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そのよんじゅういち

どう思っているのか

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 はふう、とラスは本日数十回目の溜息を放っていた。
 その隣でスティレンは不愉快そうな顔を剥き出しにしながら「ちょっと」と口を開く。
「何なの、さっきからひたすら溜息ばっかり。いい加減ウザいんだけど」
 放課後のいつもの屋上に足を踏み入れる以前に、ひたすら似たような溜息の連続で流石に苛立ちを隠せない様子だ。
 リシェは全ての授業が終わると、担任のオーギュスティンに職員室に呼び出された為に遅れてこちらに来る事になっている。ラスは彼を迎えに来たが、リシェに向こうに行ってろと突き放される形でスティレンと屋上に先に来ていた。
「あんたの溜息、これで四十一回目だよ。鬱陶しい」
「数える方も凄いよ…」
「何回も何回も繰り返されれば気になってくるでしょ。何がそんなに気に食わないのさ」
 ラスは夕方の上空を見上げたままで「あー」と唸り声を放つ。地べたに座りながら暖色系の不思議な色合いの雲の流れを見守ると、これまた溜息混じりに言った。
「先輩は俺の事どう思ってるのかなーって」
 年頃の切なる想いを口から放つ。
 こちらは好きで好きでたまらないのだが、どうにも本人には伝わらない気がするようだ。かなりアプローチはしているがリシェは完全に自分をスルーしているような節がある。
 まだまだ気持ちは伝わらないのかと。
 ぼんやりと雲を眺めながら、いまいち先輩が俺をどう見てるか判断つかないんだよねと悩みを打ち明けた。
 その一方で、スティレンは自分の手鏡で自らの姿をチェックしながら普通に返す。
「リシェがあんたをどう思ってるかって?そんなの、当然ラスだと思ってるんじゃないの」
「何だよそれ…」
 脱力するようにラスはかくりと肩を落とす。
「そういう意味じゃなくてさあ!俺が俺なのは先輩だって分かってるよ。好きかどうかっていう意味で!」
 スティレンは鏡から目を離し、ラスを見ると意地悪そうに口角を上げた。
「あの馬鹿にそんな感情が沸くと思うぅ?」
 元の世界でのリシェを知らないスティレンは、向こうの世界では彼がロシュに惚れていたのも理解出来ないのだ。
 恋慕う一途な目をロシュに向けたリシェなど想像もしないだろう。
「沸くと思うよ…」
「あっは!あの根暗がぁ?てか、まだ好きなのあいつを?ほんっと一途ってか、馬鹿だねぇ」
 けらけらと笑われ、ラスは膨れる。
「そこまで笑わなくてもいいだろ。俺はとにかく先輩とくっつきたいんだから」
「散々べったりしてるくせにまだ足りない訳?まぁ、リシェは面倒臭くなって抵抗もしなくなったみたいだけどぉ」
「面倒とか…むしろ満更でも無いんじゃないのかって」
 最初よりは態度は軟化してきたと思うのだ。
 嫌いなら一緒の部屋には居ないだろうし、といいように考えてしまうラス。
「何なら今来たら聞けばぁ?」
 どんな返事が来てもショック受けなきゃいいけど、と髪を指先でくるくるさせながらスティレンは嫌味たっぷりに言った。
 ぐぬぬ、とラスが返す言葉を詰まらせているとようやくリシェが屋上に姿を見せてくる。
「居たか」
「先輩♡」
「空気を読んで今来たの?リシェ。ラスが聞きたい事があるんだってさ」
 リシェはきょとんとした顔をしてラスに目を向ける。
「何だ?」
 いつもの様子のリシェ。
「先輩」
「?」
「先輩は俺の事をどう思ってるんですか!?」
 意を決したようにラスは両目をぎゅっと閉じながら訴えるように叫んだ。好きなのかそうでないのか、はっきり聞きたい。
 リシェは眉を顰めると、彼の隣に居るスティレンに目を向ける。
「さっきから溜息ばっかりでウザいのさ。リシェが自分をどう思ってるのかって」
 覚悟を決めたように何かを願うようなラス。
 リシェは首を傾げると、眉を寄せたままで口を開いた。
「どうって…ラスだと思ってる」
 丸っきりスティレンと同じ事を言うリシェに、ラスはかくりと脱力した。天然な発言過ぎやしないかと。
「ちがっ…違う、そうじゃなくて!」
 慌てるラス。スティレンは「ほらぁ」と何故かドヤ顔で笑う。
「こいつに恋愛感情なんて期待しちゃいけないのさ、鈍いし暗いし」
「先輩、俺はめちゃくちゃ好きなのに!!」
 今まで散々アピールしてきたじゃないか、と涙目になるラスに、スティレンは意地悪く残念だったねぇと小悪魔ばりに小突いていた。
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