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第一章 辺境のハロウィンパーティ

1-6.同僚との出会い

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 リズの前任校はいわゆるエリート養成校だった。生徒は貴族や裕福な商人の子弟で、みな名門大学への進学を目指している。生徒たちは日々学業に励み、部活動や社会貢献活動にも積極的に参加する。調査書の評価を上げるために身だしなみは完璧で、学外の人に会えば笑顔で挨拶をする――そんな品行方正な生徒ばかりだった。

 その一方で、校内の雰囲気は常にピリピリしていた。優秀な生徒を出し抜くために、試験前にノートを隠して困らせる……といった事件は日常茶飯事だったし、誰かが失敗したという噂話は、あっという間に広がった。リズが婚約者と破局したとき、最初に脳裏に浮かんだのは、生徒たちからの評価だった。

(きっと、みんなが私のことを噂していたのよね)

 一つにまとめ上げたストロベリーブロンドの毛先を直しながら、リズは思う。リズは比較的容姿に恵まれている方だ。陽光を浴びて薄桃色に輝く髪も、深い紫色の瞳も、陶器のように白い肌も、まるで人形のようだと大人たちから褒められ育った。おそらくリズが養女になれたのも、容姿が優れているからだと思っている。

 だからこそ、前任校では陰口を言われる機会も多かった。生徒たちからは〝男好き〟に見えるらしい。実際には、鉱物や地層を見ながら地球の神秘に思いを馳せることの方が好きなのだが――周囲からそう見られてしまうのは、リズ自身にはどうすることもできない。

 婚約者と破局して、もう崖っぷちだった。すがるような気持ちから、転職を選んだ。

(新しい学校は、生徒の個性を重んじると聞いたわ)

 リズは職員室のドアを開け、副校長から指定された机に荷物を置く。

「新しく来た先生?」

声を掛けられて、振り向いた。そこにいたのは、ウェーブのかかった赤い髪の華やかな女性と、クールな雰囲気をまとった、白衣姿の黒髪ボブの女性だった。
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