくる。

「ああ、ありがとう」

私は、書類から目を上げる。

「殿下、秋季舞踏会の件ですが」
「......ああ」
「エレノア様は、一人で出席なさるとか」
「そうらしいな」

私は、カップを手に取る。

「......カイ」
「はい」
「私は――エレノアをエスコートしたい」

カイは、微笑んだ。

「ようやく、そうおっしゃいましたね」
「......わかっていたのか」
「当然です」

彼はしれっと答える。

「殿下は、エレノア様を見かけるたびにそわそわしていましたから」
「......そうか」

私は、窓の外を見る。月が、美しく輝いていた。

「だが――彼女は、気づいていないだろうな」
「はい。あなたのストーカー行為はバレていないかと」

カイは即答する。

「エレノア様は、領地経営のことで頭がいっぱいですしね」
「......そうだな」

私は苦笑した。

「でも、それが彼女らしい」
「はい」

その夜。
私は、夜の王宮を散歩していた。
静かな廊下を歩きながら、考える。

――もし、エレノアが自由になったら。もし、彼女の婚約が解消されたら。
私は――彼女に、想いを伝えられるだろうか。

その時。前方から、誰かが歩いてくる。

「......レオニス様?」

その声に、私は驚いて顔を上げる。

「エレノア......?」

彼女も、同じように驚いた表情を浮かべている。

「こんな夜に、どうなさったのですか」
「ああ、少し......考え事をしていて」
「そうですか」

エレノアは、穏やかに微笑む。

「私は、父に届け物をしたついでにドレッチェさんの花壇を見せていただこうかと」
「侯爵殿も忙しくされているな」
「ええ、おかげさまで」
「......散歩、ご一緒してもいいかな」
「はい」

私たちは、並んで歩き始める。
ドレッチェさんとは、王宮の庭師(84)だ。彼の手にかかればどんな花も大輪をつける。特に薔薇園が美しかった。

月明かりに照らされた庭園で、静かな足音だけが響く。

「......エレノア」
「はい」
「秋季舞踏会のこと、聞いた」

彼女は、嬉しそうに笑う。

「ええ。やっと、あの婚約から解放されます」
「あっ、ああ......そうか」

思った以上に喜んでいるエレノアに面を食らった。
私は、慎重に言葉を選ぶ。

「もし――もし、君が自由になったら」
「......レオニス様?」
「君は、何をしたい?」

エレノアは、少し考える。そして――楽しそうに答えた。

「領地経営の勉強に、もっと集中したいです」
「......そうか。君は、そうだよな」

私は、笑いそうになるのをこらえる。

「それから――」

彼女は、真っ直ぐに私を見つめる。

「次の婚約は、自分で選びたいと思います」
「......選ぶ?」
「はい」

彼女は微笑む。

「今まで、私は常に『侯爵家の長女』として行動してきました。婚約も、その時の状況で周りが決めたこと。私の意思ではありませんでした」
「......ああ」
「ですから――もし、自由になれたら。次は、自分で選びたいと思います」

その言葉に、胸が高鳴る。

――では、その選択肢に、私は含まれるだろうか。
だが――彼女は、私の気持ちにまったく気づいていないんだった。含まれるはずがない。

「......そうか」
「はい」

私たちは、また歩き始める。
言葉はないが――。この沈黙は、心地よかった。

「レオニス様」
「ん?」
「ありがとうございます」
「......何が?」
「いつも、気にかけてくださって」

エレノアは、優しく微笑む。

「あなたのお言葉に、救われました」

その笑顔に――胸が、締め付けられる。

「......私は、何もできていない」
「いいえ」

彼女は、首を振る。

「レオニス様は、いつもそばにいてくださいました。それだけで、十分です」

――ああ、だめだ。この人を、手放したくない。

「......エレノア」
「はい」
「舞踏会――俺が、エスコートしてもいいだろうか」

その言葉が、口をついて出た。
エレノアは、驚いた表情を浮かべる。

「......ですが――」
「王族として、だ」

私は、断られる前に慌てて付け加える。

「婚約者のいない高位貴族の令嬢を、王族がエスコートすることは、珍しくない。私たちが昔馴染みなのも、周知の事実だ」
「......」
「もちろん、君が嫌なら――」
「いいえ」

エレノアは、嬉しそうに微笑んだ。

「お願いします。レオニス様とご一緒できるなんて、光栄です」

その笑顔に――私は、心を奪われた。

だが、彼女は気づいていない。
私の想いに、これっぽっちも。

それでも――いい。
今は、これで。
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