【完結】婚約破棄される前に察して距離を置いていたら、幼なじみの第三王子が本気になっていました〜義妹と元婚約者? もう過去の人です〜

井上 佳

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第10話 秋の予感

秋季舞踏会、前日。

私は、マルティナと最終確認をしていた。

「ドレスは問題ありません」
「装飾品も」
「エスコート役は――」

マルティナが、意味深な笑みを浮かべる。

「レオニス殿下、ですね」
「ええ」

私は嬉しそうに答える。

「殿下がエスコートしてくださるなんて、光栄だわ」
「......お嬢様」
「なに?」
「殿下のお気持ちに、本当に気づいておられないのですか」
「おきもち?」

マルティナは、深くため息をついた。

「......いえ、何でもありません」
「そう?」

私は首を傾げる。
その時、ドアがノックされる。

「エレノア様、フローラ様がお見えです」
「通して」

フローラが、興奮した様子で入ってくる。

「エレノア! レオニス殿下とご一緒って本当!?」
「ええ、早耳ね」
「すごいじゃない!」

フローラは、目を輝かせる。

「殿下は、いっつもエレノアのこと気にかけてらっしゃるのよね」
「王族として、助けてくださるだけよ」
「本当にそう思ってるの?」
「え? だって――」

フローラとマルティナが、同時にため息をついた。

「......エレノア、あなた本当に鈍感ね」
「んん?」
「いいわ、明日わかるから」

フローラは、ニヤリと笑う。

「明日は、思いっきり楽しんでね」
「ええ!」

私は嬉しそうに答えた。

「やっと、あの婚約から解放されるもの」
「そういえば、なんで自分から破棄しなかったの?」
「それはーー」
「いえ、ごめんなさい。愚問だったわ」

家同士で結ばれる貴族家同士の婚約は、その時点で国に届けられる。
そして、よほどのことがない限り解消や破棄には至らない。だ。

だから、多少領地経営にやる気を見せない、向上心がない努力しない、結婚前の浮気、その程度では相手を変えるなんて発想すらないのだ。ただ、評判は悪くなるが。

私から破棄するという考えは初めからなかった。
領地運営の役に立たない夫でも、邪魔さえしなければいいやくらいに思っていた。

でも、ディートリヒもリリアナもさすがに評判を下げ過ぎている。
これ以上は、邪魔になると判断した。

何か手を打とうかと考えたが、『着々と愛と愚行を積み上げているあの人たちだから、自滅してくれる』という確信に至った。
特に、派手付きの義妹のことだから、公衆の面前で私を貶めるための舞台になり得る秋季舞踏会という機会を逃すはずはないだろう。

「婚約破棄後は?」
「領地経営に全力を尽くすわ」
「それは今もだと思うけど......本当に、それだけ?」
「それだけ?」
「仕事以外の、ほら、あるでしょ?」
「シゴトイガイ??」

私が復唱していると、フローラとマルティナは同時にため息をついた。

「......お嬢様は、本当に......」
「苦労するわね......」


その夜。私は一人で、月を見上げていた。

「......明日」

すべてが、変わる。
ディートリヒとの婚約は、終わる。
そして――もっと、勉強に集中できる。

「楽しみだわ」

私は、心から笑った。



一方、王宮。
レオニスは、カイと向き合っていた。

「明日、ですね」
「......ああ」

レオニスは、窓の外を見る。

「エレノアは、あの場で婚約破棄を宣言されるだろう」
「はい」
「......俺は、彼女をエスコートする」
「ちゃんと申し込めてよかったですね」
「ああ」

カイは、静かに言う。

「ようやく、一歩を踏み出されましたね」
「......ああ」

レオニスは微笑む。

「だが――彼女にとって、私はまだただの幼馴染だ」
「そうですね。俺と一緒だ。なんてったって、エレノア様は領地経営のことで頭がいっぱいですから」
「だ ろ う な !」

そして、レオニスは小さく笑った。

「でも、それが彼女らしい」
「はい」

カイは、主を見つめる。

「殿下、遠くから見守るストーカー予備軍は卒業です」
「ああ......いや、え? 予備軍?」
「まあ、予備軍でしたよ。ギリ」
「ギリ」



夜。レオニスは、一人で呟いた。
自分に言い聞かせるように――

「エレノア――明日、俺は君の隣に立つ」

「そして......」

「君に想いを伝える」

「........................しかるべき時に」


秋季舞踏会――。

すべてが、動き出す日。
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