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そのよんじゅうさん

久々ログイン

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 またもや顔を合わせたくない人間と遭遇してしまった。
 ノーチェは目の前に居る下級生を見て反射的に舌打ちした。その一方で、向かい合わせで立ち塞がるリシェも相手の反応を見て嫌な気分に陥る。
 何故彼は人の顔を見るなり分かりやすい顔をするのかと。
 むむっとした表情でリシェはやや背の高いノーチェを見上げると、「何だそれは」と口を開いた。
「人の顔を見るなり思いっきり嫌そうな顔をするのをやめろ」
 先輩に対する態度では無い事にノーチェは苛立ってしまう。今に始まった事では無いが、偉そうに命令されると流石にムッとしてしまう。
 鼻息がつい荒くなりそうなのを我慢しながら、ノーチェは「はあ?」と眉を寄せて嘲笑混じりに言った。
「そりゃあ、あんたがそうさせてきたんだから仕方無くない?」
 一方的に火花を散らされているリシェにはたまったものではない。ノーチェを見上げたまま、俺が?と眉を寄せる。
 普通通りに生活しているのに文句を言われる筋合いは無い。
 むしろノーチェの方が一方的にこちらに言い掛かりを付けているのではないだろうかと思う。
「じゃあ俺を見なければいいんじゃないか?」
 いちいち干渉してくるのだから、こちらには構わなければいいのにとリシェは正論を述べた。それすらもノーチェには生意気に思えるようで、イラっとした様子を見せながら「は?」と返事をする。
「ラスと一緒に居る限りオマケであんたが着いてくるんだから避けようが無いじゃないか!」
「オマケ…」
「本当に鬱陶しい!同じ部屋に居るのは分かったけど、うろうろチラつかないで欲しいもんだよ!」
 そんな事を言われてもリシェは困る。
 むしろこちらにラスが勝手にくっついて来るのだから。
「じゃあ持って帰ってくれよ」
 元々単独部屋の予定だったのだ。それを強引にラスが入り込んできただけの話。
「それが出来れば何も文句は無いんだよ、馬鹿!!」
「じゃあどうする事も出来ない。諦めろ」
 次第にノーチェと話をするのが面倒になり、リシェは捨て鉢に言った。早く帰れる予定なのに、何故こうも面倒な相手に遭遇してしまうのだろうか。
 久々にゲームでもやろうと思っていたのに。
「あぁ、本当生意気なガキだよ!その態度少しは直した方がいいんじゃないの!」
「あんたがいきなり食ってかかってくるから俺も相応の態度をしているんだ。人にせいにするな」
「あー!ムッカつく!!帰ろ帰ろ!!」
 ノーチェはぷんすかと怒りながら、自分の寮部屋に向かって歩き出す。その後姿を何だあいつ、と怪訝そうに見届けるリシェ。
 黙って帰ればいいのに、と思ったが声に出さないようにした。

 今日は時間があるからちょっとゲームが出来るぞ、と部屋に戻って片付けを済ませた後、リシェはわくわくしながらゲームを起動させる。ログインボタンを押し、画面を開くと同時にチャット画面に文字が飛び込んできた。

赤フン『りしぇ!!』
赤フン『久し振りじゃん!!』

 リシェは目を見開き、久し振りに会ったゲームの友達からのメッセージに目を輝かせる。久し振り過ぎて忘れ去られているのかもしれないと思っていただけに、嬉しいメッセージだった。
 こちらもメッセージを急いで返す。

りしぇ『赤フン!良かった、忘れられたかもしれないって思ってた』
赤フン『俺もたまにしかインしてなかったけど、なかなかりしぇが来ないから寂しかったよ!』
りしぇ『なかなかゲーム出来なくて…というか、装備が格好良くなったなぁ』
赤フン『ちょっとずつ進めてたからね!余裕あるなら一緒にレベ上げしていこうよ』
りしぇ『いいのか?』
赤フン『勿論だよ!積もる話もあるからさぁ』

 懐かしいゲーム画面を見ながら、リシェは目を輝かせて再会した赤フンとの会話を楽しむ。またゆっくりゲームしていこうかなと思いながら。
 順調にレベル上げやクエストを進めて行くと、ラスが部屋に戻って来た。彼は居残りでやる事があった為にリシェに先に部屋に戻っていいですよと言っていたので、帰寮が遅くなったのだ。
 戻るなり飛び込んできた光景に、ラスは「あれ」と声を掛ける。
「先輩、珍しい。久し振りにゲームですか?」
 楽しそうに画面を見ているリシェは、「うん」と返す。
「久し振りにインしたら赤フンが声かけてきてくれた!」
 にこやかな表情でそう言うリシェ。
「そ…そう、良かったですね…赤フンがねぇ…」
 彼の正体を知っているラスは、複雑そうな面持ちで夢中になるリシェを見つめていた。
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