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そのじゅうさん
ダークマター
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寮から戻るなりラスは開口一番に「はぁあああああん…」と男らしくない脱力した声を上げ、頭を抱えてしまう。
リゼラから貰ってしまった可愛らしい袋を見下ろしながら、リシェは眉を寄せて「何であいつは俺にこれを渡して来たんだ?」と不思議がっている。
ここまできて全く分からないのか。
ラスは抱えていた頭を上げ、「分かりませんか?」と弱々しく言った。
「少なくともリゼラちゃんは先輩に好意を寄せていると思うのですよ…俺の方が好きですけどね…だから遅くなったけどバレンタインのチョコをくれたっていう事じゃないですかね?」
その説明に、リシェは余計首を傾げる。
「俺はあの女から平手打ちをされているんだぞ」
「それは先輩が名前を覚えていなかったからじゃ…」
現にさっきも思い出そうとして口をぱくぱくさせていたし、と続ける。それでも丁寧にラッピングまでしてチョコを渡すという事は、物凄く脈があるという事に他ならないのではないだろうか。
それは良いのだが、彼女をついフォローする形になってしまったのが地味にショックだったらしい。
へえ…とリシェは袋を前から後ろからと確認し、勢い良く振ってみる。
「袋はとても綺麗だ。キラキラしている」
「そりゃそうですよ。めっちゃくちゃ気合い入れたんじゃないですかね?折角だから食べたらどうですか?」
「お前も食うか?」
ここまできて、彼は全く気付いていない様子。
鈍いにも程がある。…というか、自分もリシェに好きだと言っても全く意に介さないのだから仕方無い。鈍い以前の問題だった。
「いや、俺が食べたら意味が無いと思いますよ…先輩にってくれたものですし…中身はチョコでしょうから、全部先輩が食べるのが筋ってものです」
ここでもフォローしてしまう。
言いながら、ラスは「んあぁああああああ」と頭を抱えた。物凄く複雑な気分と戦っている状況で、また恋敵のようなリゼラに気を使ってフォローしてしまうなんて、と。
いっそ俺も先輩にチョコを作って贈ればいいのだろうかと思う始末。
「そうか。それなら俺が責任持って食べないと…」
「は…はい、それがいいと思いますよ…」
「お前、笑いながら泣いてるけど大丈夫か?」
どこか痛いのか、と怪訝そうにリシェは問う。
相当酷い顔をしているのだろう。ラスは泣きながら「いえ」とだけ答える。
「俺もチョコを作ろうかなって思っただけです…」
これで歯軋りしたらもっと酷い事になっているのだろう。辛うじてそれは押さえる。
「………」
おかしな奴だ、と言いながらリシェは袋を縛っていたリボンを解いた。
翌日。
登校の準備を完全に終え、部屋から出たスティレンはラスの部屋の前で彼一人だけ出て来たのを見て不思議そうな顔する。
「先輩、ゆっくり休んで下さいね」
そう言いながら心配そうな面持ちで扉を閉めていた。
「ラス?」
「あ…ああ、おはよスティレン」
「リシェ、どうしたの?」
いつも一緒に出るのに、一人だけとは珍しい。
「何だかお腹の具合が良くないみたいで。小さいけど凄く健康体だから珍しいよね」
小さいのは余計だが、スティレンは「心当たりは?」と問う。余程悪い物を食べたに違いない。もしかしたら拾い食いでもしたのではないだろうか。
ラスはしばらく無言だったが、「…チョコかなぁ…」とだけ言い残してそのまま口を閉じる。
「チョコって…期限切れとか?」
「いいや…」
あの開封の儀を目の当たりにしていたラスは、外側の綺麗なラッピングとは真逆のダークマターを思いだして閉口する。
彼女が懸命に作った物に対して文句は言えないが、流石に原型を留めないレベルの固形物を口にするのは宜しく無かったようだ。一体何をどうしたらあんな物体が出来てしまうのだろうか。
「きっと食べあわせが良くなかったんじゃないかな…うん…」
リゼラの名誉の為に、そうフォローするしか無かった。
リゼラから貰ってしまった可愛らしい袋を見下ろしながら、リシェは眉を寄せて「何であいつは俺にこれを渡して来たんだ?」と不思議がっている。
ここまできて全く分からないのか。
ラスは抱えていた頭を上げ、「分かりませんか?」と弱々しく言った。
「少なくともリゼラちゃんは先輩に好意を寄せていると思うのですよ…俺の方が好きですけどね…だから遅くなったけどバレンタインのチョコをくれたっていう事じゃないですかね?」
その説明に、リシェは余計首を傾げる。
「俺はあの女から平手打ちをされているんだぞ」
「それは先輩が名前を覚えていなかったからじゃ…」
現にさっきも思い出そうとして口をぱくぱくさせていたし、と続ける。それでも丁寧にラッピングまでしてチョコを渡すという事は、物凄く脈があるという事に他ならないのではないだろうか。
それは良いのだが、彼女をついフォローする形になってしまったのが地味にショックだったらしい。
へえ…とリシェは袋を前から後ろからと確認し、勢い良く振ってみる。
「袋はとても綺麗だ。キラキラしている」
「そりゃそうですよ。めっちゃくちゃ気合い入れたんじゃないですかね?折角だから食べたらどうですか?」
「お前も食うか?」
ここまできて、彼は全く気付いていない様子。
鈍いにも程がある。…というか、自分もリシェに好きだと言っても全く意に介さないのだから仕方無い。鈍い以前の問題だった。
「いや、俺が食べたら意味が無いと思いますよ…先輩にってくれたものですし…中身はチョコでしょうから、全部先輩が食べるのが筋ってものです」
ここでもフォローしてしまう。
言いながら、ラスは「んあぁああああああ」と頭を抱えた。物凄く複雑な気分と戦っている状況で、また恋敵のようなリゼラに気を使ってフォローしてしまうなんて、と。
いっそ俺も先輩にチョコを作って贈ればいいのだろうかと思う始末。
「そうか。それなら俺が責任持って食べないと…」
「は…はい、それがいいと思いますよ…」
「お前、笑いながら泣いてるけど大丈夫か?」
どこか痛いのか、と怪訝そうにリシェは問う。
相当酷い顔をしているのだろう。ラスは泣きながら「いえ」とだけ答える。
「俺もチョコを作ろうかなって思っただけです…」
これで歯軋りしたらもっと酷い事になっているのだろう。辛うじてそれは押さえる。
「………」
おかしな奴だ、と言いながらリシェは袋を縛っていたリボンを解いた。
翌日。
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「先輩、ゆっくり休んで下さいね」
そう言いながら心配そうな面持ちで扉を閉めていた。
「ラス?」
「あ…ああ、おはよスティレン」
「リシェ、どうしたの?」
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小さいのは余計だが、スティレンは「心当たりは?」と問う。余程悪い物を食べたに違いない。もしかしたら拾い食いでもしたのではないだろうか。
ラスはしばらく無言だったが、「…チョコかなぁ…」とだけ言い残してそのまま口を閉じる。
「チョコって…期限切れとか?」
「いいや…」
あの開封の儀を目の当たりにしていたラスは、外側の綺麗なラッピングとは真逆のダークマターを思いだして閉口する。
彼女が懸命に作った物に対して文句は言えないが、流石に原型を留めないレベルの固形物を口にするのは宜しく無かったようだ。一体何をどうしたらあんな物体が出来てしまうのだろうか。
「きっと食べあわせが良くなかったんじゃないかな…うん…」
リゼラの名誉の為に、そうフォローするしか無かった。
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