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真・らぶ・CAL・てっと 十六
しおりを挟む「だれ?」
佑は誰何《すいか》した。
こういう時だから、当然母だろうが、一応念のためにである。
「母さん?」
ドアを開けるとそこにいたのは冴英だった。
「え?」
佑は奇妙に思った。 いつもならノックをするような妹ではないのだ。
「あの、お客さんにジュースを」
こんなことまでするとはどういう風の吹き回しか。
しかもちゃっかり自分のグラスも持ってきている。 そこはいつも通りの冴英だ。
ちょこん、と佑の横に座り込んだ。
それが珍しいことに、図々しく感じない可愛らしい仕草でだった。
「ね、お兄ちゃん。 お友達? 紹介してくれる?」
逆らえる佑ではない。
「う、うん。 こちら」
治の方に手をやって
「クラブの後輩で北条くん」
「初めまして、北条治です」
笑顔でお辞儀をする治。 まだ少し顔は上気している。
「こちら、僕の妹で冴英」
「冴英です。 こちらこそ初めまして」
冴英も深々とお辞儀をした。
なぜこういう行動に出ているのか佑には全然わからない。 だが、なんとか当面の危機は去ったようでホッとしていた。
「お兄ちゃんは、学校ではどんな先輩ですか?」
そう尋ねる冴英の、フリルのついた白のブラウスとチェックのスカートというのは彼女の一張羅で、つまりはオシャレ着だった。
いつも彼女が好んで着る部屋着は、割とシンプルな方である。 だから、肉親なら不思議に思うのが普通なのだ。
とはいうものの、佑には、とてもそんなことを気にする精神的余裕はない。
「面倒見がよくて、とっても優しい良い先輩だよ」
「そうなんですか」
嬉しそうにニコニコしている冴英。
「お母さまに似て可愛い妹さんですね、先輩」
褒められて、冴英は佑が見たこともないような表情で含羞んでうつむいた。
「か、可愛いなんてそんなこと」
ややあって顔を上げ
「北条さん」
と呼びかける。
治は、冴英に負けず劣らず愛くるしく微笑みながら
「治くん、でいいよ、冴英ちゃん」
これはもちろん、彼女のみならず兄、つまり佑に向けての言葉でもある。
(北条、北条って……ぼくん家は、お父さんもお母さんも北条なんですよ、先輩)
その思いが、彼の顔に少し愁いを帯びさせる。
が、心の中での佑への呼びかけが『先輩』なままでは、あまり人のことは言えない。
「えっと、治くん?」
「なあに?」
相手が佑の可愛い妹なので、愛想よく尋ねかえす治。
「今日、ウチへ来たのはどうして?」
佑もそれは尋ねたいところだったが、経緯が経緯で尋ねる隙がなかったのだ。
「うん、実はね」
言葉を選んでいるらしい沈黙。 1秒ほどしてから
「先輩の……、育嶋さんのお宅の場所を教えてもらいたかったから」
「オタク?」
と怪訝な顔をするのが去年までの冴英。
今年は中学生なので、少しはボキャブラリーも増えたようである。
「どうしてうちが知りたかったの?」
佑と並び、可愛らしく首を傾げている年下の娘を見て
(仲がいいんだな……いいな、妹って)
と全然わかっていない感慨を抱く治。
彼には兄弟姉妹がおらず、従姉妹の茗が同年代の女の子である。
だが、茗はどちらかというと姉のような存在であった。
従って、年下の子にこんな近距離で接する機会は皆無に等しかったのだ。
何故なら治は、小中学校では病弱なためにいじめられるか、逆に遠巻きにされる存在だったから。
「……冴英ちゃんは先輩、いやお兄さんのことが好きなんだね?」
感じいるあまり冴英の問いにも答えず、それどころか、まるっきりあさっての方向の問いを発する。
(それはないと思う)
と心の中でさえも力なくツッコむ佑。
だから
「うん。 あたし、お兄ちゃん大好き」
という冴英の言葉に
「ええっ?」
という声も出せずに驚いた。
(ほ、北条の……、お客さんの前だから、だよね)
と、自分を納得させている兄の当惑も意に介さず、冴英は言葉を継いだ。
「で」
「ん?」
思わず治が聞き返す。
「それで、どうして家を知りたかったの?」
悪く言えばしつこい、良くいえば記憶力のある冴英の再質問に、今度は治もちゃんと答えた。
本当のことを答えたのかどうか、という疑問は残るが。
「お兄さんのご家族に、お兄さんのことを聞きたいと思って」
そう言いながら、佑に愛おしげな流し目をちらりとくれる治であった。
「お兄さんのお話とか、聞かせてくれるかな?」
「うん!」
頷く冴英の姿を見て、妹が一体どんなエピソードを語り出すのか不安になる佑。
つくづく損な性格である。
ちなみに――佑の心配は杞憂に終わった。
冴英は、兄の好きな食べ物とか、好きな本、好きなTV番組、好きな映画等など。
そして逆に、嫌いな食べ物等などを話しただけだったのである。
何故か、自分のそれも交えてだが。
で、例によって佑は、二人の会話に口を挟めなかった。
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