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第二章 淫らで美味しい同居生活
2-12.居候ワンコの朝は早い(テッド視点)
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居候ワンコの朝は早い。
(さて、新しい一日が始まった)
テッドは洗面所の鏡を見て、寝癖のついた髪を直す。毎日、午前五時半には起床し、こうして顔を洗って身支度を調える。
それから台所に向かい、前日の夕食の残りや生ゴミを整理する。そして家の中全体を軽く箒で掃き、場合によっては雑巾がけをする。
気付けば一時間ほどの時間が経過している。
(……おっと、もうすぐリズ先生が起きる時間だ)
それから家主である女教師、愛しのリズのために朝食の支度を始めるのだ。
今日のメニューは、卵焼きとベーコンと丸パンだ。どれも街の商店街で調達した食材を使う。
(リズ先生、今日も喜んでくれるかな……?)
卵焼きに入れるための野菜を刻む。その仕草は手慣れていて、トントンと小気味良い音が台所に響く。
リズに好き嫌いはない。テッドが作った料理は、たいていペロリとたいらげてくれる。それもそのはず、リズはいわゆる――ズボラだった。テッドが初めて訪れた夜のこの家は、それはそれはひどいものだった。
木目調の備え付け家具はあたたかみを感じさせるが、とにかく物が多い。特に書物。部屋の隅、本棚に収まりきらなかったらしい皮張りの書物が、床から腰の高さまで積まれていた。さらにその脇には十個以上の箱。リズが研究と趣味を兼ねて集めた鉱物標本である。蓋を開ければどれも見惚れるほど美しく、また希少なそれらも、雑然と部屋に置かれればくすんで見える。
(リズ先生、家の中のことにも、食事にも無頓着だから。僕のする家事はなんでも嬉しいみたいで、助かった)
テッドはそれらの書物や鉱物標本を、一つ一つ整理して、どこに何があるかすぐに分かるようにした。それだけでリズは、たいそうテッドを褒め称えた。
リズは仕事に一途な性格である。仕事としてだけでなく、純粋な興味としても地質学が好きなのだ。だから整理された本棚や鉱物標本は、たいそう喜んでもらえた。
――これで何がどこにあるか一目瞭然ね。テッド、ありがとう。
リズは目を輝かせてテッドに謝辞を述べた。人によってはズボラ過ぎるとも感じられる台詞だが、リズが口にすると微笑ましい。――そう、テッドはリズに心底惚れていた。
(もちろん、リズ先生のところに来た本当の理由は違うけれど)
ハロウィンパーティでリズに出会った理由――それはまだ、明かすことはできない。けれど、テッドは、リズに惹かれていた。「運命のつがい」という言葉だって、嘘ではない。
「テッド、おはよう」
「リズ先生! 今日は早いね」
突然かけられた声に驚き、テッドは振り返った。キッチンの入り口に立っていたのは、もちろんリズ。艶のあるストロベリーブロンドの髪をまとめ上げ、耳には緑色の石の耳飾り。ワンピースは紺色で、知性と気品に溢れている。
(リズ先生! 今日も最高にきれい!)
テッドは歓喜した。こうして今日もまた、リズとの楽しい二人暮らしが始まる。
(さて、新しい一日が始まった)
テッドは洗面所の鏡を見て、寝癖のついた髪を直す。毎日、午前五時半には起床し、こうして顔を洗って身支度を調える。
それから台所に向かい、前日の夕食の残りや生ゴミを整理する。そして家の中全体を軽く箒で掃き、場合によっては雑巾がけをする。
気付けば一時間ほどの時間が経過している。
(……おっと、もうすぐリズ先生が起きる時間だ)
それから家主である女教師、愛しのリズのために朝食の支度を始めるのだ。
今日のメニューは、卵焼きとベーコンと丸パンだ。どれも街の商店街で調達した食材を使う。
(リズ先生、今日も喜んでくれるかな……?)
卵焼きに入れるための野菜を刻む。その仕草は手慣れていて、トントンと小気味良い音が台所に響く。
リズに好き嫌いはない。テッドが作った料理は、たいていペロリとたいらげてくれる。それもそのはず、リズはいわゆる――ズボラだった。テッドが初めて訪れた夜のこの家は、それはそれはひどいものだった。
木目調の備え付け家具はあたたかみを感じさせるが、とにかく物が多い。特に書物。部屋の隅、本棚に収まりきらなかったらしい皮張りの書物が、床から腰の高さまで積まれていた。さらにその脇には十個以上の箱。リズが研究と趣味を兼ねて集めた鉱物標本である。蓋を開ければどれも見惚れるほど美しく、また希少なそれらも、雑然と部屋に置かれればくすんで見える。
(リズ先生、家の中のことにも、食事にも無頓着だから。僕のする家事はなんでも嬉しいみたいで、助かった)
テッドはそれらの書物や鉱物標本を、一つ一つ整理して、どこに何があるかすぐに分かるようにした。それだけでリズは、たいそうテッドを褒め称えた。
リズは仕事に一途な性格である。仕事としてだけでなく、純粋な興味としても地質学が好きなのだ。だから整理された本棚や鉱物標本は、たいそう喜んでもらえた。
――これで何がどこにあるか一目瞭然ね。テッド、ありがとう。
リズは目を輝かせてテッドに謝辞を述べた。人によってはズボラ過ぎるとも感じられる台詞だが、リズが口にすると微笑ましい。――そう、テッドはリズに心底惚れていた。
(もちろん、リズ先生のところに来た本当の理由は違うけれど)
ハロウィンパーティでリズに出会った理由――それはまだ、明かすことはできない。けれど、テッドは、リズに惹かれていた。「運命のつがい」という言葉だって、嘘ではない。
「テッド、おはよう」
「リズ先生! 今日は早いね」
突然かけられた声に驚き、テッドは振り返った。キッチンの入り口に立っていたのは、もちろんリズ。艶のあるストロベリーブロンドの髪をまとめ上げ、耳には緑色の石の耳飾り。ワンピースは紺色で、知性と気品に溢れている。
(リズ先生! 今日も最高にきれい!)
テッドは歓喜した。こうして今日もまた、リズとの楽しい二人暮らしが始まる。
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