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第1章:魔法学院入学編
第1話:最強賢者は決闘を受ける
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三歳になると、この世界のことが大分わかってきた。
赤子の頃から言葉を理解することができていたおかげで、周りの大人たちの話に耳を澄ませていた。そうすることで断片的ではあるが、いろいろとわかってくることがある。
まず俺の名前はユーヤ・ドレイクというらしい。父さんがつけてくれたと聞かされた。
ドレイク家は田舎に住む下級貴族らしい。俺はその長男として生まれたのだ。
俺の見た目は父親に似たらしく、黒髪黒目の東洋風の見た目をしている。顔は前世とは違って幾分かかっこよくなっていた。
けれど長男であって第一子というわけではない。
「ユーヤまた本を読んでいるの?」
ドレイク家の長女、セリカが俺に話しかけてくる。
すなわち俺の姉だ。
母親似の金髪。それに相応しい精緻な顔を持ち合わせている。笑顔の破壊力は凄まじいものだ。
「俺は賢者だから……」
「そう……ね」
微妙な沈黙が流れる。
というのも、この世界では生まれた時に職業が与えられる。
ジョブにはいくつか種類があるが、俺の職業は賢者だった。
LLOで実装すぐに『壊れジョブ』『チートジョブ』などと言われていた職業だ。しかし、この世界ではあまり歓迎されていないらしいということがなんとなくわかってきた。
この世界では賢者は不遇職とされていた。
初期はパラメータが低く、使える魔法も少ない。レベルが上がれば強くなっていくのだが……。
「まあ、それはそれとして! 今日は何を読んでいるの? セリカお姉ちゃんが読んであげようか?」
セリカが読書中の本を覗き込んでくる。
ふわーっとした息が俺の頬に当たる。……この世界では俺は3歳で、姉は5歳だ。しかし……なんかドキドキしてしまうな。
中身は20歳を超えているのだが……俺ってロリコンだっけ。
しかしまあ、せっかく入社した会社を宝くじが当たったからと1年で辞め、貯金を崩しながらネトゲ三昧を送っていたダメ人間でも、男は男なんだ。デレデレするのは仕方がない。
「いいよ別に」
「そんなこと言わずにさあー、見せて」
「あっ」
厚い本を無理やり取り上げられた。
セリカが本を無言で読み始める。
次第に表情が険しいものに変わっていく。
「なにこれ全然読めない。この字なんて読むの?」
「だから読まなくていいって言ったんじゃないか。セリカ姉さんは本なんて読めないから」
「私が読めないのは当然よ! こんなの読めるユーヤがおかしいの! 三歳なら三歳らしく絵本でも読んでなさいよ」
「姉さんのために読んであげようか?」
「いいえ、別にいいわ! それよりお外行ってくる。ユーヤも来る?」
「どうしようかな」
「こんなところでずっと引きこもってたらロクな大人にならないわよ。一緒に来なさい」
俺は引きこもりという単語には敏感だ。
二度も同じ過ちを繰り返したくない。
「わかった。一緒についていく」
俺はセリカに本を返してもらい、本棚に戻しておく。
『初級魔法の心得:魔力操作編』という魔法教本を読んでいたのだが、とても興味深いものだった。
☆
改めてこの世界のことを紹介しよう。
結論から言って文化や町の様子はLLOと酷似していた。
ここがゲームの世界だと言われた方が納得できる。
家を出て、クーネの町の散策に出ると、点在する家々と畑が目に飛び込んでくる。
中世ヨーロッパ風の街並みにはもう慣れたが、いつ見ても異国を訪れたような気分になる。ゲームで見慣れていたはずの景色はディスプレイに映し出されるよりも高解像度で、視点もキャラを見下ろすのではなく、自分の目で見ることができる。
やったことはないが、VRゲームはこんな感じなのかもしれない。
「セリカ姉さん、どこいくの?」
「教会かなー」
「お祈りに?」
「うん」
教会は町の高台に位置している。俺たち二人は時々話しながら道を進んでいく。
その途中に三人の少年が待ち構えていた。
「来やがったな貴族のガキども!」
「ここは通さねえ」
「うひっうひっ!」
セリカ姉さんより一回りほど大きい少年が三人。
とりあえずセリフ順に少年A、少年B、少年Cと呼ぶことにしよう。
こいつらは町の悪ガキ少年として知られている。教会への道を塞ぎ、俺たちを通せんぼしようというのだ。
「どうしてもここを通りたかったら通行料を払え! 貴族なんだから金持ってんだろ!」
少年Aが難癖をつけてきた。もちろん少年たちは通行料の徴収を認められてはいない。
「いいわ」
セリカ姉さんは涼しい顔で答える。
キッと睨んで、
「そういうことならここは通らない。お祈りは週に一回で十分だもの。それじゃあ」
「おい、待てよこのクソガキ!」
……いや、クソガキはお前らだろ。めちゃくちゃむかつくな。
「なに? どうして邪魔するわけ?」
「お前らが貴族の娘と息子だからだ! 俺は気に入らねえ」
少年Aが嫌悪感を露わにした口調で吐き捨てるように言う。
子どものくせにこういうことを言うやつは大抵親の話を聞いているものだ。こいつらの親は貴族が嫌いなのだろう。
てか、喋ってるの少年Aだけだな。他も喋れよ。
「別に気に入ってほしいわけじゃないんだけど」
「いーや、貴族の娘ってだけで弱いくせに贅沢しやがって。そういうの不公平なんだよ!」
「……!」
「はっ、言い返せねえんだな。まあ、初戦お前らは負け組の職業、姉が『聖騎士』で弟が『賢者』とは救えねえなあ」
……は?
