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しおりを挟むいじけるように不満を垂らし、あなたは机に突っ伏す。その時、ふっと匂いが漂う。柔軟剤だろうか。石鹸のような優しい香り――いや、それだけじゃない。人の肌のような匂いもする。無性に安らぎを感じる、あなたはこの匂いを知っている……。
(あれ?……なんだろう、これ)
いつの間にか、あなたは肩にカーディガンを羽織っている。薄手のゆったりした、柔らかいクリーム色の。それが匂いの正体だった。メンズものみたいで、あなたが着るとワンピースっぽくなって可笑しい。
他にも気づいたことがある。あなたの隣の席で、無造作に広げられたままの教科書とノート。そして飲みかけのペットボトル。ついさっきまで誰かが座っていたという痕跡に、あなたの胸が疼く。
記憶のどこかにはぐれてしまった思い出。夢によって一から拵えられた純度百パーセントのフィクションかもしれないけど、あなたは何となく見当がついていた。
さっきまで一緒にいた人。
カーディガンを貸してくれた人。
等身大のあたしを受け入れてくれる人。
根拠のない自信に、自分で呆れてしまう。もしかしたら願望かもしれない。それでも心に思い描けるのは、たった一人だけだった。
(君は誰なの? どこにいるの? ちゃんと会って、話をしようよ――)
隣の席から静かに語りかけてくる“抜け殻”に耳を澄ますが、やっぱり返事はない。
ふと、あなたは隣席に置かれた教科書を覗いてみる。あなたと同じ二年生の国語の教科書だった。適当にページを繰っていると、隅っこの空白のスペースに落書きがしてあり、モデルが自分であることをあなたは理解する。あんまり特徴を捉えているから居心地が悪い。同時に、その絵にたいして強い既視感も覚える。
どうしてだろう?――不思議と引き込まれる絵に、あなたが見入っている時だった。
「どうかな、この鈴村さん。良く描けてるでしょ?」
声が降ってきた。あなたは驚きのあまり椅子から跳ね上がりそうになる。慌てて振り返ると、そこには彼がいた。
寝癖のひどい、厚ぼったいフレームの眼鏡をかけた、謎の彼。彼はあなたを驚かせてしまったことなんてお構いなく、まるで緊張感のない笑顔を浮かべながら話しかける。
鈴村さん、と。
鈴村茜。それがあなたの名前だった。
「……得意げな顔して何言ってるの。あたしの顔は
やめてって言ったでしょ。あんた、前にそれノートにも描いて、消すの忘れて提出したことあったじゃん。あたしまで職員室に呼び出されて恥かいたんだからね」
「ごめんごめん。いやあ、あれは本当に焦ったよね。でもほら、これは相当自信作だから。実物と同じくらい可愛く描けたもん」
「うるさい、ばか」
考えるよりも先に口が動いていた。まるで痴話喧嘩。そんな息ぴったりなやり取りを交わした瞬間、あなたは全てを思い出した。
まだ付き合う前、放課後に二人で初めて行ったファミレスで、お互いに緊張してうまく話せなかったこと。
ペットショップで、どの猫もあたしにばかり懐くから、君が少しだけ不機嫌な顔をしていたこと。
映画館でふたりとも号泣して、エンドロールが終わるまで席から立てなかったこと。
あたしの誕生日に、駅前広場のフリーマーケットで、淡いオレンジ色した薔薇の花髪飾りをプレゼントしてくれたことも。
それから、もちろん君の名前も――
雨宮昴。
あたしと付き合ってる人。
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