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そのよんじゅうご
将来の夢
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将来何になりたいか決めてる?と唐突にスティレンはリシェに問う。
授業の合間の休み時間、次の授業の用意をしているリシェはいきなりの質問に首を傾げた。
「何だいきなり」
スティレンはリシェの前の席に腰をどっかりと落としながら、いつものようにほっそりとした足を組み鏡で自分の顔のチェックを始めた。
「ほら、そういう時期じゃない。昨日買ってきた雑誌を読みながら思ったんだよね。みんなの将来設計とかそういう進路のやつ」
「………」
特に何も考えていなかったリシェは、無言でシャーペンの芯を新しい物に変えていた。
「そういうお前は何がしたいんだ?」
「え~?俺ぇ~?どうしよっかなぁって考えてる最中ー」
「何か腹立つなその言い方」
勿体ぶったようなニュアンスがやけにリシェに引っかかったらしい。
「どうせ欲が深いから色々考えてるんだろ。俺は別に何もまだ考えていないからな」
考え無しの従兄弟を、スティレンは若干見下すような目で見ると「危機感ってものが無いねえ」と吐き捨てる。
「俺はねぇ、色々考えてるよ。俺みたいな見目麗しいタイプはさ、華やかな場所で輝くのが一番いいと思うのさ。モデルとか役者とかさ」
「あー」
相変わらずの自画自賛っぷり。
だがリシェは完全に慣れきっていたのでなるほど、と顔を上げる。
「いいな。お前は役者とか似合いそうだ」
「でしょ?この生まれ持った美しい才能を生かせないのは世界にとってすっごい損失だと思うの。年を重ねるにつれて更に深みの増す美形になっていくと思うんだよね。そう思わない、リシェ?」
リシェは別にその美貌の事について言っている訳では無かった。
次の授業の用意を済ませ、リシェは「飲み物を買ってくる」とおもむろに立ち上がる。
「俺にも買ってきて。お茶がいい」
ついでに買ってこいというスティレンに向けて、リシェは手を差し出した。その手を見下ろすと、眉を寄せて「何?」と問う。
「買ってきてやるから代金よこせ」
「は?」
「なら俺は自分のだけ買ってくる」
「性格悪っ!!そういう時は何も言わずに買って来いっての!」
「ならいい。自分のだけ買ってくる」
そう言って席を離れようとするリシェに向かって、スティレンは「分かったよ!!」と代金を渡した。
面倒な従兄弟と一緒に居る事が長くなってくるにつれ、リシェも扱いが分かって来たようだ。
絶対に理不尽な要求を聞かないという知識を身に付けたリシェは、すぐに自分の分と頼まれた分を買って戻ってくる。
「ほら、買ってきてやったぞ」
「ありがと。…もう、ちゃんと後で支払うつもりだったのにさ」
「そう言って絶対払いそうにないからな」
再び座席に座ると、リシェはお茶が入ったペットボトルの栓を開けた。
「思ったんだ」
ぐいっと一口飲んだ後、リシェはスティレンに言う。
「お前はモデルよりも役者がいいんじゃないか」
「そ…そ~お?そう思う?」
スティレンはふわふわな髪を弄りながらやけに嬉しそうに言った。
「やっぱり俺の美貌を自由に生かせるのって動き回れる役者とかがいいのかな?」
いずれにしろ大変な仕事なのだろうが、彼の場合は外見重視過ぎてあまり内情を知ろうと思わなそうだ。蓋を閉めながらリシェは憂いを持った瞳でぽそりと続ける。
「お前の性格だと役者向きだと思うぞ。外見で他人を欺きそうだからな。セリフとか覚えるのは相当大変だろうけど」
無表情のままこちらを下げてくるリシェに、スティレンは「余計な一言があるねえ!」と怒り出した。
「お前は何かしら余計な事を入れないと駄目なの!?」
食ってかかってくるスティレンに、リシェは困った顔で返す。
「いや、素直に言ったまでだし…イメージ的に意地悪な役柄とか凄い似合いそうだと思って」
「俺レベルなら主役張れるでしょ!」
相当な自信があるようだが、完全に嫌味ったらしい印象しかなく付き合いの長いリシェにはそれは流石にありえないと思うようだ。
はぁ、と首を振った後で非情な言葉を返した。
「いや…お前は絶対主役より脇役の方が向いてるよ…」
絶対脇役の嫌なタイプの性格で出た方が光る、とリシェは言う。
