TS異世界小説家〜異世界転生したおっさんが美少女文豪になる話〜

水護風火・(投稿は暫し休んでます)

文字の大きさ
10 / 28

第十話 俺とエルシーの願いの為に

しおりを挟む
 トレーニングが終わったあとは夕食だ。

 あのあとマライアとダリルと三人で色々話しをした。

 マライアは自分の夢を叶える為に、体力と筋力を付けているそうだ。

 でも、その夢がどんなものかは「ヒ・ミ・ツ」と言って教えてはくれない。

 それから――ダリルが屋敷の中に置いてあった上着を持って来ようと、席を外した時にマライアが、

「さっきはごめんなさいね。駄々をこねるつもりは無かったんだけど。なんだかエルシーがどこか遠くへ行っちゃったような気持ちになって――」

 と言葉を詰まらせたあと、

「今までだって、危険な目に遭って来たのに『体を鍛える』なんて一度も言わなかったでしょ? それに……」

 マライアは少しのを置いてから、

「昨日ね。私の女神様……は、もうこの世にいない。みたいな変な夢見ちゃってね」

 ま、マライアはそんな夢を見たのか!?
 
 確かにエルシーの魂はこの世にいないけど、なんでそんな夢……あ、不安だったのか? 

 だからウォーキング前からなんか様子がおかしかったのか。

 怖い夢見て不安になっちゃったんだな……。
 
 ――しかし、マライアはなんでずっとエルシーを女神様扱いなんだ?

 エルシーはマライアに何かしたのか?

 マライアとエルシーの思い出……その記憶は膨大だ。何しろ従姉妹で幼馴染みで親友だからなあ。共有した時間が長いんだよな。

 その中から、マライアがエルシーを女神様扱いするようになった切っ掛けの記憶……? 

 エルシーの記憶から見付けだそうとしても、それらしい記憶が浮かばない……。

「エルシーは私が魔法使いの子孫だって知っても、家族以外で態度を変えなかった、たった一人の人だから……」

 マライアは俺の考えを読んでいるワケでもなさそうなのに、懐かしむように話し出した。

「それどころか、エルシーの目の前で実際に魔法を使って見せたのに、怖がるどころか『もっと見たい』って喜んでくれちゃって」

 ――ああ! あれか! 

 エルシーは、かなり前からマライアが魔法使いの子孫だってことは知ってたけど、実際に魔法使えることは知らなかった。

 両親が一応、エルシーにそのことを伝えてたんだ。

「魔法使いの子孫でも、マライアはマライアだ。だから何も気にすることは無い」

 って言い含められてたんだよな。

 だからってことでもないけど、エルシーは魔法を使うマライアを見ても、怖いと思うどころか、もっと魔法を見たいと思ったんよなあ...…。
 
「その時から私は、エルシーを女神様だと思ってるの」

 ああ、そうか。この国では魔法ってものを忌避きひとまでは行かないまでも、見慣れないから怖がる人間が多いんだ。

 治癒の術も魔法も人知じんちを超えた力には変わりは無いのにな。

「エルシーは慈悲深く優しく、美しく愛らしく――」

「ま、マライア。私は女神様じゃないわよ?」

 本物のエルシーでもこう言うだろう。

 いや、今は俺が本物のエルシーなんだけどな。

 『本来のエルシーならこう言うだろう』が正確か?

