100日後、巨大隕石落下

橘靖竜

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第一章 隕石発見

Day96 静かな亀裂

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《日本・総理官邸 危機管理会議室》

薄暗いモニターに映るのは、青い地球と赤い軌道線。

オメガ。直径220メートル。衝突確率、11.7%。

「二桁に上がったか……。」
防衛大臣・佐伯が低く呟く。

「この数字、もう“誤差”とは言えません。」

総理・鷹岡サクラは静かに腕を組む。

「黒川先生、科学的には“確定”と見ていいのかしら。」

科学顧問・黒川教授が眼鏡を押し上げた。

「まだ観測時間が短い。三日もすれば確率はまた変動します。

発表すれば“地球滅亡”と騒がれるだけです。」

「では、報道対応は?」


中園広報官が手を挙げる。

「“観測中の天体についてはコメントを差し控える”方針で行きます。

ただしSNSでは、すでに“NASA隠蔽説”が拡散中です。」

サクラは静かに息をついた。

「情報を隠せば炎上、出せば混乱。……どっちも正しい。

でも“沈黙”が一番危険なのよ。」

危機管理監・藤原が淡々と言う。

「国を守るには、“どの段階で真実を出すか”がすべてです。

過去の災害でも、早すぎる情報開示は混乱を呼びました。」

「つまり、“出すな”と?」

「“まだ出すな”です。」

会議室の空気が重く沈んだ。

誰もが正しい――だからこそ、意見が分かれる。


《外務省 国際通信室》

外務大臣・田島が電話を握りしめていた。

「ホワイトハウスの科学顧問から再通達。“米国はすでに対策検討段階に入った”と。」

「……“検討段階”というのは、“もう動いてる”という意味だな。」

後ろで補佐官がつぶやく。

田島は頷いた。

「アメリカは“隠しつつ準備する”タイプだ。

日本が黙っていれば、世界から“何もしてない国”と見られる。」

補佐官が画面を指差す。

「ですが、国内向けには“安心を与えるメッセージ”を求める声も。」

田島は小さく笑った。

「外交も政治も、結局“言葉の使い方”だな。」


《アメリカ・ホワイトハウス/安全保障会議》

ルース大統領は資料を見ながら、補佐官に言った。

「日本政府、まだ沈黙を続けているのか。」

「はい。サクラ首相は“国民の冷静さを守るため”と説明しています。」

ルースは短くうなずく。

「彼女らしい。だが、時間は待ってくれない。

NASAには“最悪のシナリオ”を想定させろ。

……そして、JAXAにも知らせておけ。彼らは動きが早い。」

「しかし、日本政府が承認しないと――」

「構わん。科学者同士で繋げ。」

ルースの声には焦りと、どこか温かさが混ざっていた。

「政治家は嘘をつく。でも科学は、嘘を嫌う。

だからこそ、両方が必要なんだ。」


《日本・JAXA/ISAS 相模原キャンパス(軌道計算・惑星防衛)》

白鳥レイナは観測データを見つめていた。


「誤差範囲0.1度。もはや“接近確定”ね。」

部下が囁く。

「主任、政府はまだ沈黙を?」

「ええ。私たちが言っても、“国民が混乱する”の一点張りよ。」

「でも、国民には知る権利があるのでは?」

白鳥は画面を閉じた。

「“知る権利”と“守る義務”は、いつもぶつかるの。」

静かな間。


ふと、画面の隅に“暗号通信:JPN-GOV”と表示が出る。


差出人は官邸。
件名には――
“科学顧問会合・首相参加”

白鳥は目を細めた。

「……ようやく動いたのね。」


《日本・総理官邸 科学顧問室》

小さな円卓。

白鳥と黒川、サクラが向かい合って座る。

レコーダーが“ピッ”と鳴り、会議が始まった。

「黒川先生。あなたの意見は理解します。
でも、私は“何も言わない”ことの方が恐ろしい。」

黒川が答える。

「総理、科学とは“確定してから話す”ものです。

もし誤報なら、政府への信頼は地に落ちます。」

「でも、もし“確定してから”じゃ遅かったら?」

黒川は黙った。
代わりに白鳥が口を開く。

「総理。JAXAの立場としては、“観測を継続”しながら、

“説明の準備”を進めるのが現実的です。」

「“説明の準備”ね。」

サクラはメモを取りながら言った。

「国民に“恐怖”じゃなく、“理解”を渡す方法を考えましょう。」

白鳥は小さく頷く。

「そのためなら、どんな数式でも噛み砕いてみせます。」

サクラが微笑む。

「それ、頼もしいわ。政治家より説得力ありそう。」

黒川が咳払いをした。

「では、“広報文”は科学監修を前提に。」

「ありがとう。
……でも、“広報文”じゃなくて、“真実の言葉”でね。」

その一言に、二人の科学者は息をのんだ。

総理の声には、確かな意志が宿っていた。


《記者クラブ・夜》

桐生誠が原稿を書きながら、画面を見ていた。

#オメガ

#JAXA内部告発

#太陽の死角

まだデマの域だが、数字と文言がリアルすぎる。

「本当に……何か起きてる。」

デスクにいた上司が言う。

「書くな。確証がないニュースはデマと同じだ。」

桐生は画面を閉じた。

だが胸の奥では、確信が形になりつつあった。

「何かが隠されている。」


《日本・総理官邸 夜》

サクラは窓辺に立ち、静かに東京の光を見下ろした。

街は何も知らずに輝いている。

その光景が、かえって痛かった。

「……藤原、次の段階に備えましょう。

“国を守る”とは、“恐怖を抑えること”じゃない。

“恐怖に飲まれない準備”をすることよ。」

外では、冬の風が吹いていた。

その夜、誰も知らないまま、世界はまた一歩、崖に近づいた。


本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.
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