PRETEND【オメガバース】

由貴サクラ

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その香り(1)

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 それから和泉は朔耶を頼りにしてくれるようになった。
 朔耶がオフィスを訪ねると、和泉は受け持ちの個々の事例を出して、意見を問うようになっていた。その問いかけに見合う情報と回答を持って、朔耶も和泉を訪ねる。

 最初は戸惑いながらも始めたMRの仕事であったが、思った以上に楽しくなってきた。
 本社の学術部の上司の青木は、半年ほどで呼び戻してやると言っていたが、このまま東京中央営業所にいてもいいかなと思えるくらいに、朔耶はMRという仕事にやりがいと楽しさを見い出し始めていた。



「来週の学会は札幌だろ。君は行くのか?」

 そう和泉に問われたのは、五月の半ば。日課のように和泉のオフィスを訪ねるようになって二ヶ月半が経とうとしていた。この時期に毎年、アルファ・オメガ医学会の総会が開催される。毎年、各地の大学の教授が発起人となるが、今年は北海道の医大がその順番にあたる。札幌のホテルと会議場で開催されることになっている。
 アルファ・オメガ専門医にとっては当然だが、メルト製薬の社員にも大きなイベントだ。とくにMRは、担当する医師をフォローするために集結するのだ。
 本社の学術に在籍していた頃から、朔耶もこの学会に手伝いとして参加している。今回は和泉を接待するために札幌入りを予定している。

「あ、はい。もちろんです。先生に講演をお願いしているのですから」
 和泉には長田を通して本社から、医療関係者向けのメルト製薬主催セミナーの講師を依頼していた。
 和泉は朔耶に対して表情を崩した。
「長田所長にお願いされてはわたしも断れないしな」

「長田は、先生と長いお付き合いをさせていただいているのでしょうか」

「同じ年だし」
 それは意外な情報、と朔耶はとっさに思う。
「彼は、やっぱり巧いよね」
 和泉はそう唸る。

「大学を卒業して研修医として入った病院に長田所長も出入りしていたんだ。こっちは研修医だし、MRさんに見向きもされないし、最初は全く接点がなかったんだけど、その頃、指導医の先生のお供で一緒に飲みにいって、意気投合してしまってね。彼は優秀だったから、その後すぐに東京に異動になったけど、それからも学会や研究会で会うと、いろいろと話す仲になってしまって。それで極めつけが、ここでの関係だ。僕が母校に戻ってきたら、もう彼はすでにここにガッツリ食い込んでいたんだ。出会いは研修医時代からになるから、どこのメーカーさんよりも長田さんとは長いよね」
 その言葉の節々で、和泉が長田を信頼しているのが読み取れる。

 なぜ、長田は自分が担当することなく、朔耶に任せることにしたのだろうか。
 結果として、うまくいっているが、初対面で和泉が言ったことは真実だ。まったくの素人にどうして大口の得意先を任せることにしたのか。そのあたりの詳細を聞いたことはなかった。


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