1 / 1
お地蔵さまとポン吉
しおりを挟む
大きな山と小さな山に囲まれた、ある山里の一軒家に、ポン吉という名まえのたぬきが飼われておりました。
ポン吉は、お昼寝が大好きです。
朝ごはんを食べるとグーグーグー、昼ごはんを食べてはグーグーグー、夕ごはんを食べたらおやすみなさい! というありさまです。
この家のじいさまは、こんなポン吉のことをこう呼んでおりました。
「おい、ぐうたらだぬき!」
じいさまは、いつもあきれ顔で言うのでした。
そんなある日のことです。
村の役場の人たちが、大勢じいさまの家にやって来ました。
「わしに何か用かい?」
役場の人たちは、じいさまの田んぼの真ん中を通して、新しい道路を作りたいと言うのでした。
じいさまはそれはそれは驚きました。そんなことになったら、田んぼが右と左に分かれてしまう。
さらに田んぼの横に立つお地蔵さまも、別のところへ移すと言うのです。
それを聞いて驚いたのは、じいさまだけではありませんでした。
ポン吉です。目をまんまるにして驚いています。
(大変だ大変だ、こりゃ大変だ!)
じいさまと役場の人たちの長い長い話が終わり、役場の人たちは帰って行きました。
じいさまは眉毛と眉毛をくっつけて、口をへの字にし、鼻からブンと息を漏らしながら田んぼを見ています。
次の次の日、そして次の日も、その次の日も、役場の人たちはじいさまの家にやって来ました。
そして今日は、見たこともない大きな道具をみんなで抱えてやって来ます。
もう二つ向こうの曲がり角まで来ています。
それを見たポン吉は、足をバタバタさせると、その場でクルッと一回り、役場の人たち目がけて走り出しました。
そして前足をおでこに当てると
(えいっ! ポコン!)
なんと、左を指し示す道しるべに変身したのでした。
役場の人たちは、このポン吉道しるべを不思議そうに見ていましたが、道しるべどおり左へ曲がって行きました。
やりました! 大成功です。
(ポコン!)
たぬきの姿に戻ったポン吉は大よろこび。
しかし、少し行ったところで道をまちがえたことに気づいた役場の人たちが戻って来ます。
またまた大変です!
ポン吉はひっしに考えました。そしてまたその場でクルッと一回りすると、田んぼの横に立つお地蔵さま目がけて走り出しました。
そしてお地蔵さまの横に立ち、前足をおでこに当てると
(えいっ! ポコン!)
なんと今度は小さなお地蔵さまに変身したのでした。
そんな時、役場の人たちの大きな話し声に気づいたじいさまが、あわててお地蔵さまのところにやって来ました。
「えっ、え~?」
じいさまは驚きました。お地蔵さまのとなりに、もう一つ小さなお地蔵さまが立っているではありませんか。
さらにじいさまはびっくりぎょうてん! なんとこの小さなお地蔵さまのお尻から、ふさふさとしたシッポが出ていたのですから。
(こりゃ、ポン吉じゃ!)
