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3話 魔界の情勢

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「―――ということなのよ」

 彼女の説明によると、地球は人間界、天界、魔界の三世界があり、いま僕がいるこの世界(魔界)は七つの国から成り立っている。七つの国の王は称号として大昔の七大悪魔の名を冠名としている。
 僕らがいるこの国はエイジアと言い、サタンの称号を持つ先ほど城にいた初老の男、ミハイロ王がこの国を治めている。ただ、魔界は今、かなりの危機的状況にあるらしい。

 四年前、ある一人の危険な思想を持つ天使が天界を追われ魔界にやってきた。バルサロッサというその天使は天使である事を捨て、堕天使に身を堕とす。

 堕天使となったバルサロッサは、魔界を自分の思想で征服するために、まず手始めにルシファーの称号を持つ魔王が治める国を乗っ取り、危険な思想を民に植え付けた。
 バルサロッサは従わない者たちへは完膚なき制裁を加えた。こうして、バルサロッサは自分の思想を支持する国、『クラシカル』を創り上げた。

 それからわずか三年で、さらに四つの国を攻め落とし、占領する度に見せしめとして各国の魔王と従わない側近は皆殺しにされた。
 そこでも奴の思想に従わない民にも制裁を加え、自分の忠臣を支配した国々に配置している。

 現在、侵攻が止まっているのはバルサロッサが最後に攻め落とした国で大きな傷を負い療養中のためらしい。しかし、奴の傷が癒えたら、じきにエイジアにも侵攻してくるだろうとの見解らしい。

「バルサロッサの強さは堕天使ルシファーの再来ともいわれているわ。古の七大悪魔、その中でも桁違いの魔力があった魔王ルシファーとね。あたしも奴の強さを一度、目の当たりにしたことがあるからわかるけど、あれはやばかったわ」

 ようやく現実味を帯びてきて、頭も認知してきたが、これって、なんかとんでもない世界に召喚されたよな……。

「なによ、その引きつった顔……?」
「いや、ははは」
「で……他に聞きたいことは?」
「えっと、魔力ってなんなの?」

 ミランは「う~ん」と唸りながら艶のある銀髪の毛を指でいじり、口を尖らせる。

「そうねぇ……百聞は一見にしかずね。見てて」

 ミランは右人差し指を立てた。すると、その指先から拳大くらいの炎が湧き上がった。

「あつっ!」と僕は思わず声を出した。一瞬で空気が熱を帯びたのだ。

「空気中の魔気をレクイジションして魔力に変えて炎を放出したの。これがーーー」

 彼女が説明を続けようとした時、エプロン姿の店員が走り寄ってきた。

「お客様、ここでそのような魔法はお控えくださいませ」
「あっ、すいません」

 ミランは気まずい顔をして、小さく会釈する。
 店員が立ち去ると、

「テヘッ、やっちゃた」

 ミランは舌をペロッと出し、いじらしい表情をした。二次元ばりに可愛い……。
 いつまでも見飽きない表情だったが、銀髪の少女はすぐに真顔に戻り、

「今のがいわゆる魔法と言われるものね。魔界には魔気が空気中に溢れていて、悪魔はそれを取り込むことができるの。逆に言えば、魔気がない所では、あたし達は生きていけないの。人間界には基本的に魔気が存在しないから、あたし達が人間界に侵入した時点で魚が水がなくて苦しむのと同じような状態になるわ」
「魔気って、人間でいうと酸素みたいなものってこと?」

 彼女はその黒く澄んでいる瞳をなにかを考えるように上げて、難しい顔をした。

「まあ……そういう解釈で間違ってはいないんだけど、魔気は悪魔によってレクイジション(接収)できる量が決まってるの。より多くの魔気を取り込んで自分の魔力にできる悪魔は強力な魔法を生み出せたり、身体能力を大幅に向上させたりできるの」

 なんだその中二病が飛びつきそうな設定は!?
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