声を聴かせて

文月 青

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出会い

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気温を下げることを知らない暑さを嘆いているうちに、既にお盆を迎えていた。我が家は一応本家にあたるので、この時期には常に来客がある。代わる代わるお線香を上げに来る親戚の中には、遠方から訪れる人もいるので当然泊り客も多い。よって子供もうじゃうじゃと集まる。勉強なんてしないから困りはしないが、朝から晩まで賑やかなことこの上ない。

しかも情報過多な時代。意味も分からないくせに、

「ごうはごうこんにごーだぜ」

暗号のような文言を吐いては浮かれまくっている。おそらく「剛は合コンにGOだぜ」というのが正しい訳だろう。こんな馬鹿なことを言うのは大抵姉の子だが。

しかもエアコンをつけているのに、部屋のドアを開け放して遊びまわるから、ちっとも涼めなければ惰眠さえも貪れない。外でも蝉が元気にいい仕事をしているが、ここにいるよりはましかもしれない。俺は財布を持って立ち上がった。

「どこに行くの? もうお昼ご飯できるわよ」

大量のそうめんを茹でていた母が、キッチンから玄関に向かっている俺を呼び止める。

「コンビニ」

手伝っていた姉が自分の子供にするように、すぐ帰ってくんのよと恥ずかし気もなく怒鳴るので、片手を上げてとりあえず応えておいた。二十歳の弟など自分の子供と一緒らしい。彩が帰省していなければ避難する手もあったが、質の違う煩さに耐えるのもきつい。

「何れにしてもか」

ため息をつきながら歩いていると、公園のベンチにぼんやり座っている女の子の姿が目に入った。その横には同様にぼーっとしながら指しゃぶりをする男の子。あの大騒ぎの一件以来二、三日見かけなかった例の姉弟だ。会いたいわけでもないのに遭遇するのは何故だ。

第一日向ぼっこでもあるまいに、炎天下でひたすら座っているってどうなんだ。そんなの最早遊びでも何でもない。それとも根性を鍛えているのか? 暑さを我慢すれば賞金でも貰えるのか? 俺はどっちもご免だが。

考えてみたら朝や夕方などの比較的暑さが弱まっている時間帯や、親子連れが大勢遊んでいるときに姉弟を見かけることはあまりなかった。家の都合もあるのだろうが、いくら貸し切り状態でも一番暑い最中に外に出なくてもいいのにとげんなりする。

「どうも」

自分でも釈然としないが俺は姉の方に声をかけていた。近づく俺をゆっくり見上げた彼女は弾かれたように立ち上がった。

「先日はご迷惑をおかけしてすみませんでした」

サイレン事件(?)のことを指しているのだろう。責めてなどいないのにいきなり謝ってくる。弟は弟で相変わらず我関せずの態度を貫いている。

「別に迷惑なんてかけられてないから」

嘘じゃないしいちいち謝られても面倒なのでぶっきらぼうに切り返したら、姉は不思議そうに目を瞬いて黙り込んだ。言い方がきつかったかなと思ったが、単に言葉が出てこなかっただけらしい。

「ありがとう、ございます」

今度はたどたどしくお礼を口にした。お礼を言われる意味が分からない。そんなもん必要ないからまず弟に挨拶させなよ。うちの姉の子供と同年齢の弟を一瞥すれば、まだ指しゃぶりをしたままこちらを見ようともしない。ここまでくるといっそ清々しい。合コンなんて単語は覚えなくてもいいが、もう少し感情の起伏はあってもよさそうなものだ。

「眼鏡、いつもかけてるわけじゃないんだ?」

どこか不安そうな姉の様子に、勝手にそんな問いが洩れていた。別に気になっていたわけでもないのに、話を繋ごうとしている自分に驚いた。

「あれ、伊達なんです」

「伊達?」

まるで顔を隠すように、結ばずに下ろしている髪が時折吹く風に揺れる。

「あ、えっと、不細工なのでちょっと目くらまし…はい、目くらましですね」

「ああ、そう」

不細工じゃないよと否定しないと、彩だったら確実に機嫌を損ねるだろうが、姉は他人なので別にどうでもいい。

「じゃ」

汗がとめどなく流れてくるのが不快で俺はその場を後にした。途中で背後を振り返ると、姉弟はやはり座って動かない。そこだけ時間が止まっているようだ。二人はいつまでそうしているつもりなんだろう。





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