学院最弱の劣等魔法師、千年の時を経て最強になる ~努力チートで未来の魔法学院を最強無双~

蒼月浩二

文字の大きさ
1 / 8

プロローグ:落第魔法師は千年の努力を重ねる

しおりを挟む
「アキヤ・イナヅキ……残念だが、この成績では進級することはできないよ」

 学院長室に呼び出された俺は、留年となることを伝えられた。
 ヴィエール魔法学院の学則によれば、進級に必要な三十二単位を取得できなかった者は、留年処理になる。

 魔法のエリート校であるこの学院の入学試験に奇跡的に合格し、極東の島国から遥々はるばるやってきたのが四か月前。

 俺は入学と同時に落ちこぼれた。
 そして―――一学期に取ることのできる二十四単位の全てを落とし、留年が確定したのだ。

「……わかりました」

「一応不服申し立てもできるが、どうする?」

「結構です」

 足りないのは、二単位やそこらではない。俺の力では卒業することはできない。もう、頑張るだけ無駄だ。
 俺は留年を甘んじて受け入れ、学院長室を出た。

 学院の校舎を出て、広大な敷地の端にある洞窟――氷聖神域に入る。
 何万年も前にこの世界を創った神々を祀る場所だ。中は季節に依らず冷えていて、天井には決して溶けない氷柱つららが伸びている。

 この洞窟は学院の端にあること、神聖な場所であること。そして、祭事以外では使われない場所のため、普段は誰も人が寄り付かない。

 俺は一人になりたいときには必ずここで籠っている。
 いい感じに頭が冷えて、これからどうするべきかということが見えてくるのだ。……まあ、結果には結びつかなかったわけだが。

 洞窟の最奥の部屋には十三体の像が設置されている。これらの像はこの世界の創造神を模しているとされる。

 その中でも一際大きい氷の像がある。努力の神ルシエル。彼女はこの世界の時間を司る神とされ、長年の努力こそが人を成長させるという教えを残した。

 魔法の才能に恵まれなかった俺にとって、努力の神の存在が心の支えになっていた。
 俺はいつものように、ルシエル像の前で目を閉じ、祈りを捧げる。

 祈りが終わって、目を開けると、像の様子がいつもと違っていた。

「あれ……? いつもは目を閉じてたような……」

 いつも注意して見ていたわけではないので、勘違いなのかもしれないが、いつもは目を開けているルシエルが目を閉じていた。

「――アキヤ・イナヅキ、あなたは本当の努力というものをしていません」

 像が喋った……!? 口は動いていないようだが、何者かの声が聞こえてくる。

 俺は唇を噛み締めて、その声に答えた。

「……俺は、頑張ったよ。努力の限界までやった。それでもダメだった。これ以上どうしろって言うんだ! 答えろよ!」

「――確かに、あなたは努力を怠りませんでした。しかし、人間の限界を超えた努力……真の努力というものを知りません」

「そんなの知るかよ……」

「あなたが望むのなら、人間の限界を超えた努力の先に、真の力が見えてくるでしょう……」

 努力の先? 真の力?
 俺は物心ついてから十五歳になるまで、必死に勉強をして、鍛錬に打ち込んだ。それ以上の努力があるか?

「ふざけるなよ。そんなものがあるなら、俺はとっくの昔にやってたよ!」

「――あなたの望みをかなえましょう」

 この一言を最後に声は聞こえなくなった。
 突然俺の視界が真っ暗になり、意識が遠のいていく――。

 ◇

「ここはどこだ?」

 さっきまで洞窟の中にいた俺は、どこかわからないが部屋の中にいるようだった。その部屋には何万冊もの本が書架に並べられている。まるで図書館だ。
 他にはカレンダーと時計が設置されているくらいもので、ほとんど何もない部屋だった。

 部屋がいくつかに分かれており、何もない広い部屋や狭い部屋。水が溜まっている部屋などバラエティ豊かである。

 ……だが、全ての部屋を隅々まで探しても、扉が見当たらない。
 変だと感じたのはそれだけじゃない。さっきまで少しだけ感じていた空腹感や喉の渇き、眠気すらなくなっていた。

「人間を超えた真の努力……まさかな」

 どこの誰が言っているのかすらわからないあんな言葉を信じるほど俺は子供じゃない。俺は多分、夢を見ているんだろう。

 ペチッ。

 頬を思い切り叩いてみた。
 ……痛いだけで、眠りから覚めることはない。

「いやいやいやいや、嘘だろ!?」

 本当にこんなところに閉じ込められたってのか!?
 床をドンと蹴ってみても、下には固い地盤があるようで微動だにしない。天井を近くにあった筒状のものでつついてみても、ビクともしなかった。