あまりにも冷酷な発言に、スティレンは「えぇ…」と珍しく弱気な表情をしていた。
授業の合間の休み時間、次の授業の用意をしているリシェはいきなりの質問に首を傾げた。
「何だいきなり」
スティレンはリシェの前の席に腰をどっかりと落としながら、いつものようにほっそりとした足を組み鏡で自分の顔のチェックを始めた。
「ほら、そういう時期じゃない。昨日買ってきた雑誌を読みながら思ったんだよね。みんなの将来設計とかそういう進路のやつ」
「………」
特に何も考えていなかったリシェは、無言でシャーペンの芯を新しい物に変えていた。
「そういうお前は何がしたいんだ?」
「え~?俺ぇ~?どうしよっかなぁって考えてる最中ー」
「何か腹立つなその言い方」
勿体ぶったようなニュアンスがやけにリシェに引っかかったらしい。
「どうせ欲が深いから色々考えてるんだろ。俺は別に何もまだ考えていないからな」
考え無しの従兄弟を、スティレンは若干見下すような目で見ると「危機感ってものが無いねえ」と吐き捨てる。
「俺はねぇ、色々考えてるよ。俺みたいな見目麗しいタイプはさ、華やかな場所で輝くのが一番いいと思うのさ。モデルとか役者とかさ」
「あー」
相変わらずの自画自賛っぷり。
だがリシェは完全に慣れきっていたのでなるほど、と顔を上げる。
「いいな。お前は役者とか似合いそうだ」
「でしょ?この生まれ持った美しい才能を生かせないのは世界にとってすっごい損失だと思うの。年を重ねるにつれて更に深みの増す美形になっていくと思うんだよね。そう思わない、リシェ?」
リシェは別にその美貌の事について言っている訳では無かった。
次の授業の用意を済ませ、リシェは「飲み物を買ってくる」とおもむろに立ち上がる。
「俺にも買ってきて。お茶がいい」
ついでに買ってこいというスティレンに向けて、リシェは手を差し出した。その手を見下ろすと、眉を寄せて「何?」と問う。
「買ってきてやるから代金よこせ」
「は?」
「なら俺は自分のだけ買ってくる」
「性格悪っ!!そういう時は何も言わずに買って来いっての!」
「ならいい。自分のだけ買ってくる」
そう言って席を離れようとするリシェに向かって、スティレンは「分かったよ!!」と代金を渡した。
面倒な従兄弟と一緒に居る事が長くなってくるにつれ、リシェも扱いが分かって来たようだ。
絶対に理不尽な要求を聞かないという知識を身に付けたリシェは、すぐに自分の分と頼まれた分を買って戻ってくる。
「ほら、買ってきてやったぞ」
「ありがと。…もう、ちゃんと後で支払うつもりだったのにさ」
「そう言って絶対払いそうにないからな」
再び座席に座ると、リシェはお茶が入ったペットボトルの栓を開けた。
「思ったんだ」
ぐいっと一口飲んだ後、リシェはスティレンに言う。
「お前はモデルよりも役者がいいんじゃないか」
「そ…そ~お?そう思う?」
スティレンはふわふわな髪を弄りながらやけに嬉しそうに言った。
「やっぱり俺の美貌を自由に生かせるのって動き回れる役者とかがいいのかな?」
いずれにしろ大変な仕事なのだろうが、彼の場合は外見重視過ぎてあまり内情を知ろうと思わなそうだ。蓋を閉めながらリシェは憂いを持った瞳でぽそりと続ける。
「お前の性格だと役者向きだと思うぞ。外見で他人を欺きそうだからな。セリフとか覚えるのは相当大変だろうけど」
無表情のままこちらを下げてくるリシェに、スティレンは「余計な一言があるねえ!」と怒り出した。
「お前は何かしら余計な事を入れないと駄目なの!?」
食ってかかってくるスティレンに、リシェは困った顔で返す。
「いや、素直に言ったまでだし…イメージ的に意地悪な役柄とか凄い似合いそうだと思って」
「俺レベルなら主役張れるでしょ!」
相当な自信があるようだが、完全に嫌味ったらしい印象しかなく付き合いの長いリシェにはそれは流石にありえないと思うようだ。
はぁ、と首を振った後で非情な言葉を返した。
「いや…お前は絶対主役より脇役の方が向いてるよ…」
絶対脇役の嫌なタイプの性格で出た方が光る、とリシェは言う。
あまりにも冷酷な発言に、スティレンは「えぇ…」と珍しく弱気な表情をしていた。
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