堅物上司の不埒な激愛

結城由真《ガジュマル》

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12 課長視点

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「鎌田課長ってちょっと怖いよね」

「わかる。とっつきにくいっていうか」

 偶然同じ電車に乗り合わせた営業部の社員二人が、近くに俺が居るとも気づかずに話し始めた。
 盗み聞きなんてしようとは思わないが、勝手に耳に届いてしまう。

「いっつも無口で無表情でさ」

「いくら顔がよくてもあれじゃね」

「よく課長になれたよね」

 散々な言われようだが、少しもダメージはない。
 そんなことはとうの昔から自覚しているからだ。

 幼少期から内向的で、人と話すのが苦手だった。
 柔らかく微笑んでみたくても、どうしても顔が強張ってぎこちなくなってしまう。
 ……特に相手が女性となると、緊張して声も出ないほどだ。

『やっぱ無理だわ。つまんなすぎ。エッチ下手だし』

 高校時代、生まれて初めて告白されて交際した女子に数ヶ月で振られて以来、女性に対する恐怖心が強く残っている。
 成人してから多少身なりはマシになったものの、中身はあの頃と全くと言っていいほど変わらない。
 そんな俺の唯一の救いが彼女だった。

「課長に話しかけられるの、望月さんだけだよね」

 突然出てきた“望月さん”に心臓が大きく高鳴る。

「あの人はすごい。あの人は最強だから」

「天然オカンの世話焼きで人たらしだから、誰とでも話せるんだよね。相手も警戒しないし」

 思わず頷きそうになる。
 ……望月さん。優秀で人あたりも良い営業部のムードメーカーだ。
 彼女だけは唯一、内向的な俺に対して嫌な顔一つせずに朗らかに接してくれる。
 押しつけるような明るさではなく、そっと寄り添うような優しさで相手を受け入れられる望月さんに、いつしか尊敬の念を抱き、目で追うようになっていった。
 彼女のおかげで他の社員達にもスムーズに指示や説明をすることができたのもしばしばで、忙しい時はさり気なくサポートしてくれる。
 いつもどんな相手にも分け隔てなく笑顔で接する望月さんに心を洗われ、何度救われたことか。

 そんな憧れにも似た気持ちが、ある時突然恋愛感情に変化するとは、自分にとって青天の霹靂だ。

 前部署の後輩にどうしてもと呼び出され、仕方なく出向いた都内のカフェで、望月さんはいつもの安心感の塊のような笑顔を店員に向けていた。
 
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