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真・らぶ・TRY・あんぐる 二十一
しおりを挟む留美の話によると、彼女の母親は夫とは別居し、今は屋台を引いているという。
ほとんど古典落語の世界なのだが、佑は落語を聞く趣味がないのでそんなことは分からない。
「なにゴチャゴチャ抜かしてやがんだこの唐変木!」
佑はまたも硬直した。
いくら近ごろは耐性がついてきたとは言え、続けさまにこのショックはかなりキツい。
「ごめんね。 ママはちょっと言葉づかいが乱暴なの」
佑以外の誰もが
「どこが『ちょっと』だ!」
とツッコミそうなほどの乱暴な口の利き方だった。
無論のこと、佑がツッコミを入れたくなかった、というわけでは、ない。
もう既に、入れる余地がまるっきりなかっただけである。
精神的に。
「気に入らねえんならさっさと出ていきゃがれ!」
自分に向かって言っているのではないことは解っているが、ついつい身をすくませる。
「ちっ……なんでえ……」
「出てけったってここは露天じゃねえか……」
文句と捨て台詞を口にしつつも、すごすごと立ち去る男たち。
何があったのかよくわからないが、ともかく、迫力だけは伝わった。
「ママ?」
彼女の憤怒の相が、愛娘を見たとたんに明るく柔和な相と変じた。
「あ、留美……元気だった?」
「うん……ママも?」
「言うまでもないわよ!?」
留美が紹介する。
「カレ、育嶋佑クン……あたしの彼氏」
「育嶋……?」
まだ迫力に気圧されている佑はおずおずと答える。
「は、はい」
「すると……ちょっと尋ねたいんだけど」
佑は嫌な予感がした。
彼のそういう予感は大概当たるのは言うまでもない。
「あんた、『英介』って親戚いないかい?」
「は?」
意味不明な表情になった佑。 だがなんとか
「『英介』なら、たぶん僕の父ですが……」
と答えた。
その途端、いきなり胸ぐらをつかまれて首を締められかけた。
「手前! 英の字の息子かい! よ」
「ママ!」
「あ、ああ……留美……ゴメンよ……ちょっと理性が跳んじまって……」
留美の制止、そして潤んだ瞳に、いくらか落ち着いた彼女の母親・留加は佑にあらためて尋ねた。
「もし……かして……お母さんは……………佑美と?」
完全に逃げ越しになりながら答える。
「は、はい……そうです」
「ごめんなさい!」
「は……い?」
「本当にごめんなさい! 佑美先輩の息子さんにこんなことしちまって」
君子ならぬ女将が豹変したことに佑は驚いたどころの騒ぎではなかった。
「昔……佑美先輩には散々お世話になって……その息子さんにこんなことしちまって……」
「本当よ、ママ! 佑クンに謝って?」
「いや、もういいよ、留美ちゃん……お母さんには充分謝ってもらったから」
留加は涙ぐんで
「……流石は佑美先輩の息子さんだねえ……」
実際のところ、そういう問題ではないのだが。
「よくないわよ! あたしは佑のお母さまにあんなに可愛がっていただいてるのに」
そんなこと言われてもその『あんなに』とはどれくらいなのか留加は知らないはずであるが、あっという間に恐縮のレベルがアップした。
「ママが恩を仇で返すような事して!」
「ご、ごめんよ留美……」
さっきの迫力はどこへやら、娘の前で小さくなる留加。
「許して欲しい?」
「あ、あったり前じゃないか! 最愛の娘に嫌われたままなんて……」
留美はにこっと笑い
「じゃあ、佑クンとのお付き合い許してくれる?」
「許すも許さないもないよ! 願ったり叶ったり滑ったり転んだり……いやそれは冗談だけど、佑美先輩にまた会えるなら、こんな嬉しいことってないよ」
「ね、佑クンのお母さまと昔何かあったの?」
「あったよ、あった! いろんなことが……」
とかなんとかいって留加は追憶モードに入ったが、この際その描写は割愛したいと思う。
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