【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第七章:恋を知る夜、愛に包まれる朝

第125話・紅に染まる朝のひと幕

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突然のシグの口づけに、ルナフィエラは胸をどきどきさせながら頬を真っ赤に染めていた。
まだ彼の腕に抱えられたまま、混乱と照れの余韻に揺れている。

「な、なにそれずるい!」

弾かれたように声を上げたのはフィンだった。
ばたばたと駆け寄ると、シグの腕の中のルナフィエラに顔を近づけ――容赦なく唇を重ねる。

「んっ……フィ、フィンっ……!」

「へへっ。僕だってルナが好きなんだから!」

得意げに笑い、彼女の頬にまでちゅっと音を立てて口づけを落とす。

「……はぁ。まったく…」

呆れたように息を吐いたヴィクトル。
しかし次の瞬間には、その流れに迷いなく加わっていた。
シグの腕の隙間に身を寄せ、ルナフィエラの唇を奪い、熱をこめて長く啄む。

「……っ、ヴィクトルまで……」

「ルナ様が可愛いのが悪いのですよ」

悪びれもなく囁き、彼女の髪に口づけを落とす。

赤面して抗議の言葉も出せないルナフィエラを囲んで、3人の騒がしい声が飛び交う。
その喧騒の中――

「……なんだ、この朝っぱらからの騒ぎは」

低く落ちた声に、一同がぴたりと固まった。
布団を押しのけ、ユリウスがようやく身を起こす。
長い銀髪をかき上げながら、紫の瞳で状況を見渡すと、薄く笑みを浮かべた。

「……なるほど。寝ている間に、随分と楽しそうなことをしていたようだね」

「ち、ちがっ……これは――!」

必死に言葉を探すルナフィエラ。
残りの3人は「バレたか」とばかりに視線を逸らす。

言い訳をしようとするルナフィエラの唇に、彼は人差し指をそっと触れさせた。

「言い訳はいらないよ。……ただ、僕だけが出遅れたのが、少々癪なだけだ」

そう囁くと、シグの腕からルナフィエラを引き寄せ、膝の上に抱え込む。
突然のことに紅い瞳が揺れるが、ユリウスは落ち着いた声音で続けた。

「ルナ。……君は、僕のものでもあるんだ。忘れないで」

頬を包む手は驚くほど優しい。
そして、そのまま深い口づけが落とされた。
焚き付けるような荒さではなく――けれど、呼吸を奪うほどに長く、濃密に。

(……っ……ユリウス……!)

胸がきゅうっと締め付けられ、息を吸うのも忘れる。
先ほどの3人の騒がしさとはまるで違う、圧倒的に甘い支配。

やがて唇が離れると、ユリウスは満足げに微笑み、指先で彼女の髪を梳いた。

「……さて、そろそろ仕度を始めようか。王都の朝は慌ただしいからね」

ユリウスのその言葉に、ヴィクトルがすぐに頷き立ち上がる。

「ルナ様の身支度は私が。フィンは荷物をまとめてくれ」

「わかった!」とフィンが元気よく返事をして動き出す。

ルナフィエラがユリウスの腕から体を起こせずにいると、ヴィクトルがすっと歩み寄り、優しい声音で告げる。

「ルナ様、こちらへ。支度を整えましょう」

そう言って抱き上げ、用意しておいた椅子へと丁寧に座らせる。
大きな外套を肩にかけ、紅い瞳を覗き込みながら穏やかに微笑んだ。

「少しの間、私にお任せください」

ルナフィエラは小さく頷き、恥ずかしそうに視線を逸らす。

その様子を、ユリウスとシグは黙って見守っていた。
2人の眼差しには独占欲が滲んでいるものの、今は「ヴィクトルなら安心だ」と譲ったように見える。

フィンは横から「僕も手伝う!」と元気に声を上げ、荷物を運びに回っていった。


それぞれの支度が終わる頃、ルナフィエラはすでにシグの腕に抱き上げられていた。
昨夜の余韻で足に力が入らず、歩くのは難しい――本人も分かっているから、抵抗せずに胸に身を預けている。

「……ごめんね、また迷惑かけて」

小さな声に、シグは短く応じる。

「気にすんな。俺の腕の方が楽だろ」

そのやり取りを見届けると、ユリウスが掌を掲げて術を紡いだ。
淡い光が3人を包み込み、ルナフィエラの紅い瞳も、シグとヴィクトルの目立つ容姿も、人混みに紛れる穏やかな姿へと変わっていく。

「……これで安心して出られるよ」

「ありがとう、ユリウス」

ルナフィエラは小さく頭を下げ、心の奥の不安が和らいでいくのを感じた。


宿を出て、石畳を抜け市場へと歩けば、香ばしい匂いや甘い香りが漂ってきた。
市場の屋台がずらりと並び、焼き立ての食べ物や果実の香りが風に運ばれてくる。

「……美味しそう……」

ルナフィエラの瞳がそちらへ向くと、フィンが嬉しそうに声をあげた。

「ねえ! 行ってみようよ!」

だが、ユリウスが冷静に制した。

「先に馬車の運行状況を確認しよう。……食事はその後でも遅くはない」

少し残念そうに唇を結んだ彼女を、シグの腕が支える。

「後で連れてってやる」

その低い声に頬を染め、ルナフィエラはこくりと頷いた。


一行は市場を抜け、乗合馬車の案内所へ。
そこで聞かされたのは思いがけない知らせだった。

「次の出発は2日後になります。昨日、馬車が出たばかりでして」

ルナフィエラは思わず息をのむ。

「……ここで……あと2泊もするの…?」

ほんのり不安が滲んだ声に、ユリウスが穏やかに答える。

「大丈夫だ、ルナ。整った街だから、滞在するには悪くない」

「それに、ルナ様の体を整える時間にもなるでしょう」とヴィクトルも静かに続ける。

「街なら遊ぶとこもいっぱいあるし!」とフィンは無邪気に笑った。

ルナは4人の顔を見渡し、小さく微笑む。

「……そうだね。じゃあ、ここでの2日も楽しもう」

その笑みがこぼれた瞬間、一行の胸に温かな空気が満ちていった。
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