聖騎士はLLOでは弱くなかったはずなのだが。
攻守両方に優れ、バランスの取れた良い職業だ。賢者が実装されるまでは環境最強の職業としてサービス開始以来絶大な人気を誇っていた。
かくいう俺も転生するまで聖騎士を使っていたのだ。弱いはずがない。賢者と同じで多少は序盤に不利なのだが、レベルを上げさえすれば力の差は歴然だ。
「攻撃も防御も中途半端な『聖騎士』に、何しても使えない『賢者』。偉そうに町を歩きやがって。ほんと目障りだ」
「……」
セリカ姉さんは悔しそうに歯を食いしばっているだけで何も答えない。
どうやら姉さんも聖騎士であることを恥とでも思っていそうだ。
「そういうお前らはほんと小者っぽいよな。三人がかりで虐めて楽しいか?」
「ユーヤ!」
あっ……しまった。ムカついてつい口が出てしまった。俺は前世で先輩相手にこれをやっちゃったせいで同学年の間でも浮いてしまった。
浮いてしまったせいで友達ができなかった。こういうことを何度も繰り返してしまった。
いいかげん自重を覚えなければ。
「こ、この野郎……俺たちは全員『狂戦士』なんだぞ! そこまで言うなら覚悟はできてるんだろうな!」
……こいつら偉そうに言うからどんな職業かと期待したら『狂戦士』かよ。確かに初期ステータスと魔法は充実しているので初心者にはおすすめだが、中級者以上ともなると火力不足と防御力不足、主に前者に悩み続けることになる。狂戦士の廃人プレイヤーでもキャラメイクからやり直した者もいたという。
PVP(プレイヤー対プレイヤー)とモンスター狩りのどちらに特化しているわけでもなく、LLOでは一番の不遇職とされていた。
「覚悟だと?」
「ああ! そこまで言うんだ。決闘しろ! 逃げるんじゃねえぞ」
決闘。
ここまで喧嘩を売られて黙っておくほど俺は気が長くない。
「上等じゃねえか。受けてやるよ」
赤子の頃から言葉を理解することができていたおかげで、周りの大人たちの話に耳を澄ませていた。そうすることで断片的ではあるが、いろいろとわかってくることがある。
まず俺の名前はユーヤ・ドレイクというらしい。父さんがつけてくれたと聞かされた。
ドレイク家は田舎に住む下級貴族らしい。俺はその長男として生まれたのだ。
俺の見た目は父親に似たらしく、黒髪黒目の東洋風の見た目をしている。顔は前世とは違って幾分かかっこよくなっていた。
けれど長男であって第一子というわけではない。
「ユーヤまた本を読んでいるの?」
ドレイク家の長女、セリカが俺に話しかけてくる。
すなわち俺の姉だ。
母親似の金髪。それに相応しい精緻な顔を持ち合わせている。笑顔の破壊力は凄まじいものだ。
「俺は賢者だから……」
「そう……ね」
微妙な沈黙が流れる。
というのも、この世界では生まれた時に職業が与えられる。
ジョブにはいくつか種類があるが、俺の職業は賢者だった。
LLOで実装すぐに『壊れジョブ』『チートジョブ』などと言われていた職業だ。しかし、この世界ではあまり歓迎されていないらしいということがなんとなくわかってきた。
この世界では賢者は不遇職とされていた。
初期はパラメータが低く、使える魔法も少ない。レベルが上がれば強くなっていくのだが……。
「まあ、それはそれとして! 今日は何を読んでいるの? セリカお姉ちゃんが読んであげようか?」
セリカが読書中の本を覗き込んでくる。
ふわーっとした息が俺の頬に当たる。……この世界では俺は3歳で、姉は5歳だ。しかし……なんかドキドキしてしまうな。
中身は20歳を超えているのだが……俺ってロリコンだっけ。
しかしまあ、せっかく入社した会社を宝くじが当たったからと1年で辞め、貯金を崩しながらネトゲ三昧を送っていたダメ人間でも、男は男なんだ。デレデレするのは仕方がない。
「いいよ別に」
「そんなこと言わずにさあー、見せて」
「あっ」
厚い本を無理やり取り上げられた。
セリカが本を無言で読み始める。
次第に表情が険しいものに変わっていく。
「なにこれ全然読めない。この字なんて読むの?」
「だから読まなくていいって言ったんじゃないか。セリカ姉さんは本なんて読めないから」
「私が読めないのは当然よ! こんなの読めるユーヤがおかしいの! 三歳なら三歳らしく絵本でも読んでなさいよ」
「姉さんのために読んであげようか?」
「いいえ、別にいいわ! それよりお外行ってくる。ユーヤも来る?」
「どうしようかな」
「こんなところでずっと引きこもってたらロクな大人にならないわよ。一緒に来なさい」
俺は引きこもりという単語には敏感だ。
二度も同じ過ちを繰り返したくない。
