Mission 〜怒りと憎しみの先で〜

蟒蛇シロウ

文字の大きさ
43 / 43
第2章「経矢の故郷」

第43話「歩き出す2人、迫る新たな闇」

しおりを挟む
「これが、俺の故郷だ……」
 経矢がそう言葉を漏らして、イリーナに振り返った。
 彼は今、かつて自分が生まれ育った村があったであろう場所に立っていた。
 だがその痕跡はもうない。

 そして経矢は、たった今脳裏に浮かんだ記憶についてイリーナについて語り聞かせた。
 彼女は静かに、まっすぐに経矢の言葉に耳をかたむけていた。
「そっか……経矢の故郷は……」
 イリーナが胸の前で拳を握る。
 悲し気に伏せられた目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 そんな彼女に、彼は語り掛ける。
「そう、もうないんだよ……俺の故郷は」
 経矢の言葉に、イリーナの瞳がさらに大きく揺れた。
 だが、そのあとに経矢は彼女に向かって微笑んだ。


「でもさ、今の俺にはいつか帰りたい場所があるんだ。イリーナと一緒に、スミスさんの待つ牧場に」
 その笑顔は心の底からのものだった。
 彼はすでに心の整理がついたようだ。
 経矢の言葉と表情に、イリーナも微笑み返す。
「うん、必ず帰ろう。2人で」
 イリーナはそう告げ、経矢に向かって手を伸ばした。
「……ああ!」
 経矢は彼女の手を握り返す。その掌は温かく、生きている実感が確かにあった。
 草原を渡る風が、二人の足跡をそっとなぞる。
 過去は遠ざかり、いま歩く道が未来へと続いていた。

(……姉さん、みんな……。もう逃げない。俺は戦う。守るために——生きるために)
 経矢は、そう心の中で強く誓ったのだった。


 その頃、とある廃墟にて。
「ジャスティンはしくじったようだな。……油断するな、とあれほど言っておいたのだが……」
 ワインを片手にそう呟くのはルーベン・メンデンホールだ。
 彼は部下の女性から、ジャスティンが経矢たちに敗れたという報告を聞いていた。
「彼は相当自信があったようですが、無様な最期でしたね」
 女性は冷たくそう口にする。
 彼女の言葉を受け、ルーベンはフッと笑みを零してワインを一口呷った。

 そして女性に視線を向ける。
「お前はしくじるなよ、ヴィオラ。平之経矢を連れて来い。もしくは、レリクスの在りかを聞き出して始末しろ」
 ルーベンの言葉を受けたヴィオラが、わずかに笑みを浮かべて答える。
「お望みのままに……。お任せください、ボス……」
 そうして彼女は経矢の元へと向かおうとするが、足を止めて振り返る。

「ボス……あのイリーナとかいう娘は、好きにしても構いませんか? 私の好みなのです」
 妖艶な笑みを浮かべて、ヴィオラは問う。
 そんな彼女に、ルーベンはもちろんだ、とうなずく。
「構わない……好きにしろ」
「ふふふ、ありがとうございます」
 ヴィオラは赤い瞳を爛々と輝かせると、その場を立ち去る。

「イリーナ……あの娘の悲鳴、きっと綺麗」
 微笑む唇の端に、赤い舌先が一瞬だけ覗いた。
「女の幸福は壊れる瞬間にあるのよ、ふふふ……あははは」
 ヴィオラは興奮したように、一人声を震わせるのだった。

 新たな脅威が迫る中、経矢とイリーナはウェーラに戻り、そこからモルディオへと向かうために歩みを進めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

処理中です...