20 / 43
第2章「経矢の故郷」
第20話「風と陽ざしに包まれて ~故郷への道程~」
しおりを挟む
「昨日と同じで山の中だけど、今のところ特に危険はなさそう」
イリーナの言葉通り周りにいる生き物といえばウサギやリスなど小型の動物ばかりである。
「油断は禁物だけどな。いつ山賊が出るか分からないし」
「そうだね。警戒は怠らないようにしないと」
そんな会話を交わしながら2人、は街道を歩き出すのだった。
しばらく歩き続けていると、前から荷馬車を引く商人たちの一団がやって来るのを見つけた。
経矢たちが道を譲ろうとしているところへ向こうから挨拶される。
「おはようございます。もしやあなたたちは、この先の峠を越えるおつもりですか?」
「ええそうですけど」
経矢はそう答えると、しばらくの間商人たちと話をする。
彼ら曰くこの先の峠で落石や土砂崩れが発生し、通行できなくなっているというのだ。
数日前の、巨大な隕石のようなものが落下した影響によるものらしい。
商人たちは諦めて引き返してきたところ、とのことだった。
「どうしよう、キョウヤ?」
商人たちの話を聞いたイリーナは、経矢に尋ねた。
彼の故郷に行く方法は他にもあるそうなのだが、一番早くたどりつく方法はその峠を越えることだと、昨日の夜に話をしていた2人。
「大丈夫だよ、イリーナ。俺は飛べないけど、跳べるだろ?」
経矢は迂回をせずに進むことを選ぶようだ。
イリーナは彼の言葉に従う。
彼女の脳裏には、ルーベンたちから逃げる際に、上空高く一気に跳び上がった経矢の姿が思い出されていた。
「そうだね! じゃあ、このまま進もっか!」
こうして2人は、迂回することなく峠を進むことにしたのだった。
「そ、そうですか? ならばどうぞお気を付けて。まだ地盤が緩んでいる可能性がありますゆえ……」
商人たちは心配そうにしつつも、それ以上は引き留めることなく2人を見送ってくれた。
「そちらもどうかお気を付けて!」
経矢は彼らに手を振りつつ別れの挨拶をすませ、イリーナと再び歩き出した。
道は徐々に傾斜がきつくなり、山の奥深くへと続いていく。
道幅も狭くなってきたのでイリーナは経矢の後ろからついていくことにした。
「イリーナ、疲れてないか? もう少し上まで登ったらお昼にしよう」
経矢は後ろを歩くイリーナにそう声をかける。
「うん! 大丈夫、もう少し頑張れるよっ」
元気のいい返事をするイリーナだったが、その表情は少し険しい。
山歩きに慣れていないこともあったが、問題は他にもあった。
本来ならある程度歩きやすく舗装されている道が、発生した土砂崩れの影響で足場が非常に悪くなっていたのだ。
「はぁ……はぁ……(体力には自信あったんだけど……。これぐらいで疲れちゃうなんて情けないなぁ……)」
息を切らしながら、心の中でつぶやくイリーナであった。
ふと前を歩く経矢が立ち止まる。
何かに気を取られたように、前を見て立ち尽くしている。
「キョウヤ? どうしたの? ……あっ……」
心配したように、彼の顔を覗き込もうと近づいたイリーナは、彼の視線の先にあるものを見て、息を呑んだ。
そこには、自分たちの遥か下に広がる美しい自然の景色や小さな町などだった。
まだ山頂ではないものの、すでにかなり高いところまで登っていたらしい。
「綺麗だね」
イリーナは無意識に呟く。
「ああ、本当に……」
彼女の言葉に、景色に視線を向けたまま静かにうなずく経矢。
眼下に広がる景色に、ただただ圧倒されていたイリーナと違って、経矢の瞳にはわずかに悲しみの色が含まれているように、イリーナには思えた。
「キョウヤ……」
どこか悲し気な様子の経矢が心配になり、声をかける。
彼女の心配そうな声に我に帰った経矢。
