堅物上司の不埒な激愛

結城由真

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「……また増えた……」

 数日後、お風呂上がりに体重計を見つめ立ち尽くす。
 いよいよ言い逃れができなくなってきた。
 洗面台の鏡に映った自分の裸体は全体的に丸みを帯びていて、以前の体型に近づいている。
 それでも鎖骨や二の腕、胸元やお腹周りにたくさんのキスマークが散らされていることに胸が締めつけられた。

 大嗣さんの言葉に嘘がないことはわかっている。
 彼は私の外見にとらわれず、一人の人間として愛してくれていること。
 けれどだからこそ、彼の誠実な気持ちに胡座をかいて、自分磨きを怠ることはしたくない。

 大嗣さんの前では、何より自分自身が一番好きな自分でありたい。
 いつか彼にとって大切な人達にも、認めてもらえるような自分に。

「お風呂上がりのストレッチしよう……」

 いつもの着心地の良いダルダルなTシャツと短パンはやめて、買ったばかりのルームウェアに袖を通す。
 お酒を飲むのも自粛して、リビングで簡単なストレッチをしているとスマホが鳴った。

『お疲れさまです』

 メッセージの送り主は大嗣さん。
 たちまち胸が弾んで、正座して両手で拝むようにスマホを持つ。

『もう就寝されるところでしょうか。夜分になってしまい申し訳ないです』

 メッセージと共に浮かび上がっている時間はまだ21時半過ぎ。
 彼らしい律儀で思いやり溢れる文章に口もとが緩む。

『今週の金曜、本当はかなめさんを食事に誘うつもりでしたが、残念なことに先約ができてしまいました。ハジメからどうしても込み入った話があると。仕事関連の話も絡んでいるらしいので、泣く泣く出席します』

 文章からすごく憂鬱な気持ちが滲み出ていて、我慢できずにぷっと吹き出した。
 親友なんだから、そんなに嫌がらなくてもいいのに。
 この間一緒に食事をして、ハジメさんは大嗣さんのことが大好きであることがわかってしまったから、少し同情してしまう。

『また土曜日、都合がよろしければ二人で外出できれば幸いです。かなめさんが行きたいところはどこへでもお連れしますし、お任せでよければいくつかプランも考えてあります。自宅でゆっくりするのも歓迎です。泊まりも含めてご検討宜しくお願いいたします』

 とてつもなく堅い長文メッセージが愛しくて、胸がギュッと鳴り思わずスマホを抱き締めた。

「大嗣さん……」

 ああ、なんて素敵な人なんだろう……。
 身悶えたのちに、やっとのことで返信の文章を打ちこむ。

『ご連絡ありがとうございます。週末の件、承知しました。飲み会、ゆっくり楽しんでくださいね。土曜日は是非宜しくお願いいたします。お泊まり大賛成です! デートプラン、考えてくださり嬉しいです。二人でいられたらどこでも楽しいので、大嗣さんの心身が休まる場所を希望します』

 自分まで堅い長文になってしまう。
 こんなやりとりは日常茶飯事だ。
 少しぎこちない気もするけど、これから少しずつ距離を縮めていけたら。
 そんなふうに胸をときめかせてメッセージを送ると、直後に手が滑ってスタンプを誤信してしまった。

「やばっ!」

 送信されたのは、パンダが投げキッスをして『大好き』とハートを振りまいているスタンプ。
 瞬間、顔に熱が集まって、ボッと火が噴くように体温が上昇する。
 取り消したいけど秒で既読になり、為す術がない。
 すると再び大嗣さんからメッセージが届き、もっと顔から火が噴いた。

『愛してます。今すぐ会いたい』

 直球のメッセージに、カーペットに寝転んでのたうち回る。

「あー! あー! あー!」

 職場では公私を分けていて、あまり素の顔を見せない大嗣さん。
 だけどこうしてふとした時に見せる情熱的な一面に、心を奪われてばかりだ。

『週末、少し遠出してホテルに泊まりましょうか。かなめさんの好みに合いそうなところを調べておきます』

 そんなメッセージに心臓がドクッと脈打つ。
 私の好みに合いそうな場所って、観光地? それともホテル……
 私に触れる大きな手や熱い吐息、柔らかい唇が脳裏をよぎってもっと身悶えてしまうのだった。


 
 
    
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