Mission 〜怒りと憎しみの先で〜

蟒蛇シロウ

文字の大きさ
27 / 43
第2章「経矢の故郷」

第27話「開かれた棺 ~吸血鬼たちの微笑~」

しおりを挟む
「俺が……俺が500年前お前らを殺した時……。あの時からすでに吸血鬼だったのか?」
 ジャスティンを睨みつけたまま、経矢は尋ねた。
 その隣でイリーナは視線だけ動かして、経矢を見る。
「キョウヤ……」
 経矢の瞳に激しい憎しみの炎が灯っているのが、イリーナにはハッキリとわかった。
 彼にとってジャスティンは、ただの過去に殺した相手ではない。

 自分と姉を奴隷として売り飛ばした男の部下。
 かつてその命を奪うことで復讐はすでに終えていたはずだった。
 しかし……。
 再びこうして目の前に立ち塞がっている。
 先ほどは守るために戦いたい、と話していた経矢だが、それでもやはり強い憎悪からは簡単には抜け出せない。

「ん~、半分正解で半分外れってとこだな」
 ジャスティンは経矢の問いかけに答えた。
「……半分?」
「あぁ、お前に殺される時点で俺たちの体にゃあ、たしかにすでに吸血鬼の血が混ざっていたんだよ。ボスの命令で全員にな」
 経矢の疑問に、彼は淡々と答える。
 だからこそ彼らは、エルフや獣人種といった長命種でないにもかかわらず、500年という長い時を生きながらえていたのだろう。

「……てことは、ルーベンも吸血鬼ってことだな?」
「あぁ、そうだ。ボスもお前が知ってる他の2人も吸血鬼だ。……おっと、話し過ぎちまったみたいだなぁ。これ以上のおしゃべりはボスに怒られちまいそうだ」
 ジャスティンはそこまで話すと話すべきことは話したと言わんばかりの態度で、手を掲げる。
 すると地面がゴゴゴッと揺れ、隆起する。
 そして土の中から、いくつもの棺桶が十字架のように突き出てくる。

「な、なんなの!?」
 イリーナは、経矢と自分を取り囲むようにして現れた棺桶に身構える。
 2人は背中合わせになり、ジャスティンと棺桶に視線を向ける。
 ジャスティンは舌なめずりをしたあと、狂気的な笑みを浮かべる。
「さぁ、出て来な! 俺の可愛い子ちゃんたち。ウブなガキどもに吸血鬼の夜会の楽しみ方とマナーを教えてやりな!」

 棺桶の蓋がゆっくりと軋みを上げて開く。
 その瞬間、夜の冷気がさらに冷たくなったように経矢は錯覚した。
「……吸血鬼の宴の始まりだぜ」
 ジャスティンの嗤い声と共に、地獄の門が開いたような錯覚が走った。

「っ……!?」
 イリーナは、棺桶の蓋が開くのを見て息を飲む。
 それは経矢もまた、同じだった。
 かつてジャスティンと戦った時、彼はまだ吸血鬼ではなかった。
 つまり経矢も初めて見る技であり、警戒を強める。


 中から現れたのは、吸血鬼と化した複数の若い女性たちだった。
 先ほどの従徒化されていた女性とは違い、すでに完全な吸血鬼と化しているようだった。
 ジャスティンと同じ赤い瞳で経矢たちを品定めするように見つめる。
「御主人様、あの2人の血を吸ってもよろしいのですか?」
 待ちきれない、といった様子で1人の吸血鬼がジャスティンに尋ねる。
 他の吸血鬼たちも、本能に支配されたように今にも襲いかかろうとしている。

「あー、かまわねぇぞ。だが殺さない程度に全員で分けて吸うんだ。あいつらにはまだ死んでもらっちゃ困るからなぁ」
 ジャスティンはそう言いながら、ニヤリと笑う。
 全員で10人いる女性たちは、爛々らんらんと目を輝かせながら経矢たちに視線を戻す。
「あの男の瞳……怯えた顔が見たい。はぁ……たまらないわぁ。」
「私はあの娘。首筋の柔らかそうな血管に噛みつきたい……」
「あの2人、まだ純血みたいね。……ふふ、私好みに調教してあげるわ」
 ひとりひとりのささやきが、獣のようでありながら妙になまめいていた。
 経矢とイリーナを獲物として見つめる吸血鬼たち。
 彼女たちの瞳にはもはや人間らしさなど欠片も残っていなかった。

「……イリーナ。この数に加えて向こうにはあの男もいる。協力して戦おう」
「わかった! サポートは任せて!」
 経矢とイリーナは、互いに背中合わせになったまま吸血鬼たちと対峙する。
 相手は人間離れした身体能力を持った吸血鬼だ。
 決して油断することはできない。
「イリーナ、背中は任せた」
「うん! キョウヤこそ、絶対に倒れないで!」

「へへっ、じゃあ始めようぜ! 刺激的なナイトパーティーをなぁ!」
 ジャスティンはそう叫ぶと、両手を高く上げる。
 一瞬、世界から音が消えたかのようだった。
 その次の瞬間、10人の吸血鬼が同時に飛びかかるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

処理中です...