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真・らぶ・CAL・てっと 六十

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そして、二人は連れ立って歩いていたが、ややあって佑らしき背中を見つけた。
見つけたのは、その背中が淋しくて哀愁ただよい、哀切だったからである。

落ち込んだ格好で歩く姿を見つけたのは留美の方だった。
「あ! あの後ろ姿って佑じゃない?」
その声に由香も目をこらす。
「あ、本当だ! 佑よ」
声を揃えて彼の背中に声をかける。
「佑~!」
そして手を振るふたりであった。
「あれ?」
しかし、肝心の佑からは反応が返ってこない。
「変ね?」
留美は苦笑して
「ユカに引っぱたかれた衝撃から立ち直ってないんだと思うよ?」
チロッと上目づかいで責めるように由香を見た。
「そ、そ、それは悪かったって本当に反省してるけど……でもでも、ともかく佑と話さないと! 謝ることもできやしないわ」
「それもそうよね。 じゃ」
と留美はダッシュ! 少し遅れて由香も続き、しかるのちに佑の身柄を確保したのである。
だが、佑の意識は未だ混濁していたようだ。 
「佑ってば!」
「聞こえないの? 佑?」
それ以上返事がなかったら、ふたりは佑の耳を広げて口をつけ、声をながし込まんばかりにしていただろう。
運良くそこまでする必要はなかった。
朦朧とした意識で二人の顔をかわるがわる見る佑。
「あ、由香……それに留美……」
ややあって現在の状況をしっかり把握した佑。 次の瞬間、ビクン!と身を強わばらせた。
「ゆ、由香……?」
平手打ちされた時の強烈な打撃の記憶がよみがえったのである。
「佑」
深刻そうな由香の表情と雰囲気を感じ、再び前のごとくに平手打ちを見舞われるかと恐れた佑。 だがそれでも勇気をふりしぼり、関係修復をするべく……つまり、単刀直入にいうと『仲直り』をこころみたのである。
治の健康状態とこれからのつき合い方への懸念もあったが、「今はそれを考えているときじゃないよね……」と判断し、ひとまず心の棚に上げたのだ。

そしてその『仲直り』の方策はというと、『全面降伏の意思表示である平謝り』なのであった。
端的に言うなら土下座、である。
「ごめんなさい!」
奇しくも二人の声が重なった。
「え?」
佑と由香、二人は奇異に感じて顔を見あわせた。
「どうして佑が謝るの?」
「なんで由香が謝るの?」
ほとんど異口同音にほぼ同内容のことを言い合う二人なのだ。
仕方なしに留美は助け船を出した。 放っておくと話が迷走しそうだったからである。
「佑?」
と声をかけて注意を引いた留美は
「由香はね、誤解してたのを謝りたいみたいよ?」
と解説した。
「え、誤解?」
不思議そうな佑の声を聞いた由香。 穴があったら……いや無くても掘って入りたい心境だったが穴を掘っている場合でもない。
「ほ、本当?」
涙ぐんだ佑は由香にすがるようにして地面に膝をつき、そして、言った。
「な、なあんだ……よかった……本当によかった」
乙女なら、膝を落として涙もおとす、ついでに男も落としかねないその風情も、男の佑であってはいくらか興ざめだ。
しかし、それでも留美と由香の二人に極上の笑顔が浮かんだのだった。
そして、唐突に留美が意味深な微笑みを浮かべて二人をみた。
「うふっ」
うれしそうな様子で交互に二人を見やりつつ
「なんだかんだ言って、二人とも仲いいのよね。 あたし、妬けちゃうなぁ」
留美の視線と、少しすねたような甘えた声の響きに、あわて出す二人。
「ここここここれは」
「ち、ちちち違くて」
「はいはい、いいからいいから」
押さえて押さえて、のジェスチャーで二人をとめてから
「これからは4人で仲良くやるんだから、そんなことであわてなくていいから」
という衝撃の発言を見舞った。
「え?」
「る、留美そそそそれは」
硬直した由香と、真っ青になってあわてる佑。
しばらく、無為な、というか無駄な、というか……な時間がながれた。
「……じ、実は北条も……その、い、一緒に付き合ってくことになっちゃって」
おそるおそる伝える佑。
「え」
佑に向き直る由香は
「どういうこと!?」
と詰問し、そのときになってやっと留美は
「あ、そういえば」
と気がついた。
気がついた、と言ってもそれまで失神していたわけではない。
『由香が治のことを佑の恋人第三号だと認識していない』とということを、しっかりと認識したのである。

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