あわてているじいさまのところへ、とうとう役場の人たちがやって来てしまいました。
何も知らない役場の人たちは、お地蔵さまを他のところへ移す話を始めました。
これは大変なことになってしまいました。
役場の人たちの話など、じいさまの耳には入ってきません。お地蔵さまと一緒に、小さなお地蔵さまに変身したポン吉まで、どこかへ連れて行かれては大変です。
その時じいさまは、小さい頃聞いた昔話をふと思い出すと、一生懸命に役場の人たちに語り始めました。
「わしが小さいころ聞いた話だが、雨がひどく降っていた日に、旅の親子がこん辺りで行き倒れになっておったらしい。母親は、子どもを雨から守るように倒れておったそうじゃ。それを見つけた村人たちが、いろりに火をおこし、おもゆを飲ませて看病したが、元気にならず親子とも死んでしまったそうじゃ。ふびんに思った村人たちは、この親子のためにお地蔵さまをここに立てたらしい……」
じいさまは役場の人たちの顔をのぞき込みながら、ゆっくりゆっくり話しました。
すると、それを聞いていた小さなお地蔵さまが、いいえポン吉が泣き出してしまったから大変です。
小さなお地蔵さまの目から、涙が次から次へとあふれ出しました。
それを見た役場の人たちは、あわてて左右に手を振りながら言いました。
「このお地蔵さまは、そん時の親子にちがいねえ。ここからどかしてはなんねえ。ここへ道路を作ってはなんねえ」
「そうだ! 向こうの山はどうだ?」
「もういっぺんみんなで考えてみるべ!」
そして役場の人たちは代わる代わるお地蔵さまに手を合わせると、帰って行きました。
役場の人たちを見送ったじいさまは、泣いている小さなお地蔵さまに言いました。
「もういいぞポン吉、出てこいや!」
すると涙で顔をくちゃくちゃにしたポン吉が(ポコン!)とあらわれました。
じいさまは、腰にかけていた手ぬぐいを取るとやさしく涙をふき、頭をなでながら言いました。
「ありがとなポン吉。おまえのおかげじゃ、ありがとな。さあ帰るぞ」
訳が分からないままポン吉は、じいさまの後ろを泣きながらついて行きました。
次の日
「ポン吉や、この座布団をおまえにやるから使えや!」
ふかふかした新しい座布団は、お昼寝にぴったり! ポン吉のお気に入りになりました。
「ぐうたらだぬきだなんて言うて、すまんかったな」
頭をなでられたポン吉は、首をかしげじいさまを見上げています。
じつを言うと、ポン吉は自分の宝ものをひっしに守っただけなのでした。お地蔵さまの後ろの田んぼに掘った穴の中には、木の枝や木の実、花の種、片方だけのぞうりなど、ポン吉の大切なものがたくさん入っているのです。
ポン吉は、ただその宝ものを守りたかっただけだったのです。
そして役場の人たちが言っていた新しい道路は、となりの小さな山を通して作られることになりました。
稲がゆらゆらゆれる上を、赤とんぼがたくさん飛んでいます。じいさまは腰の後ろで手を組んで、黄色く色づいた田んぼをながめています。お地蔵さまの後ろでは、今日もポン吉が穴を掘っています。
まあ何はともあれ、めでたしめでたし。
おわり
ポン吉は、お昼寝が大好きです。
朝ごはんを食べるとグーグーグー、昼ごはんを食べてはグーグーグー、夕ごはんを食べたらおやすみなさい! というありさまです。
この家のじいさまは、こんなポン吉のことをこう呼んでおりました。
「おい、ぐうたらだぬき!」
じいさまは、いつもあきれ顔で言うのでした。
そんなある日のことです。
村の役場の人たちが、大勢じいさまの家にやって来ました。
「わしに何か用かい?」
役場の人たちは、じいさまの田んぼの真ん中を通して、新しい道路を作りたいと言うのでした。
じいさまはそれはそれは驚きました。そんなことになったら、田んぼが右と左に分かれてしまう。
さらに田んぼの横に立つお地蔵さまも、別のところへ移すと言うのです。
それを聞いて驚いたのは、じいさまだけではありませんでした。
ポン吉です。目をまんまるにして驚いています。
(大変だ大変だ、こりゃ大変だ!)
じいさまと役場の人たちの長い長い話が終わり、役場の人たちは帰って行きました。
じいさまは眉毛と眉毛をくっつけて、口をへの字にし、鼻からブンと息を漏らしながら田んぼを見ています。
次の次の日、そして次の日も、その次の日も、役場の人たちはじいさまの家にやって来ました。
そして今日は、見たこともない大きな道具をみんなで抱えてやって来ます。
もう二つ向こうの曲がり角まで来ています。
それを見たポン吉は、足をバタバタさせると、その場でクルッと一回り、役場の人たち目がけて走り出しました。
そして前足をおでこに当てると
(えいっ! ポコン!)
なんと、左を指し示す道しるべに変身したのでした。
役場の人たちは、このポン吉道しるべを不思議そうに見ていましたが、道しるべどおり左へ曲がって行きました。
やりました! 大成功です。
(ポコン!)
たぬきの姿に戻ったポン吉は大よろこび。
しかし、少し行ったところで道をまちがえたことに気づいた役場の人たちが戻って来ます。
またまた大変です!
