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11話 学園襲撃

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 ミランがカメリアへ出発して、5日が過ぎた。
 エイジアでの日常生活では、まだ戦争の気配は感じない。ただ、連日カメリアでの戦いの状況は報道されている。どうやら、大規模な侵攻ではなかったため、膠着状態にあるとのことだ。
 僕は午前の初等部の授業を終えて、学園の食堂でノーファと食事を摂っていた。

「ミランいつくらい戻ってくるのかな?」

 僕は食後のコーヒーをひとくち、口に含んだ。

「わからない。奴らが退けば戻ってくる」

 ノーファの表情に変化はない。平常運転の彼女に心なしかホッとする。

「大丈夫かな?」
「ミランは強い」
「そ、そうだよね」

 わかってはいるけど、心配なんだよな。

「無理してなかったらいいんだけど……」
「アレルは寂しいのか?」
「えっ」
「そう、顔に書いてある」
「えっ!?」

 僕は慌てて顔を触った。

「例えだ」
「はは……」

 恥ずかしい行動を取ってしまった……。

「レベルレッドは簡単にはやられはしない。バルサロッサ以外の悪魔にはそうやすやすとやられない」
「う、うん」
「来たるべきのため、授業に戻る」

 来たるべき、というのはクラシカルとの戦だ。足手まといにならないためにも、強くならないとな。
 僕は頷き、席から立とうとした。
 その時だった。聞いたことがないサイレンが鳴り響いた。
 食堂にいる生徒たちが一斉にざわつく。それが尋常じゃない事態だということを窺わせる。なにが起こってるんだ!?

「ノーファこれは?」
「アレル、いつでも戦える準備をする」

「なんで?」と訊こうとした刹那、窓がバリーン! と大きな音を立てて砕け散った。  
 次々に複数の黒ずくめの人が突入してきた。こいつら何者……えっ!
 炎がほとばしり、窓際に座っていた生徒が焼かれた。悲鳴があがり、いきなり現れた黒ずくめの奴らのせいで、瞬時に食堂はパニックに包まれる。
 なんだよ、これ……。

「アレル、魔装する」

 恐怖から体がガタガタ震えるが、ノーファのその言葉で覚悟が決まる。
ここが死に場所なのか?  それならそれでいい、どうせ拾った命だ、と。

「どうするの? ノーファ」
「私達が逃げたら、この食堂の生徒たちは全滅する」

 ノーファはすでに臨戦態勢に入っている。尾がグリーンに輝いていることでわかる。奴らの尻尾の色はブルーだ。こちらの生徒は見たところ僕ら以外、ホワイトばかりだ。
 錯乱しているのか、逃げ惑う者が多い。そんな中応戦する者もいるが、次々にやられていく。さっきまでの日常が嘘のようだ。こんなにも突然に状況が180°C変わるものなのか……!?

「アレル、自信を持つ」

 ノーファはいまだに小刻みに震える僕の手を優しく握る。
……幾分心が落ち着き、震えが治まる感じがした。
 ノーファはそれがわかったのか、僕を見て頷き、生徒を救うため、奴らめがけて走り出した。
 次の瞬間、制服からして、中等部らしき女のコが僕の足元に吹き飛ばされてきた。

「ごふっ!」

 見たこともない量の血を吐いた。

「だ、大丈夫?」

 屈んで介抱しようと試みた。

「ハアハアハア」

 彼女は呼吸が荒く、苦しみで表情が歪んでいる。それなのに、力なく吹き飛んで来た方向を指さした。
 そちらに目をやると、侵入者のひとりがこちらに向かってくる。こいつがやったのか……。黒ずくめの男は僕と目が合うなり、スピードを上げた。
 カラダが奴の攻撃に反応し、自然と動く。奴の猛然とスピードに乗ったパンチを寸でのところで首を横に振り躱し、魔装で強化された拳を奴の腹めがけて突き上げた。

「がはっ!」

 奴は体をくの字に折り曲げながら、後退り突っ伏した。

「君、大丈夫……?」

……そんな……嘘だろ!? 彼女はぐったりとし、息をしていなかった。目の前で人が死ぬ……ここは戦場なのだ、と認識するにはあまりにも十分な犠牲だ。
 くそっ! 周りを見渡すと、応戦している生徒がいるが、やはりホワイトでは厳しい。
 そうだ、ノーファは? 彼女の方に目を向けると、

「氷の芸術(アイスアート)」

 ノーファは三人の敵を瞬時に凍りづけにする。さらにもう二人、彼女の足元に這いつくばっている。
 さすが学園最強と謳われるだけのことはある。
 だが、まだ奴らは多勢にいる。僕だってやれるんだ! やらないといけない! ここにいるみんなより魔力が高いはずの僕が!

 侵入者を倒すため、走り出した。
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