転生したら魅了スキルが強すぎて人生ハードモードだった件

蟒蛇シロウ

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第1章「幼少期~小学生の日々」

第24話「入間との再会 Ouroborosの計画とは」

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 外は快晴で、雲一つない青空が広がっている。こんな状況でもなければピクニックにでも行きたくなるような陽気だ。
 俺が外出した理由は、買い物以外にもう1つある。今日、入間さんと会って薬をもらいながら、少し話をすることになっているのだ。
 俺はまず近くのスーパーに向かうことにしたが……その途中もやはり人の姿はほとんどなく閑散としていた。
 だけどやはり、この辺りはまだ比較的いつも通りだった。すれ違った警察官に声を掛けられたけど、暗くなる前に帰るように、という程度だった。
 別の場所で本当に世紀末のような事態に陥っているのかと疑いたくなるほどだった。

 スーパーに到着すると、いつもと変わらない平穏な光景がそこには広がっていた。皆、不安そうな顔をしているもののお客さんもそれなりに来ていたし、最も危惧していた買い占めなどはまだ起きていなかった。それも今のうちだけかもしれない……。
 だからこそ、こうして早めに備えないといけない。俺はカゴの中に食料品や生活用品をどんどん入れ、手短に買い物を済ませた。
 そして、レジに並ぶ人の列に並ぼうとした……その時だった。

「なるほどなるほど、たしかに冷凍食品は便利だねぇ。だけどもしも電気の供給が途絶えてしまえば全てダメになってしまうだろう。缶詰や乾パンなんかをもう少し多く買っておきたまえ、雄飛くん」
 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのはやはり入間さんだった。
「入間さん! こ、こんなに堂々と姿を見せていいんですか? たしか、指名手配犯ですよね?」
 この店の近くの公園で待ち合わせる約束をしてい入間さんが、急に現れたので驚いていると、彼女は笑みを浮かべる。
「フッフッフッ! その点は心配ご無用だよ。私は今、君以外の他者から"入間真珠"として認識できないように発明品で制御しているからね。普通のお姉さんというわけさ!」
 美しい青髪に探偵のような服装とサングラス……どう見ても普通のお姉さんでは無い気が……。
 入間さんに言われた通り、缶詰などの常温で保存が利くものを追加して、レジに並んだ俺は会計を済ませる。


 店を一緒に出た入間さんに尋ねた。
「あの、ところでどうしてわざわざ店まで来たんですか? 待ち合わせはあそこの公園なのに」
「いやいや、待ち合わせ場所に早く着きすぎてね。そしたらちょうど君が店に入っていくところを見かけて、せっかくだからちょっと驚かそうとね」
 入間さんはそう言って悪戯っぽく笑った。俺はため息をついて言う。
「はぁ……、心臓が止まるかと思いましたよ……」
「アハハ。それはすまないことをしたねぇ。ここ数日の状況を考えるともう少し不安そうな顔をしているかと思ったけど、どうやら思ったよりは元気そうだねぇ」
 入間さんはそう言って、俺の顔を覗き込む。

「まぁ……。でも、不安が無いと言えば嘘になりますけど……」
 俺がそう答えると、入間さんは少し真剣な表情で言う。
「……そうかい。それはそうだろうね……。……でもその話の前に。さっそくだけどまずは本題からいこう」
 彼女の言葉に、俺も真面目な顔でうなずく。
「さて、精力のコントロール鍛錬は上手くいってるかな? チェックシートを見せてくれるかい?」
 公園のベンチに並んで座るなり、彼女はそう言って俺に手を差し出す。
「はい、これです」
 俺は彼女にチェックシートを手渡すと、彼女はそれをじっくりと確認しながら言う。
「ふむ……、なるほどねぇ。おや、予想よりもずいぶんと禁欲が出来ているようだ。この2週間程度で、たったの2回か……。君の特異体質を考えると、見事な結果だよ。すでに性欲を性欲として処理せず、昇華させる方法を見つけたのかな?」
 その問いに、力強くうなずいて答える。

「はい! 体を動かすことで頭もスッキリするし、体も鍛えられていいなって気付いたんです!」
 俺の言葉に、彼女は目を細めて言う。
「ほう……。なるほどねぇ。それはいい心掛けだね。だけど、時々は我慢せずに吐き出した方がいい。溜め込みすぎると、ふとした瞬間に本能に支配されてしまうかもしれないからね。ニュースなんかでも見るだろう? 痴漢した犯人に動機を聞いたら、"魔が差した"ってね。君の場合、常人より遥かに異常な精力の持ち主だからねぇ。その衝動は、時に命取りになる」

 彼女の言葉に、俺は思わず生唾を飲み込む。……確かにそうだ。俺の精力が常人のそれと比べて異常に高いのは事実だし、そんな俺がもし性欲に負けてしまったら……きっと取り返しがつかないことになるだろう。
「はい……気を付けます……」
 俺がそう言って拳を握ると、彼女はうんうんとうなずく。
「よろしい。……性的欲求そのものは悪いことではないのだからね。そも、性欲が無ければ人類は繁殖できない。しかし、欲望に支配されてしまうのは愚かしいことだ。だからコントロールする必要があるわけさ」
 入間さんはそう言ってサングラスの位置を直すと、真剣な目をした。


