純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

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第一章:紅き月の夜の悲劇

第1話・滅びた王家と消えた姫

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100年前——。

ヴァンパイアの王宮は、紅き月の光に照らされていた。
空を仰げば、血のように赤い満月が、禍々しく輝いている。

「さあ、儀式の時だ」

王が高らかに宣言する。

宮殿の最奥にある 「覚醒の間」 。
そこには、王族たちが厳かに集っていた。

「本日、我ら純血の血はさらなる力を得る」

王族の中で最も強き者、ヴァンパイア王が椅子に座し、その周囲に貴族たちが並ぶ。

「純血の血を受け継ぐ我らは、さらなる高みへと昇る運命にある」

ヴァンパイア王家は代々「純血」であることを重んじ、他種の血を混ぜることを禁じてきた。
それこそが、ヴァンパイアの中でも 「王家だけが持つ強大な力」 の源だったからだ。

しかし、それは 同時に恐ろしい呪いを孕んでいた。

——王族の血は、「ある閾値を超えた瞬間、暴走する運命にある」 。

それを知る者は少なかった。
何故なら、覚醒を迎えるたびに 王族は代々「血を継ぐための儀式」を行い、力の均衡を保っていた」 からだ。

だが、この夜、すべてが狂った。

「——始めよ」

合図とともに、儀式の祭壇が赤い光を放つ。
王族たちは、一斉に 紅き月の魔力 を取り込み始めた。

王の瞳が紅く輝く。
貴族たちの身体から、禍々しい魔力が立ち上る。

そして、その瞬間だった。

「……ッ!?」

「ぐ……あ……あぁぁ……ッ!!」

王が、苦しげに喉を押さえた。

「陛下……!?」

王妃が立ち上がる。
だが、その直後—— 宮殿中に、悲鳴が響き渡った。

「……熱い……!!」

「血が……渇く……!!!」

貴族の一人が、突然、喉を掻きむしる。

「ぐ、う……何だ……この感覚……」

「……血が、欲しい……」

血の渇き——それは、暴走の兆候だった。

「……まさか、呪いが……!?」

次の瞬間—— 一人の王族が、隣に座る貴族の首筋に牙を突き立てた。

「……お前の血を……よこせ……!!」

「や、やめ……ぐあああああッ!!」

壮絶な吸血音が響く。
襲われた貴族の体が痙攣し、その場に崩れ落ちた。

だが、それは 始まりに過ぎなかった。

「……もっと……濃い血を……!」

「この血では足りぬ……ッ!」

王族たちは、次々に隣にいた者へと襲いかかった。

紅い月の力が、彼らの魔力を高めすぎた。
結果、純血の力が暴走し 「より濃い純血の血」を求めて互いを喰らい合った」 のだ。

元々、ヴァンパイアは人間の血を糧とする。
だが、今の彼らにとって、人間の血など 「薄すぎる」 。

欲しいのは、強大な純血の魔力が宿る「王族の血」 。

それは ヴァンパイアの本能——血を支配する者の運命 。

彼らは 王族としての誇りも、理性もすべて失い、「血を求める獣」へと変貌していく。

「……こんな、馬鹿な……!」

王妃の叫びも虚しく、「純血の呪い」 に囚われた者たちは、次々と牙を突き立て合った。

壮絶な咀嚼音と、血の滴る音が広間に響く。

かつて誇り高かったヴァンパイアの王族たちは 「最も高貴な血を持つがゆえに、互いに食い合い、滅んでいく」 。

それが 「純血の呪い」 の本質だった。

—— 王族の血は、強くなりすぎたのだ。

その結果、「自らを支配できる者がいなくなった」 。

ゆえに、王族同士が 本能のままに「最も強い血を求め」殺し合うしかなかったのだ。

それが、「紅き月の夜の悲劇」——ヴァンパイア王家の滅び。

王族の一人が、血まみれの口元で呟く。

「……我らは、最強であり……最も……愚かだった……」

彼の体が、静かに崩れ落ちる。
その手には、喰らったばかりの同胞の血が滴っていた——。

こうして、一夜にしてヴァンパイア王家は滅びた。

唯一、生き残ったのは——

「まだ未覚醒の、純血の姫」ただ一人だった。
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