捧げる星はイフェメラル

鈴木悠大

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1.星の観測

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「2023年最後に観測された星はイフェメラルと名付けられました」
朝のニュースで報道されていた星は距離、大きさ、色ともに判別ができないものらしい。だが分かっているのは、短命で最も美しい。そのことから、粋な天文学者が儚いからとってイフェメラルにしたそうだ。
「光、帰りお父さんのお見舞い行ってきてね。帰りにバターと醤油買ってきて」
僕の名前は星宮光。星が夜空に満ちていてきれいだったから光と父が名付けた。その父はというと、先日急に倒れ病院に運ばれた。癌が見つかったそうだ。幸い早期発見だったため死には至らないが、治療のため国立病院に入院している。僕はそこに通うのが日課になっていた。
「父さん、来たよ調子どう?」
「すこぶる元気だよ、あー花瓶の水と自販機でコーヒー買ってきてくれ」
「りょーかい」
花瓶の水は定期的に変えている花が腐るのは縁起が悪いから。コーヒーも買い終え病室に戻る道中、窓辺で空を見上げている女の子を見かけた。僕は思わず、
「きれい、あ、ごめんなさい、口に出ちゃった」
女の課はこっちに向かった来て、
「びっくりした、きれいな花ね」
女の子の口調は柔らかく優しい、僕はまた大胆な行動に出る。
「あ、あのお名前は?僕は星宮光って言います」
「礼儀正しいね、空下千輝です。千に輝でちかって読むの、よろしくね光くん」
久々の呼び捨てで顔に火がついた。
「あ、あの千輝さんは何歳なんですか?」
「ちょっと、いきなりレディに歳聞く?せめて濁しなさいよ。」
あ、しまった。また先走ってしまった。
「まぁ、いいわ。17、でもあと二ヶ月で18歳よ」
「僕も18歳です、年上かと思ってました」
あまりの立ち振る舞いにとっくに成人してるかと思った。
「そうなのね、なら敬語は禁止よ」
そう言って笑った姿に僕は惹かれてしまった。
「ところで早く戻らなくていいの?待ってるんじゃないの?」
「あ、そうでした。あ、間違えた、そうだった。またね。」
「ふふ、ゆっくりでいーよ。また来てね」
そういってその場を去った。父の病室につき花瓶を置き、コーヒーを渡した
「何だ、遅かったたな」
「ま、まぁな父さん早く良くならなくてもいーよ」
「おいおい、父が心配じゃないのか」
「心配は心配だけど、その、来る理由ができたんだよ」
父は何かを悟ったかのようにくすくす笑い始めた。それを見て僕はまた顔から火が出た。
「じゃぁ、スーパー寄るから帰るよ」
「おう、明日も来いよ」
「おう、お大事に」
別れの言葉を残し病室を後にした。
スーパーでバターと醤油を買い、にやけながら家に帰った。
「ただいまー、買ってきたよ」
「おお、ありがと。お父さんどうだった?」
「すっげー元気だった。すぐにでも退院しそうだなー」
少し悲しげに行ったことに気づいたのは母からの言葉の後だった。
「なに~、うれしくないの?まさか、好きな子発見とか?」
図星を突かれもじもじしている僕に母は追い打ちをかける。
「顔はどんな?背は?髪は長いの?どんな声?」
どんどん質問する母に負け、その日の夕飯は食った気がしなかった。入浴を終えベットに入ろうとした時ふと思った。
(千輝さんはなんの病気なんだろう)
その疑問は襲い来る眠気に負けその場で終わった。
大学受験も一か月を切った12月15日、学校も三年は自習期間に移っていた。そのため早めに病院に行くことにした。
「すいません、今日早く来てしまったんですけど」
「あー、星宮さんのところの。大丈夫よ今日は人も少ないから」
そういうと僕は足早に病室に向かった。
「父さん、いつもより早く来たよ」
と言いカーテンを開けるとそこには空を眺めている父がいた。
「どうしたの父さん、空なんか見上げて」
「ニュースでやってたイフェメラルって星を観てたんだよ」
「星なんて真っ昼間に見えないでしょ」
「長年天文学者やってるんだ、どこにあるかは見当つく」
そういう父に僕の胸は妙な胸騒ぎがしたが気にせずいつも通り花瓶の水を替えに行った。
(そういえば、千輝さんいるかな)
そんなことを考えながら廊下を足早に歩いていた。
「あ、千輝さん」
光がそういうと千輝は長い髪を耳の後ろにやり呼んでいたであろう小説にしおりを挟みこっちに手を振った。
「光くん、今日は早いね」
そう言う千輝はあまりに美しく、まるで夜空に輝く星のようだった。
「今週から自習期間なんだ、学校が早く終わって..」
もじもじ喋る僕を見て千輝は輝く笑顔を見せた。
「じゃあ、今日は少しお話しない?」
「え、いいの?」
まさかの展開に言葉が詰まりそうになった。
「うん、光君のこといろいろ知りたいんだ」
弾むような口調でそういう千輝に僕も千輝のことがしりたくなった。それから色々話した。受験のことや好きなことについて、そして家族のことについて。
「えー!お父さん天文学者なの?」
そう驚く千輝のキラキラした目を見ながら頷いた。
「私、将来天文学者になりたいの。あんなにきれいな星を見続けられるんだよ?」
そう言うと今までの千輝とは思えないほどの幼い笑顔で星について語り始めた。僕はそんな千輝に惹かれ始めていった。
「喋りすぎちゃった、もうこんな時間ごめんね」
そういい時計に目をやると時刻は五時半。三時間半も経っていた。道理で病室も薄暗いわけだ。
「結局私がずっと喋っちゃたね」
「聞くの楽しかったよ、また聞かせてよ」
千輝の顔は形容しがたいぐらいの明るさで笑っていた。
「じゃあ僕行くね。また来るよ」
「うん、また話そう」
話していた時に話していた熱気を放出するかのように扉を全開にして病室を後にした。花瓶の水を入れ替えるのを忘れていたことに気づき入れ替え、父の病室に戻った。
「遅かったな、もしかして千輝ちゃんのとこか?」
笑いながら言ううちに恥ずかしくなり少し怒り口調で言い返した。
「何で知ってんだよ」
「看護師の間で話題だそうだ。同じくらいの男女が病室で喋ってたと」
どこから見ていたのかと考えると同時に変なことしてなかっただろうかと思い返した。
「あの、千輝ちゃんがね~」
「父さん知ってるの?」
「病院じゃ笑わない女の子で有名だよ」
あんなまぶしい笑顔をする千輝が笑わないはずがないと父の言葉に聞く耳を持たなかった。その後も父が何やら話していたが千輝のことで頭がいっぱいだった。六時半になるころ父の話を区切り病室を出て家に帰った。
「今日は遅かったのね」
家に着くなり母が僕に言葉をかけた。
「まぁ、色々な」
にやけながら質問しようとする母から逃げながら浴室に行った。服を脱ぎ髪を洗ってる時今日のことを思い出し
「あー、僕千輝さんのこと好きだ」
星のように輝く笑顔をする千輝が好きなことを実感するのに時間はいらなかった。
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