堅物上司の不埒な激愛

結城由真

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 山ちゃんに気づかれない為にも急いで席に座り、ラミネートされたお勧めメニューで顔を隠した。
 何故こんなふうにコソコソしてしまうのか自分でもわからない。
 だけど大嗣さんの向かい側にはハジメさんが居るし、男同士の付き合いに水を差すのも気が引けた。

 メニューの横からチラリと盗み見た大嗣さんは、あまり笑顔を見せないもののリラックスした感じで、友達といる時の新鮮な姿にくすぐったさを覚える。
 ハジメさんはすこぶる嬉々として、今私が挨拶をしたら恨まれそうだ。

「スパークリングとかいっちゃいます?」

「おーいいね!」

 ホクホクと、タブレットの方のメニューを見て操作している山ちゃんには申し訳ないけど、頃合いを見て二軒目へ誘おう。
 そう思った矢先。

「ごめーん! お待たせ!」

 一際通る女性の声が届き、周りのお客さん達は皆一斉に、颯爽と歩く女性を見上げた。
 私もつられるように視線を彼女に移す。
 快活な声と同様に、とても自信に満ち溢れた美しい女性だった。
 ぴんと伸びた背筋も、芸術品のように繊細に編み込まれたアップスタイルの髪型も、スタイルの良さが際立つオフショルダーの南仏風ワンピースも、全てが神々しい。
 彼女の横顔を一目見た瞬間、電流が走ったかのように動けなかった。  

「ハナ、こっち」

 私の席から、ハジメさんが彼女に手招きしているのが見えた。
 背中にじわりと冷や汗が滲む。

「久しぶりー! えー! たいちゃん!? 別人みたい!」

 離れたところからでも、大嗣さんが驚いている様子なのがわかった。
 目を見開いたまま、じっと彼女を見上げている。
 見惚れているようにも見えて、ズキンと胸が痛み出す。

 まさか今日、ハナさんと会う予定だったなんて思いもしなかった。
 彼のことを信じていないわけではない。だけど元恋人、そしてこんなにも魅力的な女性と、私が知らないところで共に過ごしていると思うだけでどうしようもなく苦しい。

「……ごめん山ちゃん、一杯飲んだら二軒目行ってもいい?」

 これ以上大嗣さんのことを見ていられなくなって、すぐに山ちゃんへと視線を移した。
 そこでギョッとする。
 ハナさん登場に夢中だったから、山ちゃんの様子に気が回っていなかった。

「あのインスタ女ぁ……」

 ハジメさんのテーブルに身体全体を向けて、わなわなと震えている山ちゃんに白目を剥きそうになる。

「や、山ちゃん、」

「どういうことですか? あの女、課長にも手を出すなんて!」

 まずい。山ちゃんにも課長がここにいることがバレてしまった。
 慌てて取り繕って微笑み、山ちゃんを落ち着かせることに尽力する。

「気にしないで飲もうよ。きっと何かの打ち合わせだから。おつまみどうする?」

「でもガンガンに攻めてますよあの女」

 静かな怒りを滲ませて彼らのテーブルを凝視する山ちゃんにつられて、再び大嗣さんを一瞥すると、彼の隣には既にハナさんが上機嫌で腰を下ろしていた。
 二人の間には大嗣さんの鞄が置かれているけれど、そんなことはお構いなしで距離を詰めていく彼女に、さすがに平常心ではいられなくなる。

「山ちゃん、やっぱり別のお店に……」

「行きましょう!」

「え!?」

 勢いよく立ち上がり、すぐさま奥のボックス席へと向かう山ちゃんに、今度こそ泡を噴いて卒倒しそうになった。
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