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29話 裸足の少女
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エパスを出発して、すでに5日目だ。快調にクラシカル本国に向かっている。
この世界は中心に天空までそびえ立つ魔界樹という大木を七つの国が囲むようにして、ほぼ均等の国土面積で成り立っている。
現在はエイジア、カメリア以外はすべてクラシカルの領国になっているが……。
クラシカル本国はエイジアからは対極に位置する。もちろん、エイジアの東隣に位置するカメリアに至ってもクラシカルまでの距離は同じだ。そびえる魔界樹を越えることはできないので、クラシカル本国に侵入するには、魔界樹を迂回しなければならない。よって、二つの国を跨がなければならないのだ。
僕らの現在地はエイジアの西隣に位置する元ダーマという国を北西に縦断している途中だ。もちろん、バルサロッサの支配が及んでいる国なので、奴らのテリトリーである。
スマホも奴らの領内では魔電波が違うので使用できない。
正規ではないルートを進んでいるのと、ユニコーンの索敵スキルが相まって、今のところ敵と遭遇するようなミスもない。
ただ、それなりのルートなので、峠や森もあり、時間がかかるのが難点だが。
「この辺りでそろそろ休憩にしましょ!」
ミランの提案で林の中の少し開けた場所で僕らは立ち止まり、ひと息つくことにした。
木々の合間から顔を覗かせる太陽は真上に位置している。
所々、差し込む日の明かりのおかげで林の中にあっても暗さを感じない。
「おい、アレル! あんたいつまで姐様の腰に手ぇ回してんねん。早よ降りや! このエロ立たず!」
ミランを崇拝するルンが僕に罵声を浴びせた。
エロと役立たずが混じった酷い造語だけど、解釈のしかたでは違う意味に取られそうだからやめてねっと心の中で思う。
この青髪のおてんば娘はミランのことをリスペクトしすぎていて、ミランの後ろに乗る僕が気にくわないのだ。それにしても口が悪い。
お姫様は綺麗な言葉を使うというのは幻想なのか!?
僕はセキトバから降りる。いつまでも乗っていたら、次の罵声を浴びせられてしまうからな。
「姐様、やらしいことされへんかった?」
「大丈夫よ。まあでも、アレルがやらしいことは否定しないけど」
ジト目を僕に浴びせるミラン。先日の宿でのことを言っているんだろう。
「ふふふ」と馬上で笑うエルナ。
「だから、あれは誤解だって!」
「誰かいる……」
沈黙を守っていたノーファがいつもの口調で呟いた。その言葉で場の空気が一変した。
ノーファの視線の先の青々とした茂みの奥が不気味にガサガサと音を立てる。
瞬時に全員が身構えた。
ユニコーンの索敵範囲は半径500メートル。セキトバに至ってはもう少し広い。それに引っかからないなんておかしいのだが。
静寂が辺りを包む。鳥の鳴き声と風にそよぐ木々の音だけが無作為に耳に届く。緊張の汗が頬を伝う。
次の瞬間、ガサッという音ともに茂みから這い出てきたのは一人の女の子だった。
「……助けて」
弱々しく消え入りそうなか細い声でそう告げて、年端もいかないその女の子は気を失った。
気絶してしまった女の子を僕らは介抱する為に、持参している毛布の上に寝かせた。
彼女はいくつか手足にすり傷や切り傷を負っており、着ている薄黄色のワンピースも泥で所々汚れている。しかも、裸足なのだ。
どうやら必死にどこかから逃げてきたらしいことは推測できた。ユニコーンの索敵スキルで捉えられなかったのは、彼女の魔力が感知できないほどに消耗しすぎていたことで説明がついた。
10分後。
女の子は悪夢でも見ていたのか、うなされ声と共にゆっくりと目を覚ました。
最初、焦点が定まってはいなかったが、定まりだすとすぐに眼球を右往左往させた。瞳の奥にはあきらかな怯えの色を伺わせる。
「ここは? お姉さん達は誰?」
「あなたの敵じゃないことは確かね。あなた、なにかから逃げてこの林の中にやってきたみたいよ。覚えてない?」
心配する眼差しのミランにそう言われ、女の子はすぐにハッとした。
「助けて! お姉さん! お母さんが殺される!!」
今にも泣き出しそうな表情で切実に訴える女の子。
「お母さんが……お母さんが……ひぐっ」
嗚咽混じりに言葉を吐き出す。
ミランは屈み、女の子の目線に合わせ、肩にそっと手をやった。
「落ち着いて。あなた名前はなんていうの?」
「……パルラ」
「パルラ、お母さんがどうして殺されそうなの? ゆっくり、慌てずに話してもらっていいかな?」
ミランは彼女を落ち着かせるように、優しい笑みと優しい声色で言った。
