『真・らぶ・CAL・てっと』

倉智せーぢ

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真・らぶ・CAL・てっと 三十二

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事件から一週間ほどたって、事件以前のテンションに戻った佑はすっかり晴れ晴れとした顔つきで登校した。
とはいえ、クラスメイトほとんどは彼の変化に気づいていなかったのであるが。
より正確に言うと、そんなことに興味を抱くのはいいとこ4、5人程度で他の大多数はそんなこと知ったこっちゃないのであった。
あまり目立たない性格なのでしょうがないといえばしょうがない。
佑としても興味を持たれてやいのやいの言われるのは願い下げではある。
ちなみに興味を抱く『4、5人』というのはつまり恋人たちと親友たちだ。
「佑?」
「あ、由香? おはよう」
昨日までとうって変わってすっきりとした様子の彼氏に、なんとなくどぎまぎしてしまう由香。
「お、おはよう……」
佑が輝明と出逢って感化されたことを由香は知らないし、その結果として彼が以前より幾分自信を増したことなどは尚更である。
それに彼ときちんと接したのはしばらくぶりであったから、その変化に戸惑うなという方が無理な話だ。
そんなわけでついつい佑の顔を見つめてしまう由香だった。
「どうしたの? 僕の顔に何か付いてる?」
言うなれば『自信』が付いているわけだが、そんなことを言える由香ではない。 加えて、どういうわけで佑にそんな変化が訪れたのかわからない状況なのだから尚のこと。
「う、ううん……何もついてないけど」
ほんのり顔を赤らめる由香だった。
「ごめんね? ここのところ部活が忙しくて佑や留美と遊べなくて」
「しょうがないよ。 飛騨野さんのコーチで忙しいんでしょ?」
逆に気づかわれた由香は苦笑して
「あたしがコーチする必要はほとんどないような気もするんだけどね」
「そうなの?」
二人がプレイしている所を見たことがないので、佑は彼女たちの実力がどんなものなのかはまるで知らない。
もっとも、由香だって佑が部活で何をしているかを知らないし、留美の料理の腕がどのくらい上達しているかもわかっていない。 だから、おあいこと言えばおあいこなのであった。
「もう少ししたら時間取れるようになると思うから」
「時間取れたらピクニックに行かない?」
いつの間に来ていたのか留美がそう提案した。
「あ、留美」
二人の声がハモる。
彼女の唐突さにすっかり慣れた……というか慣れさせられた佑と由香はそれほど驚いた様子はなかった。
「あたし、お弁当作るから! 何かリクエストある?」
屈託のない笑顔は相変わらずな留美であった。


そして放課後。
佑は、1年の教室まで治を迎えに行った。
あの日から治をほっぽって悩んでいたことに負い目を感じたからである。
しかし、よく考えたら、悩んでいた原因は治と直也のせいなので、別に佑が責任を感じる必要はないのだ。
でも、そこが佑なのだった。
「北条」
佑は明るく治に声をかけた。
落ち込んだ彼の様子に気づかなかったのである。 それも当然で、自信が増したのと観察眼が鋭くなるのとの間には何ら関連性がないからだ。
「え? 先輩?」
佑の屈託のない様子に、治は少なからず戸惑った。
当たり前である。
何のきっかけもなく佑の態度が変化したとしか思えないのだ。
佑としてはきっかけがなかったわけでもないが、いちいちくどくどとそんなことを相手に知らせるようならそもそもこんな誤解をされないだろう。
「せ、先、輩……?」
「どうしたの、そんな顔して?」
にこやかに尋ねる佑。
しかしながら、治の方こそ『どうしたの?』と尋ねたいところだ。
「北条?」
優しく名を呼ばれ、治は完全にわけがわからなくなっていた。 そのため言葉も出てこなかったのだ。
彼としては、佑に見放されたと思っていたのだからしょうがない。
そして、現にここ一週間ばかりはそう考えてもおかしくない状況だったのである。
それはもちろん佑が悩み続けていたからなのだが、治はそんなことを知らない。 それどころか、佑が悩んでいる事など想像すらできないほど煮詰まっていたのだ。
神道直也もつくづく罪な男であった。 本人にその気はないのだろうが、かつて付合っていた相手の心を(間接的にせよ)ここまでかき乱すのだから。
まあ、当事者であるところの佑がもっとしっかりしていればこんなことにはならないのだが、今さらそんな事を言ってもはじまらない。
「優しくなんか、しないで……ください」
「え?」
治の口から出たのは、佑にとって完全に予想外の言葉だった。
「ぼくのこと……もう嫌いになった……んでしょう……?」
涙ぐみながら途切れ途切れに言う治。 
「ええっ?」
「なのに……そんなに優しく……残酷です……っ!」
「ほ、ほうじょ……う……?」
佑にとって治の言葉は、青天の霹靂が、寝耳に水で、呆気に取られたのだった。
要するにつまるところ結局、なにゆえ治がそんなことを言うのかまるでわからない。
タイミングがタイミングだったために
『先輩に見捨てられた』
と思い込んでいる、などとは彼の想像力の限界を越えていたのだ。
それでも何とか
「嫌いになんかなってないよ? どうしてそう思うの?」
と言い聞かせ、聞き返せるだけ佑も成長していた。
「………………」
治はうつむいたまま押し黙っている。
「北条……」
肩を抱こうとした佑。
しかし、ここは校内で一年の教室の側で更には人目が多い。
今ここでそういう行動にでたら、明日にはどんなウワサが広まっているか想像したくない佑である。
「部室に」
行こう?と言いかけて止めた。
当然だが、部室にはS・Cサイエンス・クラブの部員がいるわけで、込み入った話をするのに相応しい場所ではないと気づいたのである。
「い、いや、僕の家に来ない? なんか誤解があるみたいだから話し合おうよ、ね?」
優しく、飽くまでも優しく接してくれる佑に、かえって心を抉られる思いの治だった。
が、一縷の望みをかけてコクン、と頷き彼に従ったのである。
かくて佑と治の二人は佑の家に向かった。


が、育嶋家では、もっともっと思いもよらない事態と客とが、タッグを組んで彼らを待っていたのだ。

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