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月曜日の居酒屋は空いていて、いつもは埋まっている半個室の席を案内してもらえた。
ゆっくり話せる、と益々上機嫌の山ちゃん。
生ビールとレモンサワーで乾杯し、お通しを食べるのもそこそこに本題に入った。
「……先輩、恋してますね?」
頬を紅潮させ、鼻息荒く質問する山ちゃんに、観念したように頷く。
ここで否定しても誤魔化す器用さが私にはないし、むしろこの異常事態を相談したいという、藁にも縋る思いがあった。
「……してます。し始めました」
目をキラキラと輝かせる山ちゃん。
「お相手は、まさかの……?」
「……………………鎌田課長です」
瞬間、山ちゃんは可愛く両手を口元に当て、足をバタバタさせた。
叫びたいのを我慢しているみたい。
「やっぱり! 今日、なんか様子違うなって思ってたんですよ。先輩、課長のことチラチラ見て顔真っ赤にして。可愛いったらないです」
そんなにわかりやすかったなんて、恥ずかしいったらないです……。
「いつから付き合うことになったんですか? どういう馴れ初めで?」
「違う違う! 付き合ってるわけじゃない! その…………私のか、片想いでっ」
生まれて初めて自分の口から発せられた片想いという言葉に、顔が火を噴くように火照る。
「可愛すぎる……」
山ちゃんはしばらく呆然とした後、ハッとしたように咳払いした。
「それにしても意外ですね。よりにもよって鎌田課長なんて。確かに顔はいいですけど、超冷たくてちょっと怖いじゃないですか」
「そんなことないよ! 無口なのは誠実だからこそで、本当は心優しくて思いやりがある人。相手のペースに寄り添ってくれる、あったかい人だよ」
いつの間にかうっとりと語ってしまった私に、山ちゃんはニヤニヤしながら言った。
「……何かあったんですね?」
やはり鋭い山ちゃん。
週末のハプニングについてかいつまんで説明した。
「…………それ、ぜっ……たいに脈ありですよ! 九分九厘! 賭けてもいいです!」
かなり興奮した様子で立ち上がり力説する山ちゃんに、苦笑するしかない。
「ないよ。優しいから、ほっとけなかっただけだと思う」
「優しさだけでペアコーデします!? 好みじゃない映画一緒に観ます!? 家までしっかり送ります!? どう考えてもド本命彼女に対するやつですよそれぇ! なんなん、あの人。マジ油断ならねえ」
既に酔い始めている山ちゃんは、ブツブツ言いながら再び席に座ってレモンサワーを飲んでいる。
まだ彼女の言葉が信じられなくて、困惑しながら私も生ビールを呷った。
「課長って、望月さんがタイプだったんだ」
ぶはっと思いきりビールを噴き出す。
「だから、好きなのは私なのであって……それに、タイプとかそういうの私対象外だし」
なんてったってオカンだし。
「そんなことないですよ」
「山ちゃん?」
山ちゃんは真剣な眼差しで言った。
「望月さん、ぶっちゃけ超ポテンシャルありますよ。人格者だし、仕事もできるし気さくだし。充分魅力的だと思いますけど」
「山ちゃん……」
お酒が入っているせいか涙腺が緩い。
山ちゃんの温かい言葉は胸に沁みたけれど、それでも課長とどうこうなりたいなんて勇気はない。
「ありがとう。……でも、私オカンだし」
「だったら変身して課長の心掴みましょうよ!」
「え?」
「ギャップ萌えです! お色気ムンムンな望月さんにシフトチェンジして、課長落としちゃいましょ! 私お手伝いします!」
満面の笑みで頼もしく微笑む山ちゃんに、後光が射して見えた。
ゆっくり話せる、と益々上機嫌の山ちゃん。
生ビールとレモンサワーで乾杯し、お通しを食べるのもそこそこに本題に入った。
「……先輩、恋してますね?」
頬を紅潮させ、鼻息荒く質問する山ちゃんに、観念したように頷く。
ここで否定しても誤魔化す器用さが私にはないし、むしろこの異常事態を相談したいという、藁にも縋る思いがあった。
「……してます。し始めました」
目をキラキラと輝かせる山ちゃん。
「お相手は、まさかの……?」
「……………………鎌田課長です」
瞬間、山ちゃんは可愛く両手を口元に当て、足をバタバタさせた。
叫びたいのを我慢しているみたい。
「やっぱり! 今日、なんか様子違うなって思ってたんですよ。先輩、課長のことチラチラ見て顔真っ赤にして。可愛いったらないです」
そんなにわかりやすかったなんて、恥ずかしいったらないです……。
「いつから付き合うことになったんですか? どういう馴れ初めで?」
「違う違う! 付き合ってるわけじゃない! その…………私のか、片想いでっ」
生まれて初めて自分の口から発せられた片想いという言葉に、顔が火を噴くように火照る。
「可愛すぎる……」
山ちゃんはしばらく呆然とした後、ハッとしたように咳払いした。
「それにしても意外ですね。よりにもよって鎌田課長なんて。確かに顔はいいですけど、超冷たくてちょっと怖いじゃないですか」
「そんなことないよ! 無口なのは誠実だからこそで、本当は心優しくて思いやりがある人。相手のペースに寄り添ってくれる、あったかい人だよ」
いつの間にかうっとりと語ってしまった私に、山ちゃんはニヤニヤしながら言った。
「……何かあったんですね?」
やはり鋭い山ちゃん。
週末のハプニングについてかいつまんで説明した。
「…………それ、ぜっ……たいに脈ありですよ! 九分九厘! 賭けてもいいです!」
かなり興奮した様子で立ち上がり力説する山ちゃんに、苦笑するしかない。
「ないよ。優しいから、ほっとけなかっただけだと思う」
「優しさだけでペアコーデします!? 好みじゃない映画一緒に観ます!? 家までしっかり送ります!? どう考えてもド本命彼女に対するやつですよそれぇ! なんなん、あの人。マジ油断ならねえ」
既に酔い始めている山ちゃんは、ブツブツ言いながら再び席に座ってレモンサワーを飲んでいる。
まだ彼女の言葉が信じられなくて、困惑しながら私も生ビールを呷った。
「課長って、望月さんがタイプだったんだ」
ぶはっと思いきりビールを噴き出す。
「だから、好きなのは私なのであって……それに、タイプとかそういうの私対象外だし」
なんてったってオカンだし。
「そんなことないですよ」
「山ちゃん?」
山ちゃんは真剣な眼差しで言った。
「望月さん、ぶっちゃけ超ポテンシャルありますよ。人格者だし、仕事もできるし気さくだし。充分魅力的だと思いますけど」
「山ちゃん……」
お酒が入っているせいか涙腺が緩い。
山ちゃんの温かい言葉は胸に沁みたけれど、それでも課長とどうこうなりたいなんて勇気はない。
「ありがとう。……でも、私オカンだし」
「だったら変身して課長の心掴みましょうよ!」
「え?」
「ギャップ萌えです! お色気ムンムンな望月さんにシフトチェンジして、課長落としちゃいましょ! 私お手伝いします!」
満面の笑みで頼もしく微笑む山ちゃんに、後光が射して見えた。
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