異世界学園の中の変な仲間たち4

へすこ(ひしご)

文字の大きさ
33 / 43
そのさんじゅうに

とばっちり

しおりを挟む
 ん?あの子は一体…。
 ある日の放課後、アストレーゼン学園の保健医であるロシュは校舎前に佇む一人の少女の姿を見つけた。明らかにこの学校の制服ではないのでひたすら際立って見えてしまう。
 校門の前で立ち往生しているという事は、こちらの生徒に用があるのだろう。
 もしくは恋人を待っているとか…。
 そう思うと甘酸っぱい気持ちになり、つい笑みを漏らした。何と初々しい事だろう。
 しかしなかなかお目当ての生徒が来ないのか、一人一人を確認しては肩を落としている。しっかり待ち合わせをしていれば話は別だが、アポ無しの可能性も無くはない。
「こんにちは。どなたかお待ちでしたか?」
 突然声を掛けられ、相手の少女は細身の体をひくりと震わせる。そして恐る恐る顔を上げた。
 ロシュの姿を見るなり、彼女は驚いたように目を見開いてしまう。
 それもその筈。
 彼は外見だけは凄まじく良い。中性的で優しげな甘いマスクはとにかく他者を惑わせてくる。持ち前の整った顔は、街を歩く度に人々の目線を奪う程で、身長もそれなりに高く、均整の取れた体格もまた世の女性たちを魅了してしまう。
 優しい顔立ちから放たれる笑みを見れば、大半は心奪われてしまうだろう。とにかく彼は神々に愛されて生まれたのかと思わせてしまう位の美貌を持っていた。

 …唯一の欠点を挙げれば、リシェの話になると非常に気持ちの悪い変態になる事だけ。

「こんにちは、お嬢さん」
 光輝く営業スマイルを浮かべ、ロシュは少女に近付き声を掛けた。
「あ…」
 声を掛けられた少女はロシュに気付くと、滅多にお目に掛かれないレベルの美貌の男に若干驚いた顔を見せる。まさか大人の男性に声を掛けられるとは想定していなかったのかもしれない。
 一瞬戸惑っていたが、基本的に人懐っこい性格なのだろう。すぐに「こんにちは」と返事をする。
「こちらの学校に何かご用が?」
「ええ」
 その受け答えだけでも、いい所出のお嬢様という印象を受ける。大抵の子は「うん」という相手を問わずに普通の受け答えをしてくるものだ。
 彼女の手にはラッピングされた小さな箱が入っていた。
 誰かに渡す物なのだろう。この学校は寮生の他に、自宅からの登校者も数多いので校舎から出るのを待っているのかもしれない。
「おや、プレゼントですか?」
「そう。約束したのよ。でもなかなか出て来てくれないのよね…困ったわ。このままじゃ日が暮れちゃうし」
「そうだったのですか…」
 ロシュは空に向けて目線を上げた。確かにもう夕暮れも消えかかりそうな空模様だ。流石に真っ暗なままで女性一人でこの先帰るのは危険過ぎる。
 明るい内に目的を果たしてあげたいが…。
「どの生徒かお名前をお伺いしてもいいですか?宜しければ、明日にでもお渡ししますよ…あっ、私はこの学校の保健医をしていますので怪しい者ではありません」
 学校関係者と聞いた為か、少女はほっとした顔で「あら」と表情を明るくした。
「先生だったのね」
「ええ、ええ。今日はもうお渡しするのは厳しいかもしれませんが、明日にでも生徒の名前が分かれば確認出来ますので…」
「そうねぇ…今日はもうこの時間だし、厳しいかもしれないわ。約束したのに忘れたのかしらね」
 彼女は可愛らしく頰をぷくりと膨らませた。その表情ですら非常に初々しく見えてくる。
「まぁ、急用が出来たのかもしれませんからね。宜しければお相手のお名前をお伺いしても?」
「有難う。えっと、名前はリシェっていうの。見た目が女の子みたいだからすぐに分かると思うわ」
「り、リシェ!?…リシェですか」
 突然出てきた最愛の相手の名前に、ロシュは目を丸くして驚く。まさか同じ年頃の異性からも慕われているとは思いもしなかったようだ。
「あら、ご存知?」
「ええ、ええ…あの子は非常に目立つ生徒ですからね。あの子でしたら私も良く知っていますよ」
「それなら良かったわ…私はもう時間だからお願いしてもいいかしら…誰からって聞かれたら、リゼラからって言って貰えれば。多分あの子もこのケーキの箱を見れば思い出すとは思うけど…」
 なるほど…とロシュはリゼラから箱を受け取りながら不意に思い出した。
 今日はクリスマスか、と。
「手作りのケーキですか?それは大切にお渡ししないと」
 まさかここでも恋路のライバルが出現してしまうとは。
 ラスだけでもいっぱいいっぱいなのに。
 謎に恋の橋渡しのような事になってしまうとはと複雑な気持ちになりながら、ロシュはリゼラに微笑み返す。
「じゃあ、お願いします」
 リゼラはぺこりと頭を下げた。
「はい。お任せ下さい」
 とりあえず目的を果たせた為か、リゼラは安心した様子でロシュに礼を告げてこの場から去っていった。
「………」
 私も帰るか…。
 受け取ったケーキの箱を手にしながら、ロシュも自宅への帰路を辿っていった。

 可愛らしい恋のライバルが手渡してきた箱の中身が気になり、自宅マンションに戻ったロシュはそれとなく中を確認していた。流石に下品な行為だと自分でも思うが、やはり気になってしまう。
 綺麗にデコレーションされたケーキなのだろう。
 そっと箱の端から覗き込んでみると、茶系のショートケーキのようなフォルムが見えてくる。チョコレートケーキか何かかな、と思っていたその時。
 …どうしてタバスコの香りがするのだろう…。
 こういうタイプのケーキなのかな、と思ったが甘いケーキなのにタバスコ臭がするとはあまり聞いた事が無い。
 これをリシェが食べるのか?と疑問を感じたが、タバスコに続いてワサビの香りが追撃してきた。この段階でおかしいのだから、味は一体どんな事になるのだろう。
「う…こ、これはどうかと思うけども…」
 これを口にして大丈夫なのかと思う。
 リシェの胃袋が心配になった。これは流石に渡せるレベルでは無いのではないかと。
 こうなれば、ケーキの味が気になってくる。色んな刺激臭を漂わせている段階でお察しな気もしてくるが。
 …愛するリシェには後程違うケーキを入れ替えて渡しておこう。

 数日後。
「あっれ…ロシュ先生、まだ休みなんだ」
 保健室の前を通過する際に、リシェは他の生徒がぼやいているのを耳にする。
「これで五日目だっけ。入院してるらしいぞ」
「まじでー?何か病気かな」
 …あの人はずっと居ないのか。知らんけど。
 彼らの話を聞きながら、リシェは健康に気を使っている人でもこうなる時があるんだな…とまるで他人事のように考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい
BL
腐男子である牧野ひろは、ある日コンビニ帰りの事故で命を落としてしまう。 しかし次に目を覚ますと――そこは、生前夢中になっていた学園BLゲームの世界。 転生した先は、主人公の“最初の友達”として登場する脇役キャラ・アリエス。 恋愛の当事者ではなく安全圏のはず……だったのに、なぜか攻略対象たちの視線は主人公ではなく自分に向かっていて――。 脇役であるはずの彼が、気づけば物語の中心に巻き込まれていく。 これは、予定外の転生から始まる波乱万丈な学園生活の物語。 ⸻ 脇役くん総受け作品。 地雷の方はご注意ください。 随時更新中。

処理中です...