転生したら魅了スキルが強すぎて人生ハードモードだった件

蟒蛇シロウ

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第1章「幼少期~小学生の日々」

第29話「父の裏切りと狂ったニュー東京」

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 そして翌日の夜だった。テレビのチャンネルを弄っていると、『ニュー東京に残ろう! 幸せを掴め!』と題した番組が、ニュー東京に占拠された放送局のチャンネルで流れていた。
 そこには、10年近く前に人気を博していたものの、すぐに"一発屋"として消えていったピン芸人が司会をして映っていた。ひな壇には、多くの著名人たちが笑顔で座り、司会のピン芸人と談笑している。

「どうして皆さんは、日本を捨ててニュー東京で生活しようと思ったんでしょうか?」
 司会が尋ねると、最近はタレントとして活動している元野球選手の男性がすぐに答えた。
「やっぱり、政府への不信感が拭えなかったからです。だってあの人ら、ずっと国民の意見無視して好き勝手やってるじゃないですか。それに、今回のテロ事件だって、政府が適切な対応をしなかったから起こったとも言えると思います」
「私もそう思います。元々の元凶は日本政府にあります! その証拠に、政府は自分の身を守ることだけを考えています!」
 元野球選手の男性の言葉に続いて、女性アイドル歌手も声を上げる。

 司会者は「なるほど」と納得したように頷く。
「ニュー東京は真の自由を約束していますからね。金や実力さえあれば、どんな夢だって叶う。まさに理想郷と言えるでしょう! 番組をご覧の皆さん、日本なんかに見切りをつけて、ニュー東京へ来ましょうよ! あなた方はニュー東京の市民になれるのです!!」
 司会がそう言うと、出演者たちや観客たちは拍手喝采を送る。それはまるで洗脳のようでもあった。俺は思わず絶句する。華怜も母さんも茉純さんも……全員が険しい表情でテレビを見つめていた。


「ニュー東京では気に入った女性を、ペットにできるのがいいですよね」
「我々力のある選民には、その権利がありますからね! 私も先日、後輩の若手男性アイドルの子を飼うことにしましたのよ。ふふ、可愛らしかったですわ」
「ニュー東京では下の階級のペットを飼うことができますからね! 何でも言うことを聞くのでとても便利です!」
 司会者やベテラン女優の言葉に、観客たちは大爆笑する。
 正気だろうか? この人たちは、階級が低い人間を自分のペットとして飼う、と言っているのだ。

 女性アイドル歌手の1人が、わざとらしくふざけた口調で口を開いた。
「でもぉ、飽きられたペットはどうなるんですかぁ?」
 女性アイドルの言葉に、司会者や観客たちは大笑いする。そして司会者がその問いに答える。
「もちろん捨てられるんですよ! 捨てられたペットがどうなるか? そんなの決まっています! 別の誰かがペットにするか……さもなくば死ぬだけです!」
 その一言で、会場はさらなる大爆笑に包まれた。
 ……狂っている。俺は吐き気を覚えながらも、テレビから目が離せなかった。


 だが本当に信じられなかったのは次の場面だった。
 番組のゲストとして呼ばれたのは、ニュー東京でフレンチレストランを営むオーナー、として紹介された父さんだった。
「うそ……秀……ちゃん?」
 母さんは大きく目を見開き、呼吸すら忘れたように固まっている。俺も同じだった。あれだけ母さんが心配して電話を掛けても出なかった父さんが、笑顔でテレビの向こうに映っている。
 父さんの身に何かあったのではないか、と心配していた俺と母さんは大きく裏切られる形となった。

「父さん……どうして……」
 俺は思わずそう呟いた。母さんは耐えられずに、チャンネルを変えようとする。
「ま、待って!! ちゃんと……見ないと! どうして父さんがこんなところにいるのか……」
 俺はそう言って母さんの腕を掴む。
「お願い……やめて……こんなの……」
と母さんは目に涙を浮かべながら首を横に振って俺を見る。

 母さんの辛い気持ちはわかるけど、ここでチャンネルを消してしまったら、きっともう何も知ることができない。
 俺はそう思いながら、母さんの腕をさらに強く握った。
「ママは辛いなら見なくてもいいから。俺は父さんがどうしてあそこにいるのか、知りたいんだ!」
 母さんは俺の言葉を聞くと、覚悟を決めたように涙を拭ってうなずいた。
「うん……わかった……。ママも一緒に見るから。だから……」
 そう言って、母さんはそっと俺の手を握り返した。

