Mission 〜怒りと憎しみの先で〜

蟒蛇シロウ

文字の大きさ
37 / 43
第2章「経矢の故郷」

第37話「涙の果てに、愛は再び」

しおりを挟む
 こうしてマギーの親戚の家に泊めてもらうことになった経矢たち。
 2階建ての部屋の一室に入り、荷物を下ろすとほぼ同時に一息つく経矢とイリーナ。
 それがおかしくて2人は顔を見合わせて小さく笑った。
 ようやく本当に安全な寝床にたどり着くことができた、という安堵が2人に安らぎをもたらす。

 マギーと彼女のおばさんが夕食を準備している間、2人はおばさんの提案を受けて交代でシャワーに入り、疲れを取ることにした。
 順番にシャワーを浴びた2人。
「キョウヤ、お礼って言ってくれたけど全部任せっきりは申し訳ないし、手伝いに行こうか?」
 イリーナが部屋のドアを開けながら経矢に問いかける。
 彼女の言葉に、そうだな、と経矢も同意する。

 2人は部屋を出て一階へと向かうと、ちょうどキッチンで調理をしていたマギーとおばさんに声を掛ける。
 すでにほとんど作り終えており、テーブルには豪華な料理がたくさん並んでいた。
 テーブルに並んだ料理を見て感嘆の声を上げる経矢とイリーナ。
 2人にとってこれだけ豪華な食事は、イリーナの故郷でスミスと3人で生活していた時以来だった。

「おいしそう!!」
 イリーナは目を輝かせ、マギーとおばさんの作った料理に目を輝かせる。
 経矢も思わずゴクリ、と喉を鳴らした。
「私とおばさんでいろいろと作ってみました。お口に合うといいのですが……」
 マギーは経矢たちに微笑みながら、ワインなどを準備していく。
(よかった……。元気が戻ってきたみたいだ)
 マギーの笑顔を見てそう思う経矢。
 夕食の準備も整い、全員でテーブルにつくと食事を始めるのだった。


 夕食を食べ始めて少しした時だった。
 何やら外が慌ただしい。
「おや、変だねぇ。この時間にはみんな家の中で静かにしてるってのに」
 おばさんは、騒がしい外の様子を気にするように言う。
 村の中央部に位置しているこの家は、窓を閉めていても外の様子がわかるのだ。

「何かあったのかしら?」
 おばさんの話を聞いていたマギーも怪訝そうに窓の外を見る。
 経矢は食事の手を停めて、席から立ち上がった。
 何かの襲撃……オオカミやインプなどならいいが、それこそジャスティンの仲間などだった場合、村の衛兵では手に負えないだろう。

「俺、ちょっと見て来ますよ。イリーナは2人の護衛を」
「うん、気を付けてねキョウヤ」
 イリーナは彼を信じて送り出した。
 マギーとおばさんの顔には、次第に恐怖の色が浮かび始めていた。

 経矢が家の入り口を開けて外に出ようとした時だった。
 バタン、とドアが開き一人の青年が大きく肩で息をしながら、家に飛び込んできた。
 その後ろには村の住人たちが数人の姿があった。
「はぁ……はぁ……マ、マギー! い、生きて……生きていてくれたのか!?」
 青年は息を切らしながらも、マギーの姿を見て救われたかのように叫んだ。
「うそ……ダ、ダニー……?」
 マギーの声が震える。
 それは彼女が吸血鬼ジャスティンに従徒化され、彼の意のままに自らナイフを突き立ててしまった、最愛の夫ダニーだったのだ。
「……あぁ……ダニー、ごめんなさい! ごめんなさいっ!」

 マギーは自分が彼に危害を加えてしまったこと、ジャスティンに蹂躙されてしまったこと、彼が生きてくれていたこと、今目の前にいることに様々な感情が入り混じり、大粒の涙を流しながらダニーに駆け寄って抱き着いた。
「マギー! ……よかった……本当に良かった!」
 ダニーは妻を力強く抱きしめた後、彼女の肩を掴んで体を離し、その両肩に手を置きながらマギーの目をまっすぐ見て言う。
「……君が生きていてくれて……本当に良かった。何があったかは言わなくてもいい。……君が生きていてくれただけで、僕は……」
「でも私……私はあなたをっ! ……」
「いいんだ。全部ひどい悪夢だったんだ。君のせいじゃない。あの時、すぐに助けてあげられなくてすまない。マギー……生きていてくれてありがとう」

 ダニーの生きていてくれてありがとう、の一言でマギーは再び彼の胸に顔を埋め、大きな声を上げて泣き始めた。
 彼女の背中をトントン、と優しく叩きながら、ダニーは涙で滲んだ瞳を経矢とイリーナに向けた。
「ありがとう……。君たちが彼女を……僕の妻を……助けてくれたんだろう……本当に、ありがとう……」
 ダニーの頬を大きな涙が伝う。
 経矢とイリーナは、彼の言葉にゆっくりとうなずくのだった。


「……さ、新婚夫婦が無事に再会できたわけだし、あらためてディナーを再開といきましょうよ」
 おばさんの一言に、感動的な雰囲気から一転して空気が明るくなる。
 2人の再会を喜んだのは経矢たちやおばさんたちだけじゃなく、ダニーと一緒にやって来たデブロンの商人たち、そしてこの村の人たちもだった。
 最初は経矢とイリーナに対するマギーとおばさんの感謝の夕食会だったはずが、村をあげての盛大なお祝いに変わった。
 各家の料理やお酒を持ち寄って、夜通し宴会が続けられる。

 笑い声と歌声が夜風に乗って山へとこだました。
 その光は、昨日まで血に染まっていた夜を、静かに塗り替えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

処理中です...