 まあ、兎に角、マライアがエルシーを女神様扱いしている理由はく分かった。

 ので、話を戻そう。

 この辺りでダリルが戻って来たからウォーキングを再開した。

 ウォーキングって単に歩くじゃなくて、正しい姿勢と正しい歩き方、しかも呼吸 法まで意識して歩くんだ。

 慣れると苦も無くできるそうだが。

 最初は意識的に歩かなきゃならないから、結構大変だったな。

 ――さて! 食事を終えた俺はエルシーの勉強机の引き出しから、大量のノートに書かれたアイデアの中で、面白そうな短編のプロットを見つけた。

 タイトルは『伯爵令嬢の結婚』
 内容は恋愛主軸のコメディだ。

 あらすじは――                

【伯爵の娘マーガレットは十八歳で正式に社交界デビューをした。
 が、そこで老齢(七十歳)の独身公爵――レイン・アーチボルト――に見初められる。
 年齢以外は文句の付けようが無い相手だが、あまりに年齢差があるので、両親は娘に婚約者がいると嘘の理由を付けて断ろうとする。
 しかしマーガレットが公爵にベタ惚れになってしまい――マーガレットとアーチボルト公爵。祖父と孫のような二人の恋愛の行く末は如何に……】
 
 でだ! 机の上に置かれているタイプライターを使って試しに書き出したプロローグは……。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 プロローグ~マーガレットの社交界デビュー~

「今――なんと仰いましたの?……」

 にわかには信じられないない言葉を聞いてしまい。キャサリン・カミン伯爵婦人は、レイン・アーチボルト公爵に問い返した。

「今しがたお話した通りです。ミセス・カミン」

 キャサリン・カミン伯爵婦人の目の前には、年齢を経て尚美しい美老人びろうじんがいた。

 彼の名はレイン・アーチボルト。
 身分は公爵。
 伯爵婦人であるキャサリンより、上の身分。
 アーチボルト公爵はキャサリンの父親でもおかしくはない年齢である。
 なのに――よりによって彼が愛娘まなむすめであるマーガレットに求婚するなど寝耳に水な出来事である。

「お、お待ちになって下さいまし。娘は……マーガレットは今宵社交界《こよいしゃこうかい》デビューしたばかりですのよ?」
 
 困惑するキャサリンを余所よそに、アーチボルト公爵の背後からマーガレットがおずおずと顔を出した。

「お母様……わたくし、この舞踏会で運命の殿方を見つけてしまいましたの……」

 ほんのりとほほを染めながら、アーチボルト公爵と目を合わすマーガレット。

 ――う、嘘でしょう!?
 
 アーチボルト公爵は若い頃に婚約者を亡くし、ずっと独身を貫いて来た御仁ごじんだ。
 
 その一途さは政略結婚が当然である貴族の女性達のあいだで、美談としてずっと語られている。

 なのに――何故、孫ほど年下のマーガレットに求婚などなさるのですか!
 マーガレットも何故そのように頬を染めているのです!?

 と叫びたいキャサリンだが、ここは人様の舞踏会の場だ。
 喉を詰まらせるように言葉を飲み込むしかない。

 もちろんマーガレットの結婚相手として、アーチボルト公爵ならば身分の問題は無いどころか、望むべくも無い相手。年齢差以外は。だが。

 「ま、まま、マーガレット……貴女、何、故――」

 ――バタッ。

 キャサリンは現実に耐え切れず倒れ伏し、気を失ってしまった……。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 
 ――ふぅ。数百文字書くのに、二時間も掛かるとは思っていなかった。プロローグくらい、さくっと書けると思ったんだがな。

 エルシーの記憶を受け継いでるからタイプライターの使い方は分かるんだが、こうも手こずるとは思わなかった。
 
 キーボードを打つのにパソコンより力がいるからか?
 
 ……しかし、俺もそうだったけどエルシーも猫背だよな。

 おっさんの俺と違って、エルシーの体は十七歳だから、毎日正しいウォーキングを続けて体を鍛えていれば、猫背も治るだろう。

 今日はここまでにしておくか。
 明日はキャラハン女史とお勉強だな。
 
 エルシーが習ってるのは、一般教科プラス簿記だ。
 『そろばん』使っての簿記は面倒くさいんだよなあ……。

 微妙に憂鬱ゆううつな気分になりつつも、俺は勉強机に置いてあったランプを持ってベッドへ向かったのだった。

(続く
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...