 そして再びテレビ画面に視線を戻すと、そこには父さんがニュー東京でレストランを経営している様子が映し出されていた。俺も母さんも何度も通った父さんが営む店だ。
「やっぱり僕は東京が好きだし、日本の首都が香川県だなんて言われても納得できないんですよね。だからニュー東京に残ります。選民なので、前よりも自由にいろんなことができますからね」
「選民だから……ですか。さすがは一流レストランのオーナーですな、はっはっは!」
 司会者がそう言うと、観客たちが大爆笑する。

 父さんは笑顔で続けた。
「それに、僕もすでにペットを飼ってるんですよ! 可愛い女の子のペットを3人ね! その子たちとの生活も最高ですよ。自由気ままに、何でも言うことを聞いてくれますからね!」
 父さんがそう言うと、司会者や観客たちは大爆笑する。俺も母さんも茉純さんも華怜も……誰一人として笑うことなどできなかった。
「あれ? ですが、種吉さんには奥さんと息子さんがいますよね? 彼らは都心5区に住んでいないようですが、彼らのことはどうするんです?」
 司会者が尋ねると……。

「あ、もうどうでもいいです。こっちには妻よりも長い付き合いの愛人もいるし。さっき言ったみたいに可愛いペットも3人いるので! 妻と息子とはおさらばです! 縁を切ることにしました!」
 父さんが呆気からんとそう言うと、母さんは顔面蒼白になり、その瞳から涙が零れる。
「秀ちゃん……どうして……?」
 母さんは信じられない様子でそう呟く。
 今テレビに映っているのは、俺の知っている父さんではなかった。真面目で優しい父さんとは似ても似つかない……。

「ママ、大丈夫だよ。きっと父さんは何か事情があるはずだよ……」
 俺もなんとか正気を保ちながら母さんに寄り添うが、それでも母さんは涙を堪え切れず嗚咽する。
 父さんの隣に座っているのは父さんの仕事上の相棒の彩さんだ。
 彼女はなんと、カメラの前で父さんとキスをしてみせた。出演者や観客から歓声が上がり、拍手が起きる。そして、カメラに向かって微笑んで言う。
「ごめんなさいね、舞歌さん! 秀とはずっと昔からそういう関係でした! ふふふ、私、彼と再婚しま~す! 彼と結婚して、このニュー東京で一緒に暮らすことにしたんです」
 そう言って彩さんが画面の向こうから挑発するように微笑むと、母さんは再び嗚咽する。
「ああ……秀……ちゃん……そっか……そう……そうなんだ……」
 母さんを抱きしめる俺だが、その俺の手も震えている。気付けば俺は、涙を流していた。


 司会は、父さんと彩さんの報告に、ふざけたようにコラッと突っ込む。
「こりゃあイケない料理人たちですなぁ、ははっ! でも、西木舞歌さんってかなり可愛らしくて人気のモデルさんでしたよねぇ~。私もファンでしたし! 手放すのは勿体ないのでは? あぁ、5区に居たら私のペットにして可愛がってあげたかったのに残念。残念ですよ、非常に残念!」
 司会がそう言うと、司会者の隣に座るベテラン芸人は、笑いながら言う。
「はっはっは! お前みたいなハゲにあの舞歌ちゃんが飼えるわけないだろ? まったくバカな男だな!」
 その言葉に観客たちから笑いと拍手が起きる。

 司会者も笑ってから再び口を開く。
「いやいや、それが出来てしまうのがニュー東京ではありませんか! 夢のニュー東京! 憧れのあの人も、欲しかったあの商品も、手の届かない高級車も、なんでも金と力で手に入る! それがここ! そう! ニュー東京!!」
 司会が高らかに宣言すると、今日1番の拍手が会場を包み込んだ。

 そしてエンディングが流れ、下のテロップには「夢のニュー東京で、あなたの欲望を叶えませんか? なんでも手に入るニュー東京へ、いらっしゃ~い!」と書かれていた。
 番組が終わり、スタジオの映像が映し出される。司会者やゲストたちは手を振って終了の挨拶をしている。そして最後に父さんと彩さんが画面に現れ、カメラに向かって手を振るのだった。
「ご覧いただきありがとうございました! ニュー東京でお待ちしてま~す!」

