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そのじゅうご
休日の早朝
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んあっ!?と口を開いたままでリシェは飛び起きた。
休日の早朝で、アルバイトに行く為に準備していたラスはいきなりむくりと起き上がってきたリシェに驚く。
「わ!!び、びっくりしたぁ。どうしたんですか先輩。早起きですねえ」
寝ぼけ眼で目覚まし時計を見ると、まだ朝の六時だった。
リシェはくるりと準備中のラスに目を向けると、まだ覚醒していないのか「どこに行くんだ?まだ学校は早いぞ」と言う。
ラスはふふっと微笑みながら彼のベッドに近付き、色んな方向に飛んでいる寝癖頭を撫でた。
「今日は休みですよ、先輩。これからバイトなんです」
「ほ…そうか…休みだったのか」
ラスが休みの早朝からバイトに出掛けて行くのは知っていた。
「珍しいですね、こんなに朝早くから目が覚めるとか」
いつもの休日だと、午前中はひたすら惰眠を貪っているタイプのリシェ。まさかいきなり起きてくるとは思わなかったようだ。
ううんと唸りながら、ようやく頭がしっかりしてきたリシェは変な夢を見ていた気がするとだけ言った。
変な夢、とラスはきょとんとした。
そこまでは何ら珍しくは無いだろう。誰でも見るものだ。
「へえ。その夢は覚えてますか?」
ベッドの縁に腰を掛け、ラスは優しくリシェに問う。
「何だったかな…物凄く不毛な会話を延々としていたような気がする。何の会話だったっけ…」
頭がしっかり冴えて来る程、夢の中の世界から遠ざかって行く。
しばらく考えた後、リシェは顔を上げながら忘れた、とだけ返した。
「そうですかぁ。でもまぁ、夢ってそんなものですよ。俺もどうでもいいような夢とか見ますからね。どうせなら先輩が甘えてくる夢とか見たいですもん」
「お前は散々人様にベタベタしてきておいてまだ足りないっていうのか」
ようやく意識がはっきりしてきたのか、寝ぼけている表情から普通の状態に戻ったようだ。完全に目が覚めたらしく、軽くあくびをしながら被っていた布団を捲る。
すると、ラスはここぞとばかりに両手を大きく広げた。
「さ、先輩」
「あ?」
満面の笑みでリシェに向き合い、まるで日課だと言わんばかりに「補充させて下さい」と言い出す。
リシェはやはりうんざりした様子で彼を見上げた。
「何の補充だ」
「補充っていうか、充電でもいいです。先輩をぎゅううっと抱き締める事で俺はバイト頑張れると思いますぅ」
彼は目を閉じ、まるで歌うかのように抱き締めさせてくれと訴えていた。
「鬱陶しい…」
俺は充電器ではないぞとリシェは呆れてしまう。ここまで面倒なタイプもそうそう居ないだろう。
「そんな事言わずに!ちょっとだけ!ちょっとだけでいいですからぁ!ほら、前にも言ったじゃないですか。ハグの効果はストレス解消になるって」
リシェは一緒にベッドに入れていたクマのぬいぐるみを引っ張ると、「ほら」とラスに突き出した。非常に柔らかくモフモフしたぬいぐるみが彼の腕の中に収納される。
「んんんんんん!!」
もふう、と抱き潰す。
しかも物凄く抱き心地が良かった。良く手入れされているのか、柔軟剤の香りも漂ってきた。
抱き心地はとても良いのだが、これは違う。
リシェじゃないと判断してがばりと顔を上げた。
「先輩、これぬいぐるみじゃないですか!」
「そうだ。ぬいぐるみだ。別に俺じゃなくてもいいだろう?」
そういう問題じゃないですよ!と言いかけるが。
そのぬいぐるみを見下ろすと、ラスはまたぎゅうっと抱き締めた。
「!?…何だお前?どうしたんだ」
気が変わったのだろうか。ひっきりなしにそのぬいぐるみを抱き締めているラスを見ながら、リシェは不思議そうに首を傾げた。
「先輩の匂いがするぅ…!!」
そんな彼の言葉に。
リシェは戦慄を覚えた。何故かとても不愉快な気分に陥ってしまう。
「ラス」
「はい!」
テンションが酷く下がるリシェとは逆に、ラスは嬉しそうな様子でリシェの顔を見た。
「早くバイトに行け。一刻も早く行け。この部屋から出ろ」
これ以上変な行動をして欲しくない。
「ええええ…そ、そんな。先輩」
