異世界学園の中の変な仲間たち4

へすこ(ひしご)

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そのきゅう

跳び箱

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「あれ?先輩はどこ?」
 放課後、授業が終わったと同時にすぐリシェ達の教室に足を運んでいたラスは、その姿が見当たらないのを不審に思い彼らの同級生を捕まえて聞いていた。
「リシェなら授業中に足を挫いたみたいで保健室に行ってるよ。湿布が欲しいって言ってたから」
 同級生らはラスの存在に慣れてしまったのか、普通に返事をする。
 保健室という言葉にラスは「え」と驚く。保健室にはあの変質者…もといロシュの牙城だ。それにも関わらず湿布が欲しくて自ら赴くとは、結構な痛み具合なのだろうか。
「ええっと、スティレンは?」
「あいつは今日用具係で文句言いながら片付けしてるから、うちらよりは遅く戻ってくると思うけど」
「じゃあ…じゃあ、先輩は完全に単独で行ったって事?」
 そう言いながらラスは自分の携帯電話の画面を確認する。何かしら連絡が入るかなと期待してみたが、何も記録は無かった。その代わりのように、同級生のグループ内でのメッセージのやり取りは激しく行われている。
 …そもそも、リシェは自分からメッセージを送るタイプでは無い。
「まじかぁ…ありがと。俺、追い掛けてみる」
 とりあえずお礼を言い、急いで保健室の方へと駆け出した。

 ひょこひょこと左足を引き摺り、リシェはジャージ姿のまま保健室の扉を開く。我ながら間抜けな事をしてしまった、と頭の中で少し前の出来事を反芻しながら溜息を吐いていた。
 今日の最後の授業の体育は用具を使って体を動かす内容だった。
 用意された跳び箱を何段までいけるのかという話から、自分なら十二はいけるぞと豪語してしまい見事に足を引っ掛けてしまったのだ。
 引っ掛けなければいけたはずだった。
 足をぶつけ、その拍子に強く跳び箱の数段が崩れてしまった。そして更に運が悪かったのか、その崩れた箱に左足が絡み着地が出来ず、グキッと捻っていた。
 抱えてやろうか?という体育教師のヴェスカの申し出を断り、自分で行けると言って今に至る。流石に自分が間抜け過ぎて、他者に顔向けが出来ないのだ。
「はぁ」
 扉を開くと同時に、外気の風も入ってくる。
 ちょうど良く換気されている室内に足を踏み入れると同時に、「んひゃあっ!?」と変な声が飛び込んできた。
「……?」
 怪訝そうに声の方に目を向けると、真っ白な白衣姿のロシュは驚いた様子でこちらを見ていた。
「り、リシェじゃないですか!まさか自らここに来てくれるなんて」
「足を挫いてしまって。湿布が欲しいので一枚下さい」
「足!?足を挫いたのですか!!」
 やけに大袈裟に言ってくる。そんなに珍しいのだろうか。
「湿布だけでいいです。貰えれば、後は自分で貼ります」
 出来るだけあまり彼とは関わりたく無い。理由は変だからだ。
 ロシュはリシェの前まで近付くと、何も言わずひょいっと抱え上げた。同時にぎゃぁああああ!!とリシェは叫んでしまう。
 せめて何か一言言えばいいのに、ロシュは何も言わずに抱きかかえていた。
「何ですか!!というか、離せ!!あんたは湿布だけ提供してくれればいいんだ!!」
 敬語と普通の言葉をごっちゃにしながら、リシェはロシュに抗議していた。しかしロシュはさっさとベッドの方へと彼を抱えていくと、ドサリと空きベッドの上へ優しく横たわらせる。
 捻った足が痛む中、リシェはロシュを見上げた。
「脱ぐな!!」
 何を思っているのか、何故かロシュは白衣を脱いでいた。処置なら脱がなくても出来るだろう、と言う。
「足の調子を見なければどの程度なのか把握出来ませんからね」
「白衣を脱ぐ意味は!?」
「いえ、何となく…」
 まぁいいでしょう、と濁すロシュはリシェに足を確認しますねと言い痛む左足の靴下を捲る。剥き出しになる裸足の腫れを確認しながら、彼は「おやおや…」と軽く撫でた。
「どうしたらここまで腫れるんです?」
「…跳び箱で失敗して…」
「ほう。何段に挑戦したんですか?」
 優しく撫で摩る手付きが気になるが、リシェはロシュから目を逸らしながら答えた。
「…段」
「へ?」
「十二段はいけると思ってたんだ…」
 ぼそりと呟くリシェ。
 しばらく間が空いた。そして、ロシュはぼそりと返す。
「そりゃ…無理があります…」
「行けると思ったんだ。俺なら」
 何の根拠があってそんな自信が湧いてくるのだろう。そのよく分からない自信は元の世界の性格を引き継いでいるのかもしれないが、流石にその体格で十二段はやや厳しいのではないだろうか。危ないし。
「失敗した瞬間にスティレンにバーカって言われるし…次は絶対成功して見せるからな…」
 まさかまた挑戦する気でいるのだろうか。無理はして欲しくないが、失敗する度にこちらに来てくれるのではないかと淡い期待もしてしまう。だが、やはり無理をしてはいけない。
 ロシュは戸棚から湿布を持ち寄ると、彼に向かって諭すように「努力は大変いいと思いますがね…」と宥めていた。
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