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第一章 辺境のハロウィンパーティ

1-8.新しいクラス

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 九月。新学期が始まった。リズが受け持つことになったのは、なんと最終学年のクラスである。

 ――入ってきたばかりで最終学年だなんて、大丈夫でしょうか?

 率直な疑問を副校長にぶつけると、意外な答えが返ってきた。

 ――まぁまぁ。リズ先生、きっと前任校では最終学年の生徒たちのケアに心を尽くされていたのでしょう。王都有数の進学校ですから、きっと生徒たちもピリピリしていたのでは? しかし我が校は違います。商人や職人の子弟も多く、すでにある程度は将来の見通しがついている生徒が大多数です。あまり気負わず、気楽にやってみてください。

 副校長の言葉は、リズにはいまいち信じ切れないものだった。けれども、きっと嘘ではないだろう。実力の測れないリズに、難しいクラスを任せるわけがない。

(たしかに、副校長の仰る通りかもしれない。早く生徒たちに受け入れられるよう、頑張らないと)

 新学期を前に、リズは新しいクラスへの期待を膨らませるのだった。

 *

 煉瓦造りの校舎の中には、一階から三階まで教室が並んでいる。リズの受け持つ最終学年は三階に教室があった。

(水平線が見えるは……素敵な眺めね)

 大きな窓からはカラフルな街並みとその先にある青い海が見渡せて、なんとも晴れやかな気持ちになる。

「このクラスを受け持つことになった、エリザベス・ジャクスンです。愛称はリズです。リズ先生、と呼んでください」

 黒板に名前を書いて、リズは挨拶をした。生徒たちは、新しく来た教師に興味津々といった表情をしている。

「リズ先生、恋人はいるの?」

「えっ? ……えっ?」

 最前列に座る女子生徒の言葉に、リズは言葉を失った。リズにとっては、一番痛いところを突く質問だ。顔の筋肉が硬直するのが分かる。

「やめなよ、先生、困っているだろう」

 隣に座る男子生徒が、やんわりと彼女を諌めた。

「ごめんなさいね。今は恋人はいないわ。……私、地質や鉱物を見るのが好きなの。今は……自宅にある石や砂の標本が恋人だから!」

 明るく言うと、クラスの中で小さな笑いが起こる。それほどおもしろい冗談でもないはずだが、教科への情熱は感じられるだろう。

 後で知ったことだが、恋人について質問した女子生徒と、それを諌めた男子生徒はクラス委員であった。生徒たちの代表として、リズに最初の質問を投げたようだ。

 リズのクラスには二十五人の生徒が所属していて、雰囲気は和やかなようであった。リズは地学を中心とした理科を教える。前任校では、化学や生物、物理に比べて地学を選択する生徒が少なく、内心寂しい気持ちを抱いたこともあったが、新しい学校では意外と登録者がいるらしい。リズには嬉しい誤算だ。
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