「さて、もう1つの本題に入ろう。君は先日、Ouroborosと接触をしたのだろう? 華怜から聞いたよ」
 Ouroborosという単語を聞いた瞬間、あの痩せ細った女性のことを思い出してしまい、思わず身震いする。
「はい……、そうです」
 俺がそう答えると、入間さんは顎に手を当てて続ける。
「ふむ……ずいぶんと早い接触だ……。今回のテロ事件を予期し、様子見に来たのか……あるいは……」
 そこで一度言葉を切ると、彼女は続ける。
「Ouroborosの行動原理は、我々の想像を遥かに超えるものだ……。その目的もね……」
 入間さんの深刻な表情に、俺も思わず息を呑む。

 俺は華怜から聞いて以来、彼女に聞きたかったことを意を決して聞いてみた。
「入間さんは、以前Ouroborosと取引をしていたって、華怜が言ってました……。ヤツらと協力していたんですか? この事態を引き起こしているのも、ヤツらなんですか?」
 入間さんはその問いに静かに答える。
「いいや、取引自体はしていたが、私はOuroborosに与していたわけではないよ」
 その言葉に、俺は内心ホッとする。しかし彼女は続けて言う。
「いや……というよりも私がヤツらの目的を知ったのは、ここ数年のことなんだ。それまで彼らは、ただの転生者の集まりでしか無かったんだよ」
「え……? どういうこと……?」
 俺がそう聞くと、彼女は目を閉じて続ける。

「前世の記憶と不思議な能力を持って生まれてしまい戸惑っている転生者たちの受け皿……それがOuroborosだったんだ。私は彼らから能力の研究をさせてもらう代わりに、転生者がなぜ誕生するのか、どのような法則があるのかを調べる研究を手伝っていたんだ。しかし……。数年ほど協力したけどヤツらと私は、袂を分かってしまったのさ……」
「え? どうして?」
 俺がそう聞くと、彼女は首を横に振る。
「それがはっきりとはわからなくてね……。いつものように取引しようと彼らの拠点に向かったらもぬけの殻。しかも口封じのためなのか、私を殺そうとする罠が幾重にも仕掛けられていてね……。そこからしばらく彼らはピッタリと消息を絶ったんだ。そして、その数年後……」
「再び活動を再開した……。明確な目的を持って……」
 俺がそう言うと、入間さんはコクリとうなずく。

「そう……。だからヤツらが雄飛くんや華怜に接触するだなんて大胆な行動を起こしたのは、この数年密かに準備してきた計画を実行できると踏んだからだろうね」
「計画……って……?」
 俺がそう聞くと、入間さんは顎に手を当てて答える。
「それはまだわからない。しかし少なくとも私は、Ouroborosが転生者を意図的に生み出すという法則を解明したんじゃないかと思っているんだ」
 その言葉に、俺は少し驚いた表情で尋ねる。
「え……? 転生者を意図的に? そんなこと、可能なんですか? だってそんなことをしたら……」
 すると彼女はうなずく。

「うむ……。転生者が増えれば死生観の根底が揺らぎ、死を恐れない人たちが増えていく。その結果、戦争やテロを誘発して、ますます死が身近なものになってしまうわけだ」
 彼女の言葉に恐ろしい光景を想像してしまう……。死んでも記憶を持って生き返れるから、今の世界でどんなことをしても一度死んでしまえばいい。
 そうすれば新たな人間としてやり直せる……。
 それは下手をすれば命という縛りを軽んじ、人類を滅亡へと導く思想となりうるかもしれない。

「彼らは人類を滅亡させようとしている?」
 俺の問いを入間さんは首を横に振る。
「いいや、それは無いだろうね……。Ouroborosはそんな思想には染まらないはずだ。ヤツらの目的はもっと別なところにあると思うよ」
「じゃあ一体、何が目的なんですか……?」
 俺の問いに彼女は少し沈黙した後、言う。
「それは……。いや……まだ私の想像でしかない。それを伝えることで君を混乱させたり、ましてや不安がらせるのは良くないだろう。今言えることは……君の能力を君自身が制御できるようになって、その力の使い方を自分で選ぶことができるようになることだ。……こんな状況だけど、焦ってはいけないよ? 無理をすればきっと、よくない事が起こってしまう。だからゆっくりと着実にやっていくんだ。いいね?」

 今までの彼女の表情の中で、一番真剣だった。きっと本当に大事なことなんだろう。
 連中の目的が何なのかは気になるけど、たしかに彼女が言うようにここ数日のことや、父さんのことで頭がいっぱいいっぱいだ。
 俺は彼女の目を見て、しっかりとうなずいた。


 入間さんはそんな俺を見て笑みを浮かべると立ち上がる。
「よし、じゃあ私はそろそろ行くよ。……ああそうだ! 1つ言い忘れていたよ」
 彼女はそう言うと、俺の目を見る。
「今起きてる都心5区で起きているテロ事件にOuroborosが関与しているかはわからないけど……連中はこの機に君に接触して来る可能性が高い。華怜からも忠告を受けていると思うけどね、ヤツらと接触するのは危険だ。もしも接触しても1人で相手をしてはダメだよ。華怜から貰ったアイテムを使って、逃げるんだ。そして、その後必ず私か華怜に相談したまえ。いいね?」
「はい、わかりました」
 俺の返事に入間さんは満足気に微笑むと、そのまま公園を去って行った。

 俺も早く帰らないとな……。
 入間さんは華怜が言うように、根っからの心優しい善人というわけではないのかもしれないけど、少なくともOuroborosとは昔に関係を断っている。
 今は、協力者として信頼してもいいだろう。……いや、そうでないと困る。小学生の俺や華怜だけじゃ、Ouroborosから身を守るのは難しいのだから。
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