堅物上司の不埒な激愛

結城由真《ガジュマル》

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「あ……ありがとうございます」

 差し出してもらった本が、よりにもよって際どい大人描写ありの恋愛漫画だったので、気まずさMAX。
 恥ずかしさで血が沸騰しそう。
 課長は相変わらず無表情で無口なので、何を考えているかわからない。

「鎌田さん、」

 課長の背後に近づいてくる女性が目に入り固まる。
 パッと見ただけで心を奪われるような美しい人だ。
 長い髪が艶々で、手足は細くスタイル抜群で。
 もしかして課長の恋人?
 何故か胸がモヤッとして、そんな自分に驚いた。

「……申し訳ありません。会計は僕が済ませておくので、先に帰ってください」

 淡々とした課長の言葉に、女性は僅かにムッとした表情をしながらも店を出た。

「あ、あの。すみませんでした。もう大丈夫なので」

 全ての本を紙袋に戻すと、立ち上がり会釈する。
 顔を上げた瞬間、次の課長の行動に目が飛び出そうになる。

「課長!?」

 課長は自身のシャツをおもむろに脱ぎ始める。
 そして、そっと私のブラウスにかけてくれるのだった。
 半袖のトップスから伸びる腕の逞しさにドキッとする。
 こんなふうに課長の腕をまじまじ見るなんて初めてのことで。
 私に服をかけてくれる行為といい、何もかもが新鮮で課長じゃないみたい。

「だ、大丈夫ですよ! 課長のシャツが汚れてしまうので」

「……とにかく出ましょうか」

「え!?」

 彼は私のテーブルに置いてある伝票を取ると、すぐにお会計へ向かってしまった。

「胸アツ展開!」

「おばちゃん頑張って!」

 双方のカップル達に何故かガッツポーズや拍手をされて、「おばちゃん?」と困惑しながらも慌てて課長の後を追う。

「課長、すみませんお金……」

 外に出るやいなや代金を差し出す私に、課長は「大丈夫です」と淡々と答える。
 全く大丈夫じゃなくて、私はオロオロするしかない。

「ご迷惑おかけして申し訳ありません。課長……先ほどの女性と」

 デート中でしたよね? と言いかけて口ごもる。
 課長は尚も無表情で答えた。

「前の部署でお世話になった社員の方なのですが、折り入って相談があると言われ呼び出されたんです。しかし実際はプライベートな話ばかりで困惑していたところだったので、中断するきっかけができて助かりました」

「そうなんですか……」

 ホッとしている自分に戸惑う。
 どうして私はさっきから課長のことで一喜一憂しているんだろう。

「ありがとうございました。シャツはクリーニングして週明けにお返しします」

 その時に改めてカフェの代金を返そう。
 そんなふうに思って深く頭を下げ、帰ろうとしたけれど。

「そんなことは気にしないでください。それよりこのまま帰るのは気が引けるでしょう。僕の車で良ければ送って行きます」

「ふぁい!?」
 
 今年一大きな声が出た。
 今なんと!?

「近くの駐車場に停めてあるので、それまでの辛抱です」

「そんな! 課長!?」

 まさかあの孤高の存在の課長が、車に乗せてくれるなんて。
 びっくりするくらいけたたましい音で心臓が動きながら、先を行く課長について行くしかなかった。
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