イリーナに笑顔を見せた後、少し開けた場所へと歩を進める。
「少し休憩するか。もうお昼近くのはずだからな」
そう呟いて近くの岩陰に腰をかけた経矢はイリーナにも座るように促すと、流通している魔具の1つである、携帯用のアイテムボックスを取り出した。
2人は並んで座ると、美しい景色を見ながら昼食の準備をする。
「さっきの商人たちの話だと、もう少し行ったところで道が2つに分かれるらしいな。1つは山頂へ続く道、もう1つが例の落石で通れない峠へと続いている道だ」
経矢は、イリーナに説明しながらサンドイッチを頬張る。
「うん、まだまだ先は長そうだね。キョウヤは疲れてない?」
イリーナは経矢を気遣いながら尋ねた。
しかし彼は首を横に振り、大丈夫だと答える。
「俺は大丈夫だよ。それよりイリーナの方が心配だな」
「あたしは大丈夫! まだ全然平気だから」
笑顔で答えるイリーナだったが、経矢はその頭をポンッポンッと優しく撫でる。
「無理しなくていいぞ。これ食べ終わったら、ここで1時間くらい昼寝でもしていこう。風と陽ざしが気持ちいいし、疲れも取れるさ」
そう言って微笑む経矢につられて笑顔になるイリーナ。
「そうだね。ありがとうキョウヤ! じゃあ遠慮なくそうさせてもらおっと」
イリーナはそう言うと、勢いよくサンドイッチを平らげるとそのまま草むらに寝ころぶ。
そんな彼女の隣で、経矢も横になった。
「ほら、どうだ? 気持ちいいだろ」
「うん! 最高だね!」
2人はしばしの間、自然の中に身を委ねる。
風の匂いや草木の揺れる音、鳥や虫たちのさえずりを聞きながら、ゆっくりとした時間が流れていく。
あまりの気持ちよさに、イリーナはすぐに睡魔に襲われてしまった。
「すぅー……すぅー……」
経矢の隣で、イリーナは小さな寝息を立て始めた。
そんな彼女の寝顔を見て微笑む経矢。
そして彼もまた、ゆっくりと目を閉じるのだった。
イリーナの言葉通り周りにいる生き物といえばウサギやリスなど小型の動物ばかりである。
「油断は禁物だけどな。いつ山賊が出るか分からないし」
「そうだね。警戒は怠らないようにしないと」
そんな会話を交わしながら2人、は街道を歩き出すのだった。
しばらく歩き続けていると、前から荷馬車を引く商人たちの一団がやって来るのを見つけた。
経矢たちが道を譲ろうとしているところへ向こうから挨拶される。
「おはようございます。もしやあなたたちは、この先の峠を越えるおつもりですか?」
「ええそうですけど」
経矢はそう答えると、しばらくの間商人たちと話をする。
彼ら曰くこの先の峠で落石や土砂崩れが発生し、通行できなくなっているというのだ。
数日前の、巨大な隕石のようなものが落下した影響によるものらしい。
商人たちは諦めて引き返してきたところ、とのことだった。
「どうしよう、キョウヤ?」
商人たちの話を聞いたイリーナは、経矢に尋ねた。
彼の故郷に行く方法は他にもあるそうなのだが、一番早くたどりつく方法はその峠を越えることだと、昨日の夜に話をしていた2人。
「大丈夫だよ、イリーナ。俺は飛べないけど、跳べるだろ?」
経矢は迂回をせずに進むことを選ぶようだ。
イリーナは彼の言葉に従う。
彼女の脳裏には、ルーベンたちから逃げる際に、上空高く一気に跳び上がった経矢の姿が思い出されていた。
「そうだね! じゃあ、このまま進もっか!」
こうして2人は、迂回することなく峠を進むことにしたのだった。
「そ、そうですか? ならばどうぞお気を付けて。まだ地盤が緩んでいる可能性がありますゆえ……」
商人たちは心配そうにしつつも、それ以上は引き留めることなく2人を見送ってくれた。
「そちらもどうかお気を付けて!」
経矢は彼らに手を振りつつ別れの挨拶をすませ、イリーナと再び歩き出した。
