お地蔵さまとポン吉

Mrs.マーブル

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お地蔵さまとポン吉

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 大きな山と小さな山に囲まれた、ある山里の一軒家に、ポン吉という名まえのたぬきが飼われておりました。
 ポン吉は、お昼寝が大好きです。
 朝ごはんを食べるとグーグーグー、昼ごはんを食べてはグーグーグー、夕ごはんを食べたらおやすみなさい! というありさまです。
 この家のじいさまは、こんなポン吉のことをこう呼んでおりました。
「おい、ぐうたらだぬき!」
 じいさまは、いつもあきれ顔で言うのでした。

 そんなある日のことです。
 村の役場の人たちが、大勢じいさまの家にやって来ました。
「わしに何か用かい?」
 役場の人たちは、じいさまの田んぼの真ん中を通して、新しい道路を作りたいと言うのでした。
 じいさまはそれはそれは驚きました。そんなことになったら、田んぼが右と左に分かれてしまう。
 さらに田んぼの横に立つお地蔵さまも、別のところへ移すと言うのです。
 それを聞いて驚いたのは、じいさまだけではありませんでした。
 ポン吉です。目をまんまるにして驚いています。
(大変だ大変だ、こりゃ大変だ!)
 じいさまと役場の人たちの長い長い話が終わり、役場の人たちは帰って行きました。
 じいさまは眉毛と眉毛をくっつけて、口をへの字にし、鼻からブンと息を漏らしながら田んぼを見ています。

 次の次の日、そして次の日も、その次の日も、役場の人たちはじいさまの家にやって来ました。
 そして今日は、見たこともない大きな道具をみんなで抱えてやって来ます。
 もう二つ向こうの曲がり角まで来ています。
それを見たポン吉は、足をバタバタさせると、その場でクルッと一回り、役場の人たち目がけて走り出しました。
 そして前足をおでこに当てると
(えいっ! ポコン!)
 なんと、左を指し示す道しるべに変身したのでした。
 役場の人たちは、このポン吉道しるべを不思議そうに見ていましたが、道しるべどおり左へ曲がって行きました。
 やりました! 大成功です。
(ポコン!)
 たぬきの姿に戻ったポン吉は大よろこび。
 しかし、少し行ったところで道をまちがえたことに気づいた役場の人たちが戻って来ます。
 またまた大変です! 
 ポン吉はひっしに考えました。そしてまたその場でクルッと一回りすると、田んぼの横に立つお地蔵さま目がけて走り出しました。
 そしてお地蔵さまの横に立ち、前足をおでこに当てると
(えいっ! ポコン!)
 なんと今度は小さなお地蔵さまに変身したのでした。
 そんな時、役場の人たちの大きな話し声に気づいたじいさまが、あわててお地蔵さまのところにやって来ました。
「えっ、え~?」
 じいさまは驚きました。お地蔵さまのとなりに、もう一つ小さなお地蔵さまが立っているではありませんか。
 さらにじいさまはびっくりぎょうてん! なんとこの小さなお地蔵さまのお尻から、ふさふさとしたシッポが出ていたのですから。
(こりゃ、ポン吉じゃ!)
 あわてているじいさまのところへ、とうとう役場の人たちがやって来てしまいました。
 何も知らない役場の人たちは、お地蔵さまを他のところへ移す話を始めました。
 これは大変なことになってしまいました。
役場の人たちの話など、じいさまの耳には入ってきません。お地蔵さまと一緒に、小さなお地蔵さまに変身したポン吉まで、どこかへ連れて行かれては大変です。
 その時じいさまは、小さい頃聞いた昔話をふと思い出すと、一生懸命に役場の人たちに語り始めました。
「わしが小さいころ聞いた話だが、雨がひどく降っていた日に、旅の親子がこん辺りで行き倒れになっておったらしい。母親は、子どもを雨から守るように倒れておったそうじゃ。それを見つけた村人たちが、いろりに火をおこし、おもゆを飲ませて看病したが、元気にならず親子とも死んでしまったそうじゃ。ふびんに思った村人たちは、この親子のためにお地蔵さまをここに立てたらしい……」
 じいさまは役場の人たちの顔をのぞき込みながら、ゆっくりゆっくり話しました。
 すると、それを聞いていた小さなお地蔵さまが、いいえポン吉が泣き出してしまったから大変です。
 小さなお地蔵さまの目から、涙が次から次へとあふれ出しました。
 それを見た役場の人たちは、あわてて左右に手を振りながら言いました。
「このお地蔵さまは、そん時の親子にちがいねえ。ここからどかしてはなんねえ。ここへ道路を作ってはなんねえ」
「そうだ! 向こうの山はどうだ?」
「もういっぺんみんなで考えてみるべ!」
 そして役場の人たちは代わる代わるお地蔵さまに手を合わせると、帰って行きました。
 役場の人たちを見送ったじいさまは、泣いている小さなお地蔵さまに言いました。
「もういいぞポン吉、出てこいや!」
 すると涙で顔をくちゃくちゃにしたポン吉が(ポコン!)とあらわれました。
 じいさまは、腰にかけていた手ぬぐいを取るとやさしく涙をふき、頭をなでながら言いました。
「ありがとなポン吉。おまえのおかげじゃ、ありがとな。さあ帰るぞ」
 訳が分からないままポン吉は、じいさまの後ろを泣きながらついて行きました。
 次の日
「ポン吉や、この座布団をおまえにやるから使えや!」
 ふかふかした新しい座布団は、お昼寝にぴったり! ポン吉のお気に入りになりました。
「ぐうたらだぬきだなんて言うて、すまんかったな」
 頭をなでられたポン吉は、首をかしげじいさまを見上げています。
 じつを言うと、ポン吉は自分の宝ものをひっしに守っただけなのでした。お地蔵さまの後ろの田んぼに掘った穴の中には、木の枝や木の実、花の種、片方だけのぞうりなど、ポン吉の大切なものがたくさん入っているのです。
 ポン吉は、ただその宝ものを守りたかっただけだったのです。

 そして役場の人たちが言っていた新しい道路は、となりの小さな山を通して作られることになりました。

 稲がゆらゆらゆれる上を、赤とんぼがたくさん飛んでいます。じいさまは腰の後ろで手を組んで、黄色く色づいた田んぼをながめています。お地蔵さまの後ろでは、今日もポン吉が穴を掘っています。
 まあ何はともあれ、めでたしめでたし。
             おわり

 
 
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