ポン吉はひっしに考えました。そしてまたその場でクルッと一回りすると、田んぼの横に立つお地蔵さま目がけて走り出しました。
そしてお地蔵さまの横に立ち、前足をおでこに当てると
(えいっ! ポコン!)
なんと今度は小さなお地蔵さまに変身したのでした。
そんな時、役場の人たちの大きな話し声に気づいたじいさまが、あわててお地蔵さまのところにやって来ました。
「えっ、え~?」
じいさまは驚きました。お地蔵さまのとなりに、もう一つ小さなお地蔵さまが立っているではありませんか。
さらにじいさまはびっくりぎょうてん! なんとこの小さなお地蔵さまのお尻から、ふさふさとしたシッポが出ていたのですから。
(こりゃ、ポン吉じゃ!)
あわてているじいさまのところへ、とうとう役場の人たちがやって来てしまいました。
何も知らない役場の人たちは、お地蔵さまを他のところへ移す話を始めました。
これは大変なことになってしまいました。
役場の人たちの話など、じいさまの耳には入ってきません。お地蔵さまと一緒に、小さなお地蔵さまに変身したポン吉まで、どこかへ連れて行かれては大変です。
その時じいさまは、小さい頃聞いた昔話をふと思い出すと、一生懸命に役場の人たちに語り始めました。
「わしが小さいころ聞いた話だが、雨がひどく降っていた日に、旅の親子がこん辺りで行き倒れになっておったらしい。母親は、子どもを雨から守るように倒れておったそうじゃ。それを見つけた村人たちが、いろりに火をおこし、おもゆを飲ませて看病したが、元気にならず親子とも死んでしまったそうじゃ。ふびんに思った村人たちは、この親子のためにお地蔵さまをここに立てたらしい……」
じいさまは役場の人たちの顔をのぞき込みながら、ゆっくりゆっくり話しました。
すると、それを聞いていた小さなお地蔵さまが、いいえポン吉が泣き出してしまったから大変です。
小さなお地蔵さまの目から、涙が次から次へとあふれ出しました。
それを見た役場の人たちは、あわてて左右に手を振りながら言いました。
「このお地蔵さまは、そん時の親子にちがいねえ。ここからどかしてはなんねえ。ここへ道路を作ってはなんねえ」
「そうだ! 向こうの山はどうだ?」
「もういっぺんみんなで考えてみるべ!」
そして役場の人たちは代わる代わるお地蔵さまに手を合わせると、帰って行きました。
役場の人たちを見送ったじいさまは、泣いている小さなお地蔵さまに言いました。
「もういいぞポン吉、出てこいや!」
すると涙で顔をくちゃくちゃにしたポン吉が(ポコン!)とあらわれました。
じいさまは、腰にかけていた手ぬぐいを取るとやさしく涙をふき、頭をなでながら言いました。
「ありがとなポン吉。おまえのおかげじゃ、ありがとな。さあ帰るぞ」
訳が分からないままポン吉は、じいさまの後ろを泣きながらついて行きました。
次の日
「ポン吉や、この座布団をおまえにやるから使えや!」
ふかふかした新しい座布団は、お昼寝にぴったり! ポン吉のお気に入りになりました。
「ぐうたらだぬきだなんて言うて、すまんかったな」
頭をなでられたポン吉は、首をかしげじいさまを見上げています。
じつを言うと、ポン吉は自分の宝ものをひっしに守っただけなのでした。お地蔵さまの後ろの田んぼに掘った穴の中には、木の枝や木の実、花の種、片方だけのぞうりなど、ポン吉の大切なものがたくさん入っているのです。
ポン吉は、ただその宝ものを守りたかっただけだったのです。
そして役場の人たちが言っていた新しい道路は、となりの小さな山を通して作られることになりました。
稲がゆらゆらゆれる上を、赤とんぼがたくさん飛んでいます。じいさまは腰の後ろで手を組んで、黄色く色づいた田んぼをながめています。お地蔵さまの後ろでは、今日もポン吉が穴を掘っています。
まあ何はともあれ、めでたしめでたし。
おわり
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる