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真・らぶ・CAL・てっと 九
しおりを挟む何とか治を落ち着かせ、帰ろうとして治の部屋を出た留美。
入り口に向かった彼女は廊下で、由香の後輩・飛騨野茗と遭遇した。
「あれ? 水瀬センパイ? なんでウチに?」
一瞬、不法侵入かな?と訝しむ茗。 だがすぐに思い直す。
尊敬する由香センパイの大事な人とやらがそんなことをするはずがない。
「茗ちゃん? ウチ?」
「ええ、ここはあたしのウチですけど。 あ、もしかして」
納得顔で尋ねる。
「治くんのことで?」
「え? ええ、そうだけど」
留美が肯定すると、今度は深々と頭をさげた。
「お願いですから見逃してやってくれませんか? 治くん、半年も前から育嶋センパイのことを」
茗の内部での展開が早過ぎて留美には何がなんだか判らない。
さすがは女子バス期待のエースの彼女、素早い状況判断だ。
しかしこの場合、自分だけ納得されても留美は困るのだ。
「ちょっと落ちついて話しましょ? まずあたしは」
留美は自分が、うずくまっていた治を助け起こしてこの家まで付き添ってきたことを話した。
「はー、そうだったんですか。 治くんを助けていただいて、ありがとうごさいました!」
ハキハキと元気な返事、体育会系丸出しであった。
留美は、あまり馴染みがなく、ついていけないノリに少しばかり怯みながらも
「で、治クンの家にどうして茗ちゃんが?」
と訊ねると
「あ、ここあたしのウチでもあるんです」
「え? どういうこと?」
珍しいことに、留美は振り回されていた。
少し余談になるが。
北条家と飛騨野家は隣りあっている。
いや、そう表現するのは正確ではない。 ちょっと変わった造りをしているのだ。
それは言わば『地続きの構造になっている』のだった。
外に出ることなくお互いに行き来ができたのである。
ややこしいことに、玄関は別でカギもそうだが、裏口は一つだった。
そして、治と茗は、登校はともかく下校の際は裏口を使う習慣になってしまっていた。
そのほうが学校から近かったためである。
午前は違うが、午後になると、ある理由で大回りしなければ玄関にたどり着けないのだ。
病弱な治はもちろん、茗だって部活で疲れて帰るときに、3倍の道のりを歩くのはイヤである。
だから、帰ってくるときは裏口からになるというわけだ。
治にこれ以上ストレスを与えないために、留美が急いで北条家から出て行こうとした時、茗と鉢合わせをしたのはその為であった。
断っておくが、物理的にぶつかったというわけではない、念のため。
「繋がってるんですよ、ウチと治くんのウチが」
明快と言うか単純と言うか。
「親が姉妹なんで」
なるほど、と留美にもようやく謎が解けた。
「失礼しました。 そしてお疲れ様でした」
「ちょっと待って?」
「はいっ?」
直立不動の態勢になる茗。 留美は構わず、軽く苦笑しつつも
「さっき言ったでしょ? 『見逃してやってくれ』それに『半年も前から』って? あれはどういう意味?」
誤魔化さないのか誤魔化せないのか、それとも何も考えずに発言しているのか、茗はあっさりと答えた。
「いえ、てっきり治くんの想いを知った水瀬センパイがセッキョー、でなくイジメ、でなく、その文句を言いに来たのかと」
茗が、そして恐らくは治もがそんなことを恐れていた事に留美は心底驚き、呆れていた。
「あたし、そんなこと考えたこともないよ?」
「え、そうなんですか?」
もうそろそろお気づきのことかもしれないが、留美には『一般的な独占欲』というものがほとんどない。
だから3人で特殊な三角関係カップルズ―ラブ・トライアングル―という交際形態が維持できているのである。
彼女とは別の、一般的な独占欲のある人間が彼女の位置にいたとしたら、1年どころか3ヶ月で空中分解は必至だろう。
それも『飽くまでそうなることができてのこと』なので、最初からそんなことにはならない可能性の方が限りなく高いのは間違いない。
なお、『一般的な独占欲がほとんどない』のは『嫉妬心がない』ということではない。
『佑が自分と由香以外の、由香が佑と自分以外の相手とそういう関係になったら』と思っただけで血が逆流するような気がする留美なのだ。
つまり正確に言えば『限定的に独占欲がなくなり、嫉妬もしない』ということになる。
「『半年も前から』ってのは、つまり佑のことを半年前から好きだった……と、こういうこと?」
「そうなるですね」
留美は首をかしげた。 そういうことなら、なぜ治は自分や由香の事を知らないのか? そして自分たちもどうして治に気づかなかったのか?
少し考えていた留美はあることに思い当たった。
確認のため、茗に問いただす。
「あなたと治クンは、去年まで萬本の中等部にいたんだったわね?」
「はいです」
そういうことか、と留美は独りごちた。
つまり通学路と治の性格の故だということなのだ。
この家から中等部へ行くとすると、佑の登校経路と十何メートルかは一致するが、留美や由香のそれとは遠回りをしない限り接点すらない。
加えて、治とは付き合いが浅い……どころか出逢ったばかりの留美でも、引っ込み思案で内気でシャイな性格は感じ取れる。
以上から推理するに、治は通学路で佑を見かけるだけである程度満足し、アプローチしてくるような度胸がなかったのだろう。
それなら自分や由香が、更には当事者の佑ですら気がついていないのは無理もない。
これ以上の仮説は、今のところ留美には思い当たらなかった。
「あたし、これで失礼するね? 治クンには『お大事に』と伝えてくれるかな?』
安心してくれていいからね、ともだけど、あの調子だとちょっとね、とこれは心の中で呟き、頭を下げている茗に
「由香センパイによろしくッス」
と言われるのに苦笑しながら留美は北条・飛騨野家を後にした。
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