 どうやら、本当に閉じ込められてしまったらしい。
 ……しばらくしたら誰かが助けてくれるか。

 ヴィエール学院生は、卒業あるいは中退するまで、特別の許可なしには外に出ることはできない。俺がいないと気づけば、捜索に出るはずだ。きっと見つけてもらえる。

 ――一日が経った。
 誰も助けに来なかった。それどころか、声すら聞こえてこない。ここが学院の中なら、何か声が聞こえてこないとおかしい。酸素があるということは、空気穴のようなものがあるはず。そこから少しでも何か声が聞こえてきてもいいはずだ。

 それなのに、俺の出す物音以外シーンとしていた。

「……本でも読むか」

 書架には一から十までの番号が並んでいて、書架の本一つ一つに番号が振ってあった。
 この順番に読めってことか?

 俺は一番目の書架の、一番目の本を手に取った。
 表紙が皮の装丁になっていて、なかなか高級感がある。ページ数は三百ページほど。どの本も厚みはそれほど変わらない。

 その本には、基本的な魔法の使い方や、概念が書き記してあった。
 嘘か本当かわからない情報ではあるが、新しく見聞きする情報がたくさん載っていた。

 一冊目の本を読んでわかったことは、俺が今までやってきた努力はほとんど意味がなかったということだ。まったく意味がないということはないが、基礎を造らずに家を建てるようなもので、練習方法そのものが間違っている。学院で教えられていたことには、かなりの間違いがある。――この本を信じるなら、そんなことが書かれていた。

 それから、俺は面白くなって本を読み始めた。
 本を読む以外にやることがなにもないので、自然な流れだったように思う。
 どの本も期待を裏切らず新鮮だった。

 ――百年が経った。

 百年を飲まず食わず、無睡眠で過ごしたが、身体が老化することはなかった。

 その間に全ての本を何度も読み返した。その結果――俺はついにこの部屋を脱出する方法を発見したのだった。ここにある本を読むことによって俺を閉じ込めた仕組み、脱出の方法がわかった。

「空間に穴を開けて、この世界を破壊する……か」

 この世界は、俺のいた世界とはまったく別の場所に存在しているということが分かった。誰も外部から入ってくることはできないし、戻ることもできない。

 だが、この空間を内包する座標も確かに存在し、この空間を破壊することで元の世界に戻れる可能性があることがわかった。

 だが、そのためには問題があった――。

「魔法が……魔法の技術があまりにも足りていない」

 空間に穴を開け、破壊するためには物理的なものじゃ不可能だ。魔法による強制的空間干渉を行い、膨大な魔力を使ってこじ開ける。

 そのためには魔力量も、技術も、何もかもがまったく足りない。
 でも、幸いにしてそれらを引き上げるためのノウハウを、俺は知っている。

 膨大な数の本を何度も読み、正しいトレーニング方法を知った。
 時間さえかければ、絶対にできる。
 そんな自信があった。

 それからの俺は、努力に明け暮れた。
 魔力を限界まで使うことで最大値を引き上げ、基礎魔法のコントロールをマスターし、空間に穴を開けるための具体的な魔法の作り方を考えた。

 そして千年後――。

 全ての準備は整った。
 今なら、あの声……ルシエルが言っていた人間を超えた真の努力の意味がわかる。
 たった十年そこらの努力で、本当の意味で魔法を極めることなんてできない。人間では到底たどり着けない千年という時間をかけることで、ゆっくりでも確実に魔法の腕を磨くことができた。

 さあ、行こう。元の世界へ。
 俺は【剣製】で光り輝く魔法の剣を生成し、右手でしっかりと持った。

 これが俺の、千年の時間をかけて出した答えだ!

「【終焉世界ワールドエンド】!」

 剣を振り下ろすと、空間に切り込みが入った。

「うおおおおおおおおおおおお!!!!」

 俺は全力で切り込みを広げていく。人が通れるくらいの大きさになった。
 切られた空間の周りから、徐々に消滅していく。
 そう。この魔法の構造上、この世界にいるままだと俺は消滅してしまうのだ。

「さよなら、そしてありがとう」

 俺は、俺を育ててくれた本たちに挨拶をして、切り込みのなかに飛び込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...