 母さんはテレビを消した後、泣き崩れた。そんな母さんを茉純さんが優しく抱き留める。
「舞歌さん……」
 俺は言葉を失ってしまう。
 どうして……。どうしてだよ、父さん! 俺は拳を握りしめた。あんなに優しかった父さんが……どうして!
 泣き続ける母さんを見ると、胸が張り裂けそうな気持になる。そんな俺を、華怜が後ろから優しく抱きしめてくれるのだった。


 父さんに直接会うことはできないだろうか?
 ニュー東京に行って……。1週間あるなら、行って戻って来る時間は十分ある。もちろん無事で居られるかはわからないけど……。
 どうにかして父さんに真意を問いただしたい。俺はそう強く思った。危険であることはわかっている。だからこそ、これは俺1人で成し遂げなくてはいけない。
 転生者の先輩である華怜の力は頼りたいところだけど、この件は俺の家族の問題だ。彼女を巻き込むわけにはいかない。
 そして母さんは連れて行けない。あんなところに母さんを連れて行ったら、さっきの司会者のような連中が何をするかわかったものではないからだ。
 俺は1人で行く決心をした。

 母さんには外出を止められているし、華怜に言うと引き留められるだろうから、俺は夜中にこっそりと抜け出すことを決める。
 そしてその翌日の夜、俺は自分の部屋でこっそりと外出着に着替えた。母さんたちを起こさないように玄関を開け、俺は外に出た。
 都心5区だけでなく、最近は都内のあちこちで暴徒が暴れているから近所の家の灯りも消えている。思ったよりも真っ暗な道で心細いけど、俺は背負ったリュックを握り、夜の街を歩き始める。

 しばらく歩いて駅にたどり着く。まだ渋谷行きの電車は出ているし、まだ駅は人でごった返していた。
 俺は券売機で切符を買ってからホームのベンチに座って電車を待つ。
 駅員に話しかけられないのを祈るばかりだ。こんな子供が1人で深夜に電車なんておかしいからだ。
 俺は俯きがちになって、ホームから見える景色を眺めていた。

「秀ちゃん……どうして……」
 母さんのあの言葉と涙を思い出すたびに悔しさがこみ上げてくる。だけどそんな悔しさよりも、俺の心を一番大きく支配しているのは怒りだった。
 なぜ? どうしてなんだよ! そんな疑問を父さんにぶつけないと気が済まない。


 そんな思いで電車を待っていると……。
「そんな歳でもう夜遊び? プレイボーイなのね、雄飛って」
 耳馴染みのある声が聞こえ、そちらに視線を向けると華怜が立っていた。俺と同じくリュックを背負い、俺に向かって微笑んでいる。
 なんで? と思うと同時に、やっぱりバレていたか、とも思う。華怜ならきっと俺の考えなどお見通しだろう、と心のどこかで思っていたからだ。

「……父さんに……会いに行くんだ」
 俺は正直に華怜に告げた。彼女は驚くこともなく、俺にそっと近づく。
「ニュー東京が危険だっていうのは、よく知ってるわよね? それでも本当に行くつもり?」
 華怜の問いに、俺は無言でうなずいた。彼女はため息をつく。
「私が止めても……行くのよね? わかってるわ」
 華怜はそう言って俺の頭を撫でる。その優しい手に、俺は泣きそうになってしまう。
 そんな俺を慰めるように、華怜は続けた。
「雄飛が言い出したら聞かないってことくらい知ってるわ。それなりに付き合いも長くなってきたからね。でも、1人で行くのは危険よ。だから……私も一緒に行くわ」

 華怜の言葉に、俺は思わず「え?」と聞き返してしまう。彼女は微笑んで言う。
「だって、雄飛を1人で行かせたら心配だもの! 私も一緒よ、雄飛。だから……ね? 一緒に行きましょ?」
「……うん」
 俺はそう言って彼女の手を握った。華怜の手が俺の手を包み込む。
(なんて温かくて優しい手なんだろう)
 俺たちは到着した電車に乗り込むのだった。
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