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そのろくじゅうさん

酷似

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「…という事があったんですよ」
 ラスはロシュと遭遇した時の事をリシェに説明していた。
 しかしリシェは興味無さそうに冷たいお茶を飲みながら「そうか」とだけ答える。
「あんたはやけにロシュ先生を敵視するよね、ラス」
 スティレンもまた、リシェ同様興味無さげにひたすら自撮りばかりしてはカメラチェックをしていた。何回か繰り返しているが、納得のいかない仕上がりらしく何度も消しては撮り続ける。
 よく飽きないな、とリシェは呆れていた。
 ラスは「そりゃそうでしょ」と鼻息荒く答えた。
「あの人は隙あらば先輩を襲おうと…いや、奪おうとしているんだから。俺が全力で先輩を守ってやらないと」
 そう言いながら、中性的でいけ好かないロシュの得意気な顔を思い出してギリギリと歯軋りした。変態なくせに美形なのが余計気に入らないらしい。
 あそこまで整っていて、誰からも羨ましがられて欲しいものは何でも手に入りそうな環境に居るくせに、欲張ってリシェまで欲しがるとは、何という贅沢な男なのだろうかと腹立しくなってくる。
 スティレンは思い出し怒りをするラスを見た後、無表情でお茶を啜るリシェに目を向けると「ラス」と声をかけた。
「ん?」
 呼び掛けに反応するラスは、きょとんとしてスティレンを見た。
「何だかさぁ。あんたのその怒りっぷりっていうか、歯軋りするような感じがさぁ…リシェに似てきたよね」
「は????」
 従兄弟の発言に、すぐにリシェは反応した。
「似ているだと」
 そう言いながらリシェもラスに目を向ける。そして再び「何言ってるんだ」と苛々しながら言った。
「こいつと俺が似てるって?どこをどうやったら似てるっていうんだ」
 そう言い、ギリギリと苛立ちを剥き出しにした。
 似ていると言われたのが余程嫌だったらしい。
 それでもスティレンは「ほらぁ」と自撮りの手を止め、嫌味ったらしくそのあたりを突いた。
「一緒に居ると、相手に良く似てくるっていうじゃない。そのムカつき方もラスと同じだし。同居してると表情まで似てくるんだねぇ」
「何だと」
 めちゃくちゃ嫌がる様子のリシェだったが、ラスはスティレンの言葉に満更でも無い様子で目を輝かせた。
「ほ、本当!?俺、先輩に似てきた!?」
 何かを勘違いしているのか、彼は表情を燦々と輝かせる。先程とは全く大違いな顔だ。余程嬉しいらしく、リシェにどうですか!?と聞く始末。
 リシェは不愉快そうな顔のまま。
「何がそんなに嬉しいのか。俺には全く分からない」
「俺は先輩と一緒がいいんですよ!」
 完全に話が食い違っている。
 何処までもおめでたい奴だね、とスティレンは苦笑した。その位リシェが好きなのだろう。
「だってもう…好きで好きでたまらないんだもん…少しでも先輩に近付けたらいいなって思ってるしぃ…先輩だって俺と一緒だと楽しかったりするでしょ」
 指と指を交差させたり付き合わせたりと、女々しい様相を見せながらラスはリシェに訴えかける。
「いいや、全然」
 情熱たっぷりのラスと比べて、リシェは非常に冷たかった。
「そもそもだ。お前、怒りの顔が似ているって言われてるのに何で嬉しいと思うんだ?俺はもの凄く嫌で不愉快だぞ。万が一同じ事で怒ってたら、俺達は丸っ切り同じ表情をしているんだ、二人並んで。そう考えるとめちゃくちゃ嫌じゃないか」
 そんな状況には滅多にならないとは思うが、そうなれば非常に滑稽だろう。想像したスティレンは一瞬「ふっ」と噴き出しかけてしまった。
 ちょっと見てみたい。
「二人で並んで歯軋りしてるのって凄いおかしいよね…」
 言われてみれば、同じようにギリギリ歯軋りするのは変かもしれない。
「そ、そんな…俺はめちゃくちゃ嬉しいのにさぁ…」
 そこまで言われても、ラスは納得いかない様子だ。
 怒りの表情がお揃いと言われて何が嬉しいものか、とリシェはそっぽを向いていた。
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