「わかった。一緒についていく」
俺はセリカに本を返してもらい、本棚に戻しておく。
『初級魔法の心得:魔力操作編』という魔法教本を読んでいたのだが、とても興味深いものだった。
☆
改めてこの世界のことを紹介しよう。
結論から言って文化や町の様子はLLOと酷似していた。
ここがゲームの世界だと言われた方が納得できる。
家を出て、クーネの町の散策に出ると、点在する家々と畑が目に飛び込んでくる。
中世ヨーロッパ風の街並みにはもう慣れたが、いつ見ても異国を訪れたような気分になる。ゲームで見慣れていたはずの景色はディスプレイに映し出されるよりも高解像度で、視点もキャラを見下ろすのではなく、自分の目で見ることができる。
やったことはないが、VRゲームはこんな感じなのかもしれない。
「セリカ姉さん、どこいくの?」
「教会かなー」
「お祈りに?」
「うん」
教会は町の高台に位置している。俺たち二人は時々話しながら道を進んでいく。
その途中に三人の少年が待ち構えていた。
「来やがったな貴族のガキども!」
「ここは通さねえ」
「うひっうひっ!」
セリカ姉さんより一回りほど大きい少年が三人。
とりあえずセリフ順に少年A、少年B、少年Cと呼ぶことにしよう。
こいつらは町の悪ガキ少年として知られている。教会への道を塞ぎ、俺たちを通せんぼしようというのだ。
「どうしてもここを通りたかったら通行料を払え! 貴族なんだから金持ってんだろ!」
少年Aが難癖をつけてきた。もちろん少年たちは通行料の徴収を認められてはいない。
「いいわ」
セリカ姉さんは涼しい顔で答える。
キッと睨んで、
「そういうことならここは通らない。お祈りは週に一回で十分だもの。それじゃあ」
「おい、待てよこのクソガキ!」
……いや、クソガキはお前らだろ。めちゃくちゃむかつくな。
「なに? どうして邪魔するわけ?」
「お前らが貴族の娘と息子だからだ! 俺は気に入らねえ」
少年Aが嫌悪感を露わにした口調で吐き捨てるように言う。
子どものくせにこういうことを言うやつは大抵親の話を聞いているものだ。こいつらの親は貴族が嫌いなのだろう。
てか、喋ってるの少年Aだけだな。他も喋れよ。
「別に気に入ってほしいわけじゃないんだけど」
「いーや、貴族の娘ってだけで弱いくせに贅沢しやがって。そういうの不公平なんだよ!」
「……!」
「はっ、言い返せねえんだな。まあ、初戦お前らは負け組の職業、姉が『聖騎士』で弟が『賢者』とは救えねえなあ」
……は?
聖騎士はLLOでは弱くなかったはずなのだが。
攻守両方に優れ、バランスの取れた良い職業だ。賢者が実装されるまでは環境最強の職業としてサービス開始以来絶大な人気を誇っていた。
かくいう俺も転生するまで聖騎士を使っていたのだ。弱いはずがない。賢者と同じで多少は序盤に不利なのだが、レベルを上げさえすれば力の差は歴然だ。
「攻撃も防御も中途半端な『聖騎士』に、何しても使えない『賢者』。偉そうに町を歩きやがって。ほんと目障りだ」
「……」
セリカ姉さんは悔しそうに歯を食いしばっているだけで何も答えない。
どうやら姉さんも聖騎士であることを恥とでも思っていそうだ。
「そういうお前らはほんと小者っぽいよな。三人がかりで虐めて楽しいか?」
「ユーヤ!」
あっ……しまった。ムカついてつい口が出てしまった。俺は前世で先輩相手にこれをやっちゃったせいで同学年の間でも浮いてしまった。
浮いてしまったせいで友達ができなかった。こういうことを何度も繰り返してしまった。
いいかげん自重を覚えなければ。
「こ、この野郎……俺たちは全員『狂戦士』なんだぞ! そこまで言うなら覚悟はできてるんだろうな!」
……こいつら偉そうに言うからどんな職業かと期待したら『狂戦士』かよ。確かに初期ステータスと魔法は充実しているので初心者にはおすすめだが、中級者以上ともなると火力不足と防御力不足、主に前者に悩み続けることになる。狂戦士の廃人プレイヤーでもキャラメイクからやり直した者もいたという。
PVP(プレイヤー対プレイヤー)とモンスター狩りのどちらに特化しているわけでもなく、LLOでは一番の不遇職とされていた。
「覚悟だと?」
「ああ! そこまで言うんだ。決闘しろ! 逃げるんじゃねえぞ」
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「上等じゃねえか。受けてやるよ」
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