パルラは泣くのを我慢するかのようにごくりと唾を飲み込み、数度頷いた。
この世界は中心に天空までそびえ立つ魔界樹という大木を七つの国が囲むようにして、ほぼ均等の国土面積で成り立っている。
現在はエイジア、カメリア以外はすべてクラシカルの領国になっているが……。
クラシカル本国はエイジアからは対極に位置する。もちろん、エイジアの東隣に位置するカメリアに至ってもクラシカルまでの距離は同じだ。そびえる魔界樹を越えることはできないので、クラシカル本国に侵入するには、魔界樹を迂回しなければならない。よって、二つの国を跨がなければならないのだ。
僕らの現在地はエイジアの西隣に位置する元ダーマという国を北西に縦断している途中だ。もちろん、バルサロッサの支配が及んでいる国なので、奴らのテリトリーである。
スマホも奴らの領内では魔電波が違うので使用できない。
正規ではないルートを進んでいるのと、ユニコーンの索敵スキルが相まって、今のところ敵と遭遇するようなミスもない。
ただ、それなりのルートなので、峠や森もあり、時間がかかるのが難点だが。
「この辺りでそろそろ休憩にしましょ!」
ミランの提案で林の中の少し開けた場所で僕らは立ち止まり、ひと息つくことにした。
木々の合間から顔を覗かせる太陽は真上に位置している。
所々、差し込む日の明かりのおかげで林の中にあっても暗さを感じない。
「おい、アレル! あんたいつまで姐様の腰に手ぇ回してんねん。早よ降りや! このエロ立たず!」
ミランを崇拝するルンが僕に罵声を浴びせた。
エロと役立たずが混じった酷い造語だけど、解釈のしかたでは違う意味に取られそうだからやめてねっと心の中で思う。
この青髪のおてんば娘はミランのことをリスペクトしすぎていて、ミランの後ろに乗る僕が気にくわないのだ。それにしても口が悪い。
お姫様は綺麗な言葉を使うというのは幻想なのか!?
僕はセキトバから降りる。いつまでも乗っていたら、次の罵声を浴びせられてしまうからな。
「姐様、やらしいことされへんかった?」
「大丈夫よ。まあでも、アレルがやらしいことは否定しないけど」
ジト目を僕に浴びせるミラン。先日の宿でのことを言っているんだろう。
「ふふふ」と馬上で笑うエルナ。
「だから、あれは誤解だって!」
「誰かいる……」
沈黙を守っていたノーファがいつもの口調で呟いた。その言葉で場の空気が一変した。
ノーファの視線の先の青々とした茂みの奥が不気味にガサガサと音を立てる。
瞬時に全員が身構えた。
ユニコーンの索敵範囲は半径500メートル。セキトバに至ってはもう少し広い。それに引っかからないなんておかしいのだが。
静寂が辺りを包む。鳥の鳴き声と風にそよぐ木々の音だけが無作為に耳に届く。緊張の汗が頬を伝う。
次の瞬間、ガサッという音ともに茂みから這い出てきたのは一人の女の子だった。
「……助けて」
弱々しく消え入りそうなか細い声でそう告げて、年端もいかないその女の子は気を失った。
気絶してしまった女の子を僕らは介抱する為に、持参している毛布の上に寝かせた。
彼女はいくつか手足にすり傷や切り傷を負っており、着ている薄黄色のワンピースも泥で所々汚れている。しかも、裸足なのだ。
どうやら必死にどこかから逃げてきたらしいことは推測できた。ユニコーンの索敵スキルで捉えられなかったのは、彼女の魔力が感知できないほどに消耗しすぎていたことで説明がついた。
10分後。
女の子は悪夢でも見ていたのか、うなされ声と共にゆっくりと目を覚ました。
最初、焦点が定まってはいなかったが、定まりだすとすぐに眼球を右往左往させた。瞳の奥にはあきらかな怯えの色を伺わせる。
「ここは? お姉さん達は誰?」
「あなたの敵じゃないことは確かね。あなた、なにかから逃げてこの林の中にやってきたみたいよ。覚えてない?」
心配する眼差しのミランにそう言われ、女の子はすぐにハッとした。
「助けて! お姉さん! お母さんが殺される!!」
今にも泣き出しそうな表情で切実に訴える女の子。
「お母さんが……お母さんが……ひぐっ」
嗚咽混じりに言葉を吐き出す。
ミランは屈み、女の子の目線に合わせ、肩にそっと手をやった。
「落ち着いて。あなた名前はなんていうの?」
「……パルラ」
「パルラ、お母さんがどうして殺されそうなの? ゆっくり、慌てずに話してもらっていいかな?」
ミランは彼女を落ち着かせるように、優しい笑みと優しい声色で言った。
パルラは泣くのを我慢するかのようにごくりと唾を飲み込み、数度頷いた。
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