道は徐々に傾斜がきつくなり、山の奥深くへと続いていく。
道幅も狭くなってきたのでイリーナは経矢の後ろからついていくことにした。
「イリーナ、疲れてないか? もう少し上まで登ったらお昼にしよう」
経矢は後ろを歩くイリーナにそう声をかける。
「うん! 大丈夫、もう少し頑張れるよっ」
元気のいい返事をするイリーナだったが、その表情は少し険しい。
山歩きに慣れていないこともあったが、問題は他にもあった。
本来ならある程度歩きやすく舗装されている道が、発生した土砂崩れの影響で足場が非常に悪くなっていたのだ。
「はぁ……はぁ……(体力には自信あったんだけど……。これぐらいで疲れちゃうなんて情けないなぁ……)」
息を切らしながら、心の中でつぶやくイリーナであった。
ふと前を歩く経矢が立ち止まる。
何かに気を取られたように、前を見て立ち尽くしている。
「キョウヤ? どうしたの? ……あっ……」
心配したように、彼の顔を覗き込もうと近づいたイリーナは、彼の視線の先にあるものを見て、息を呑んだ。
そこには、自分たちの遥か下に広がる美しい自然の景色や小さな町などだった。
まだ山頂ではないものの、すでにかなり高いところまで登っていたらしい。
「綺麗だね」
イリーナは無意識に呟く。
「ああ、本当に……」
彼女の言葉に、景色に視線を向けたまま静かにうなずく経矢。
眼下に広がる景色に、ただただ圧倒されていたイリーナと違って、経矢の瞳にはわずかに悲しみの色が含まれているように、イリーナには思えた。
「キョウヤ……」
どこか悲し気な様子の経矢が心配になり、声をかける。
彼女の心配そうな声に我に帰った経矢。
イリーナに笑顔を見せた後、少し開けた場所へと歩を進める。
「少し休憩するか。もうお昼近くのはずだからな」
そう呟いて近くの岩陰に腰をかけた経矢はイリーナにも座るように促すと、流通している魔具の1つである、携帯用のアイテムボックスを取り出した。
2人は並んで座ると、美しい景色を見ながら昼食の準備をする。
「さっきの商人たちの話だと、もう少し行ったところで道が2つに分かれるらしいな。1つは山頂へ続く道、もう1つが例の落石で通れない峠へと続いている道だ」
経矢は、イリーナに説明しながらサンドイッチを頬張る。
「うん、まだまだ先は長そうだね。キョウヤは疲れてない?」
イリーナは経矢を気遣いながら尋ねた。
しかし彼は首を横に振り、大丈夫だと答える。
「俺は大丈夫だよ。それよりイリーナの方が心配だな」
「あたしは大丈夫! まだ全然平気だから」
笑顔で答えるイリーナだったが、経矢はその頭をポンッポンッと優しく撫でる。
「無理しなくていいぞ。これ食べ終わったら、ここで1時間くらい昼寝でもしていこう。風と陽ざしが気持ちいいし、疲れも取れるさ」
そう言って微笑む経矢につられて笑顔になるイリーナ。
「そうだね。ありがとうキョウヤ! じゃあ遠慮なくそうさせてもらおっと」
イリーナはそう言うと、勢いよくサンドイッチを平らげるとそのまま草むらに寝ころぶ。
そんな彼女の隣で、経矢も横になった。
「ほら、どうだ? 気持ちいいだろ」
「うん! 最高だね!」
2人はしばしの間、自然の中に身を委ねる。
風の匂いや草木の揺れる音、鳥や虫たちのさえずりを聞きながら、ゆっくりとした時間が流れていく。
あまりの気持ちよさに、イリーナはすぐに睡魔に襲われてしまった。
「すぅー……すぅー……」
経矢の隣で、イリーナは小さな寝息を立て始めた。
そんな彼女の寝顔を見て微笑む経矢。
そして彼もまた、ゆっくりと目を閉じるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる