準備済みの異世界転移物語

七草 ガユ

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困惑する人々

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 ラドニアンに送っていた密偵の報告でトコヨノ城の会議室は騒めいていた。

「まさかワ―ライオンを単独で倒してしまえるとはさすがは我らと同じ魔の血を宿すもの、是非戦術指導を仰ぎたいものです」
「報告によるとかの人物は少女のような容姿でヴィネット殿と同じドレスを纏っていたとか……ギルドの登録では男ということになっているようですがもしかすると両性なのかもしれませんな」
「それがどうした? 両性ならばガマのような魔物もそうであろう?」
「虫や獣ならば問題はないでしょう。しかし人型で両性というのは……」
「神に近いものの証か」
「さすがは陛下。御明察恐れ入ります」
「世事はいい。続けよ」
「ハッ。もしも両性ということであればそれは自然に生まれたのではなく、神の意思によって造られたものである可能性が高い。そんな方が好んで少女のような容姿や服装をしているのであれば男色なのやもしれません、既に海を渡られたとのことでしたが王女様では相手にされぬのではと」
「貴様、王女様を侮辱するつもりか!」
「いえ滅相もない、しかし男色相手では女性らしく麗しい王女様では――」
「娘は自ら申し出てその者のもとへ向かったのだ。なんとかするであろう、なにせ余の娘である。しかし神話の種族とは思っていたが本当に神に近いしいものだとはな」

 そう締めくくって高笑いを上げる王。その笑い声に委縮しながらも集った者たちはそれぞれがそれぞれの思惑を頭の中に思い描いているのだった。


 ◇ ◇ ◇


「しかし、聞いていた楽園時代から来たという者がまさかやつじゃったとはな」

 深夜の冒険者ギルドラドニアン支部の会議室1では支部に所属する職員の全てに加えサリウス、ヴィネットが集まっていた。

「失礼ですが、ヴィネット先生はイヴリアさんとはお知り合いなのですか?」
「名前は知らんし実際会うまでは忘れておったがな……楽園時代、可哀想なあの娘の魂を鎮めるために貢物を集めておった私に、ゴミを押し付けてくる輩が沢山いてな、私の領域に引きずり込んでお仕置きをしておった。という話はしたことがあったか?」
「はい、元々先生は人類と敵対していたと」
「敵対したかったわけではないがな、結果としてそうなっておった。そんな私に幾度となく挑んできた者たちがいた、やつはその内の1人じゃな。飽きもせず毎日毎日私とやつのパーティーと戦ったものだ」
「あのイヴリアさんがパーティーを組んで挑むほど先生はお強いんですね」
「そりゃあそうじゃ、私の領域に引きずり込むんじゃから私が有利になるのは当然じゃろ?」
「それではもし先生とイヴリアさんが領域などなしに戦ったらどうでしょう?」
「んー、難しいのぉ。本来なら教え子達を前にして私だと恰好つけたいところなのじゃが……。基本的な戦闘力は私の方が上を行っているそれは間違いない、しかし領域外の私の戦略程度ならやつはすぐに対策してくるじゃろう」

 ヴィネットのその言葉に黙って聞いていた職員達が騒めく。

「先生ぃ! イヴリアってやつはそんなにつえぇのか?」
「基本的な戦闘力は冒険者ギルドの幹部クラスを少し上回る程度かのぉ、装備はかなりの差があるじゃろうが」
「そんなに装備やべぇのか?」
「ん? 確かに装備は伝説級かそれを超えるくらいのものだろうが」
「マジかよ! でもそれじゃあ装備を俺らと同じにすればギルドマスターならいい勝負できるかもしれねぇよな」
「そういうところが最近の若もんはと嘆かれる原因なのじゃよ」
「俺もういい歳だぜ?」
「私から見ればみんなガキでしかないよ、奴を少し見習いな! あんたの言う条件でギルドマスターとやつが戦ったとするじゃろ。私の見立ててでは1回だけならいい勝負に見えるだろう、しかし2回、3回と戦えばやつが圧勝する」
「莫迦な! ギルドマスター様だって対策を立てて臨めば――」
「あの時代の戦略と今の時代の戦略では月と石ころほどの差があるわ! お主たちに思いつくのか? やつらは私の「呪いの火」を火耐性装備や水属性防具ではなく木属性防具でわざと攻撃をくらうのじゃぞ?」

 その理由は1撃必殺級の魔法を更にダメージをあげて受けることによって起きるダメージのオーバーフローを利用した即死回避の戦術だった。
「オルファナオンライン」の最大ダメージは9999、「呪いの火」を装備なしで受ければレベル、ステータス関係なくその最大ダメージを受けることになる。体力に超特化した盾職がようやく1万台のHPになれる「オルファナオンライン」では絶望的なダメージ量、耐性をつけても耐えられるユーザーは少なかった。
 それを最初に発見したのはイヴリアの所属する攻略検証ギルドだった。「呪いの火」は闇、火の複合魔法。それに対して聖、木の装備で避けずに正面から「呪いの火」を受けることによってダメージが倍以上に跳ね上がり「オルファナオンライン」の被ダメージ計算の領域を超えてしまい、ダメージが1なる。

 しかしそれを知らないその場にいる者達は言葉を失った。
 師と仰ぐヴィネットの「呪いの火」はその場にいる全員が教育過程で見せられるものだった。どんな魔物も1撃で屠り、近くにいるだけで身体の全てが焼け焦げるような錯覚さえするそれを更にあえて不利な装備でワザと食らうなど正気とは思えなかった。

「今回のワ―ビーストは楽園時代にはいなかった。じゃからやつは援軍を呼んだ、おそらく高レベルの獣人を想定して戦ったのじゃろう。しかし次から援軍を呼ぶこともないじゃろうな」

 その言葉にはサリウスも驚いていた。戦闘が終わった後のイヴリアは、見ただけで恐怖を感じるほどの力を放っていた、それはおそらく本気を出していたということ。ワ―ライオンに対して余裕がなかったということにほかない。
 しかし、かつて自分に冒険者とはなにか戦闘のいろはを叩きこんでくれて尊敬する師は、同じ状況が再び起きたら今度は簡単に対処してしまうだろうと言うのだ。あれだけの魔物を、たった1回戦ったくらいでだ。

「そ、その根拠はあるのですか」
「その場で見ていてわからんのならそこまでということじゃ。気になるなら本人に聞くがいい、共に旅した仲間に教えないようなやつでもないじゃろ」
「……」
「しかし、奴のようなものがもう少しこの時代に来てはくれんかのぉ。そしたら私も楽になる、また敵対してみるのも面白いじゃろうし」

 冗談なのか本気なのかわからないその美しい人形の言葉にその場は長い時間凍り付いた。
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