とりあえず彼をここから出したくて仕方ないリシェは、なかなか出て行かない彼に対し早く行ってこい!!と怒鳴っていた。
休日の早朝で、アルバイトに行く為に準備していたラスはいきなりむくりと起き上がってきたリシェに驚く。
「わ!!び、びっくりしたぁ。どうしたんですか先輩。早起きですねえ」
寝ぼけ眼で目覚まし時計を見ると、まだ朝の六時だった。
リシェはくるりと準備中のラスに目を向けると、まだ覚醒していないのか「どこに行くんだ?まだ学校は早いぞ」と言う。
ラスはふふっと微笑みながら彼のベッドに近付き、色んな方向に飛んでいる寝癖頭を撫でた。
「今日は休みですよ、先輩。これからバイトなんです」
「ほ…そうか…休みだったのか」
ラスが休みの早朝からバイトに出掛けて行くのは知っていた。
「珍しいですね、こんなに朝早くから目が覚めるとか」
いつもの休日だと、午前中はひたすら惰眠を貪っているタイプのリシェ。まさかいきなり起きてくるとは思わなかったようだ。
ううんと唸りながら、ようやく頭がしっかりしてきたリシェは変な夢を見ていた気がするとだけ言った。
変な夢、とラスはきょとんとした。
そこまでは何ら珍しくは無いだろう。誰でも見るものだ。
「へえ。その夢は覚えてますか?」
ベッドの縁に腰を掛け、ラスは優しくリシェに問う。
「何だったかな…物凄く不毛な会話を延々としていたような気がする。何の会話だったっけ…」
頭がしっかり冴えて来る程、夢の中の世界から遠ざかって行く。
しばらく考えた後、リシェは顔を上げながら忘れた、とだけ返した。
「そうですかぁ。でもまぁ、夢ってそんなものですよ。俺もどうでもいいような夢とか見ますからね。どうせなら先輩が甘えてくる夢とか見たいですもん」
「お前は散々人様にベタベタしてきておいてまだ足りないっていうのか」
ようやく意識がはっきりしてきたのか、寝ぼけている表情から普通の状態に戻ったようだ。完全に目が覚めたらしく、軽くあくびをしながら被っていた布団を捲る。
すると、ラスはここぞとばかりに両手を大きく広げた。
「さ、先輩」
「あ?」
満面の笑みでリシェに向き合い、まるで日課だと言わんばかりに「補充させて下さい」と言い出す。
リシェはやはりうんざりした様子で彼を見上げた。
「何の補充だ」
「補充っていうか、充電でもいいです。先輩をぎゅううっと抱き締める事で俺はバイト頑張れると思いますぅ」
彼は目を閉じ、まるで歌うかのように抱き締めさせてくれと訴えていた。
「鬱陶しい…」
俺は充電器ではないぞとリシェは呆れてしまう。ここまで面倒なタイプもそうそう居ないだろう。
「そんな事言わずに!ちょっとだけ!ちょっとだけでいいですからぁ!ほら、前にも言ったじゃないですか。ハグの効果はストレス解消になるって」
リシェは一緒にベッドに入れていたクマのぬいぐるみを引っ張ると、「ほら」とラスに突き出した。非常に柔らかくモフモフしたぬいぐるみが彼の腕の中に収納される。
「んんんんんん!!」
もふう、と抱き潰す。
しかも物凄く抱き心地が良かった。良く手入れされているのか、柔軟剤の香りも漂ってきた。
抱き心地はとても良いのだが、これは違う。
リシェじゃないと判断してがばりと顔を上げた。
「先輩、これぬいぐるみじゃないですか!」
「そうだ。ぬいぐるみだ。別に俺じゃなくてもいいだろう?」
そういう問題じゃないですよ!と言いかけるが。
そのぬいぐるみを見下ろすと、ラスはまたぎゅうっと抱き締めた。
「!?…何だお前?どうしたんだ」
気が変わったのだろうか。ひっきりなしにそのぬいぐるみを抱き締めているラスを見ながら、リシェは不思議そうに首を傾げた。
「先輩の匂いがするぅ…!!」
そんな彼の言葉に。
リシェは戦慄を覚えた。何故かとても不愉快な気分に陥ってしまう。
「ラス」
「はい!」
テンションが酷く下がるリシェとは逆に、ラスは嬉しそうな様子でリシェの顔を見た。
「早くバイトに行け。一刻も早く行け。この部屋から出ろ」
これ以上変な行動をして欲しくない。
「ええええ…そ、そんな。先輩」
とりあえず彼をここから出したくて仕方ないリシェは、なかなか出て行かない彼に対し早く行ってこい!!と怒鳴っていた。
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